復讐 1
『どうも、ジェイクさん。リアさんを私の元へ嫁がせる気にはなりましたかァ?』
ねっとりとした笑みを浮かべジェイクへと問いかける商人。
ジェイクは一瞥すると眉をひそめすぐに視線を外した。
ジェイクの手元にはリアがダンジョンで使う際のポーションや薬草、補給食等の在庫表が広げられている。
そこには普段仕入れている場所と値段が記載されているのだが、何故かここ最近は融通してくれる所が減り値段も倍以上に跳ね上がっていた。
『アッハッハッハ!最近何故か必要な備品を出してくれる所が少なければ、値段もとても高いなァとてもお考えですかァ?』
『……まさか』
ジェイクが驚いた顔で商人を見ると、商人の笑みはますます深くなる。
その笑みを見てジェイクは怒りを露わに、机を叩いて立ち上がった。
机に薄っすらとヒビが入ったのが、どれだけ怒っているのかを表している。
『おー怖い怖い。私も詳しくはわからないんですけどねェ?リアさんを私の妻とする許可さえ頂ければ全て戻る気がなんとなくするんですよねェ』
実際にこの商人が圧力をかけ、ジェイクの元に届きにくく根回しをしていた。
自分がやったとは口にはしていないが、明らかにそれを匂わせリアを寄越せば圧力を解除すると言い放った。
薬草やポーションは生命線であり、危険なダンジョンに潜る上で必要不可欠だ。
更にこの国では地上で薬草類が採れず元々割高な物である、それが倍以上の値段へと跳ね上がるとダンジョンで死なない為に普段の生活が送れなくなるという本末転倒な状況へと陥ってしまう。
『貴様ッ!』
ジェイク1人であればそれでもなんとかしていたが、大切な愛娘が死か理不尽な望まない婚約の2択を迫られているのである。
完全に頭に血が上り商人へ掴みかかろうとした歩を進めると、護衛が動いた。
1人がジェイクの前へと立ちはだかり、接触する瞬間腰の短剣を抜きジェイクの腹へと刺した。
それでも怒りに身を任せたジェイクは止まらない、そのまま目の前の護衛の首を捻じり命を絶つ。
商人が一歩後ろへ引き指輪に魔力を込めると、2人の間に不可視の壁が現れ行く手を阻んだ。
その間にジェイクの後ろへ回ったもう1人の護衛が背中を切りつけ、剣を突き刺す。
それでもジェイクは止まらない、自分の命と引き換えに目の前の商人を屠る為に。
ジェイクの手が光を帯びる。そのまま不可視の壁へと殴りかかると、パリンという音がして砕け散った。
先程とは別の指輪に魔力を込めると、今度は土の分厚い壁が2人の間へと立ちふさがる。
鬱陶しいとばかりに腕を振るって、背中に突き刺した剣を更に深く刺そうとする護衛を吹き飛ばす。
勢いはそのまま再び拳に光りが宿り土壁をぶち壊した。
その奥にいる商人へと殴りかかろうと飛び出した時、ふと糸が切れたかのように地面へと倒れた。
『ふゥ、全く強力な即効性の毒を何度も体内に入れられてるのに……どんな化け物なんですか、貴方は』
既に事切れたジェイクを前につい愚痴をこぼしながら指を鳴らすと、ゴロツキが3人現れた。
ゴロツキ達は慣れた様子で死んでしまった護衛を運び出し、ジェイクに刺さったままになっている腹と背中を剣を抜き取る。
そして商人とゴロツキ達は建物を立ち去っていった。
◇◆◇
映像が始まると同時にリアが正気に戻ったとツキミが透を呼びに来た。
どうせならと3人で2日前の映像を見ていた。
「あの野郎ッッッ!私のお父さんをッッ!ブッ殺すッッ!」
そう言って怒りを露わにリアは扉を蹴破り飛び出していった。
その様子に唖然とし1拍遅れてしまったが、透とツキミもリアを追って走り出す。
