下層探索 3
死の弾幕がモンスター達の身体に穴を開けていく。
目の前で大量の同胞の命が散っても鈍る様子を見せないモンスター。
1匹、また1匹と屍が積み重なるが、それを超え奥から新しいモンスターがやってくる。
湯水のごとく魔力をルドニールへと流し、ただひたすらに引き金を引き続ける。
桜色の雷撃が多数放たれ、次々とモンスターを黒焦げにしていく。
絶命させるまでに多少時間がかかる雷撃は、結界を活用しモンスター達を足止めしながら放たれている。
感電しつつも結界に突進をしてくるモンスター達は、数匹の命を懸けて結界を破壊した。
すぐさま新たな結界を展開し後ろから現れるモンスターに雷撃を当てるも、徐々に後退を余儀なくされた。
確実にモンスターの致命傷のみを狙って2本の短剣を振るう。
足に込める魔力は駆け出す一瞬だけ、腕に込める魔力は剣を振るう一瞬だけ。
さながら戦場を舞う鷹のように、敵を翻弄し一瞬で仕留める。
正確な魔力コントロールで一切の魔力を無駄にせず最大効率のパフォーマンスを見せるが、1対多を1匹ずつ殺していくのではじりじりと押し負けてくる。
最初こそモンスター達を抑え込んでいたが、徐々に疲労が溜まり集中力が切れ始め動きに鈍りが出てくる。
築き上げた屍が壁となり新たなモンスターの侵攻を防いでくれるかと思いきや、命が刈り取られたモンスター達はダンジョンへと吸収され魔石のみを落とす。
透が期待していた遮蔽物としての機能は一切無い。
「……ッ」
誰のかわからなくなった呻き声と共に、3人の身体に朱が走る。
ついにモンスターの攻撃が3人へと届いてしまった。
「ふんばれ!!!」
透の喝に反応し、遠退きかける意識を戻した特に疲労の色が濃い2人。
3人の残存魔力は残り半分を切っていた。
(このままじゃやばい……、終わりが一切見えなければ補給する事もできない、食われてお仕舞いだ。何か打開策を……、考えろ、考えろ、考えろ)
モンスターの種類は多種多様で共通の弱点等は見当たらない。
最初に比べ幾ばくか迫ってくるモンスターの数が減ってきたかのように見える。
その代わり敵が強力になっているのか、倒すまでの時間がわずかながら増えているが。
じりじりと押されている事には変わりない。
(ギャンブルするのはあまり好みじゃねえんだけど……、まじで命を賭けるしかねぇな……)
「ツキミ!残りの魔力全部使って結界を頼む!俺達全員を覆ってくれ」
「あいなのだ!」
透の覚悟が伝わったのか、疑う事もせず結界を展開するツキミ。
「これでダメだったら、皆仲良くあの世行きだ」
少し諦めの混じった声と共に、収納魔術の中で圧迫していた食材や替えの装備等を捨てていく。
攻撃に回せる魔力を少しでも多くする為に。
ツキミとリアも顔を見合わせ、諦めたような吹っ切れたような清々しい表情が疲労の色に混ざる。
その間も絶え間なくモンスター達は結界に突進を繰り返しているが、守りに全力を注いでいる今は簡単にヒビも入らない。
「リア、大群は止めるから結界に張り付いてる奴だけなんとかできるか?」
「勿論よ、任せなさい」
3人で頷き合うと、口元には軽い笑みが浮かび上がる。
死の恐怖がすぐそこまで大きな足音を立ててやってきているのに、それすら今は可笑しく感じてしまう。
これでダメだったら仕方ないという覚悟を胸に抱き、けれど決して絶望はせず透の指示に従う。
「ルドニール解放、マシンガンモード多重展開!全部全部塵に変えてくれ!!!!」
透の叫びに合わせて、結界の外でルドニールが宙に浮き増殖する。
その数計8個、それぞれが透の意志のままに首を振って360度死を撒き散らす。
ルドニールの猛攻が始まり結界に当たる敵が減ると、リアが飛び出しルドニールと結界の隙間にいるモンスターを屠っていく。
疲労によって足の動きが鈍くなり、リアの身体に傷が増えていくが、歯を食いしばり目の前の敵を1匹、また1匹と仕留める。
ツキミの結界に薄っすらとヒビが入り始めた。
魔力量が限界に近づいてきているのか時折意識が遠のいていくのを、自分の腕に牙を立てて傷みで無理やり目を覚ます。
2人が倒しきるまで、攻撃に専念できるように絶対破られてはならない最後の砦。
1人外に出ているリアの身に何かあった時、すぐに結界の内側に入れれるように再度集中を高めた。
敵の数は目に見えるように減ってきており、希望が見え始めた。
8個のマシンガンが絶え間なく魔力弾を吐き出し続けている。
モンスターを殲滅しきるのが先か、3人の魔力が尽きて意識を手放してしまうのが先か。
暫くするとモンスターの数が減り強度が上がった。
倒すまでにかかる時間が倍ほどになり、ルドニールの射程範囲を超え結界に突撃する者も出てくる。
透が敵の体力を削り、ツキミが敵の攻撃を受け止め、リアが仕留めきるという構図に代わっていた。
結界に大きなヒビが入り、3人の残存魔力が残り1割程度になった時、最後の敵を仕留め切った。
「終わった……のか?」
特に魔力消費の激しかった透がそのまま意識を手放し、床にガンッと頭をぶつけ呻き声を上げて意識を戻した。
ツキミとリアもへたり込む。
3人の前に光り輝く宝箱が出現した。
怪しさに顔を見合わせるが、欲望に負けずるずると体を引きずって宝箱を開けに行く。
手を触れると宝箱は勝手に開き、中から溢れ出る眩い光に3人とも目を瞑ってしまった。
光が収まり目を開けると、宝箱の中には人の顔程の大きさをした魔石が鎮座している。
磨かれたアメジストのような艶めかさを持ち、薄っすらと中で何かが動いているような感覚に陥る。
思わずこのまま一生抱いて撫でまわしていたくなるような、他の誰にも渡したくないと狂気に飲み込まれてしまうような甘い誘惑に駆られ、つい手を伸ばしてしまう3人。
3人の手が空中で触れ合った時、リアが我に返った。
「魅了の魔術だわッ!ごめんっ!」
ツキミと透の手が魔石に触れる直前で、2人の頭を拳骨で殴り目を覚まさせる。
「「──ッゥ!」」
痛みに目を白黒させながらリアに抗議の視線を向ける2人は、そこで今までのボウっとした感覚に違和感を抱いた。
リアからこの魔石が魅了の魔術を放っている、触れてしまうとどうなるかわからないという説明を聞き、焦って収納魔術の中に宝箱ごと仕舞い込んだ。
「ありがとなのだ」
「あぁ、すっかり飲み込まれてた……」
部屋から魔石が消滅したのがきっかけとなり、今までの不気味な雰囲気を醸し出していた小部屋は、ただの洞穴のような場所へと変わった。
どうやら巨大な魔石が独自に作り上げていた一室だったようだ。
「あっ」
不思議そうに2対の瞳がリアを見つめる。
それはそれは気まずそうな顔をして、ゆっくりと口を開いた。
「その……、今まで使った事無かったからすっかり忘れてたんだけどね……、命の危機に陥った際にはギルドに強制転移できるように登録されてたのよね……」
リアの告白に言葉を失う2人。
申し訳なさそうにチラチラッと2人を盗み見るが、茫然としたままピクリとも動かない。
先に再起動したのは透だった。
「ま、まぁ……戻れるってわかってたら、ここまで頑張れなかったしな……??多分なんかすげぇ成長した気がー……しなくもない気がする」
「そっ、そうなのだ、それにおっきい魔石を手に入れたのだ!きっとこれは高値で売れるに決まってるのだ!」
ツキミも透に合わせて、わたわたと身振り手振りを交えてフォローする。
リアが何度も頭を下げ、それを宥めるという事が暫く続いた。
「そいや、地上にはどうやって戻るんだ?結構俺達皆ボロボロな感じだけど」
魔力量を増やすために出してしまった物たちの中から回復ポーションを探し出し、魔力が回復しなくて全部持てないからと、調理しなくても食べれそうな果実や干し肉も配った。
「本来は来た道を戻るか、もしくは一定の場所に帰還魔術陣が敷かれているから、それを起動して帰るかかしらね」
「一番近いのはどこなのだー?」
リアはマップを取り出して説明をする。
下層は今まで開拓された場所が少なく、まだ帰還魔術陣も多くはない。
結局中層から下層に落ちた地点まで戻るしかなかったのだ。
「ただ問題なのは、現在地点がどこだかわからないって事なのよね。扉に触れた瞬間、ここに転移させられたから……」
今すぐ寝てしまいたい衝動を抑えて、3人はなんとか立ち上がり洞穴の出口へと向かう。
ひょこっと顔を覗かせて外を盗み見ると、そこには巨大なミノタウロスがいた。
ミノタウロスの目に光りが灯り、3人の方へと顔を向ける。
涎を垂らしながらニチャァと口角が上がり、3人へ向けて駆け出した。
急いで洞穴の奥へと戻った。
巨体が壁へとぶち当たり辺りを揺らす。
幸いすぐに洞穴が崩れるという事は無さそうなのだが、久々に食事を目の前に置かれた猛獣のごとく執拗に洞穴に突進を繰り返している。
「無理じゃね……?」
「帰ろうなのだ」
「え、ええ……、帰りましょうか」
3人目から光が無くなり、リアは緊急帰還魔術を起動させた。