「おい、正気に戻したんだよな……?」
「もしかしたらあれがリアの本性なのかもしれないのだ……多分きっとそうに違いないのだ!」
早口で捲し立てつつ、ツキミはスッと目を逸らす。
それを訝しんだ透の追求は止まらない。
「おい、何したんだよ」
「なっなにもしてないのダっ!?」
目は逸らしたまま、少し裏声になって確実に焦り始めるツキミ。
透から逃げようとしているのか、早くリアに追いつこうとしているのか、ツキミの駆け足は速くなる。
勿論一緒に鍛えてる透が置いて行かれるはずもなく、ピッタリと横に並んでジト目を送る。
「で?何したんだ?」
「……覚醒草っていう草を嗅がせたのだ。精神異常の魔術がかかっていればそれを解除してくれるのだ!ただ……副作用でちょっと暫く興奮するっていうかー、感情的になりやすくなるというかー、怒りっぽくなるのだ」
チラッチラッと透の様子を伺いながらリアに嗅がせた気付け薬の効果を話すツキミ。
納得がいったのか透はため息を1つ吐き、リアへと追いつく為に速度を上げた。
暫く走ると馬車が10台は停めれそうな程大きな庭を持った豪邸へと辿り着いた。
固く閉ざされた門をリアが再び蹴破る。
扉に取り付けられていた魔道具が発動し、屋敷の中で警報を鳴らす。
屋敷の中から常に雇われている10人の私兵を従えた商人が現れた。
「おや、リアさん。先ほどぶりですね。そんなに早く私に会いたかったのでしょうか」
胡散臭い笑みを張り付けた商人がリアに話しかけるが、決して警戒を怠ってはいない。
商人の前には私兵が既に剣を抜き、油断なく3人を睨んでいる。
「お前がぁッ!私のお父さんを!殺したんだろうッ!地獄で償えッ!」
リアが身体強化をかけ全身が緑色に発光する。
商人に向かって一直線に駆け出し、2本の短剣を振るう。
だが、商人の前にいる私兵に簡単に躱され、元の場所へと後退を余儀なくされた。
そんなリアから視線を外し、やれやれといった様子でため息を吐いた商人は、透とツキミを見た。
「全く余計な事をしてくれましたねェ。あの2人は殺して……いや、よく見たら猫娘の方は中々な上玉じゃないですかァ!男だけ殺しなさい、猫娘とリアさんは生きてさえいれば回復もできますしねェ、切り刻んでも結構ですよォ」
「承知致しました」
私兵のリーダー格の男が返事をし、私兵達は散らばった。
商人の護衛としてリーダーともう1人、リアへ2人、透とツキミの元へ6人が襲い掛かる。
「おい!リア!怒りに身を任せるな!動きが単調になるぞ!」
「うるさいッ!黙れッ!」
久々にガンブレイドモードのルドニールを具現化し、私兵達の攻撃を捌きつつリアへと声をかけるが一蹴される。
舌打ちを1つし、ツキミへと話しかけた。
「速攻でこいつら制圧してリアの応援にいくぞ」
「でもリアなんか凄そうなのだ」
既に緑の光が残像となり尾を引いて敵を翻弄するリアを、見て首を傾げるツキミ。
勿論会話をしているからといって敵は待ってはくれない、その間にもツキミに向かって斬りかかってくるが、猫モードへと変わりちょこまかと移動し軽やかに斬撃を避ける。
「怒りに身を任せてるうちはダメだ、すぐに軌道を読まれるようになるぞ」
「そういうもんかなのだ」
「え、多分な?なんか昔そんな感じだって聞いた事がある気がする」
「え?あんな自信満々に叫んで、そんな不確定なのだ?」
ツキミから冷たい視線が飛ぶが、目の前の敵に集中するフリをして絶対に目を合わせない。
そんな呑気な会話を繰り広げつつもしっかりと自分達の攻撃を躱す2人に、私兵達は少しずつ苛立ちを募らせていった。




