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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第一章
4/87

記憶と世界

2020/7/17 改稿

※物語の流れに変更はありません。

 夢の中でツキミはこれまでの日々を見ていた。


 あたりが霧に包まれた森の中、そこにツキミの生まれた集落は存在している。

 ツキミが属するコシュカの一族は、獣人族の中でもあまり大きな集団を形成せず5~6家庭で1つの集落を作っている。

 ただ、どの家庭も兄弟は多くツキミも8人兄弟の下から2番目で生まれた。


 コシュカの一族では2歳を迎えると魔力の扱い方を親から学び、兄弟たちと切磋琢磨しながらその技術を磨いていく。

 そして1年ほど集落で鍛えると徐々に大人と一緒に外に獲物を狩りに行き、その後1人で安定して狩りを行えるようになると1人前として認められるようになる。

 更に3歳を迎えたあたりから魔力量が安定してくる為、人の姿へと変身する魔術を皆覚える。


 また、5年に一度集落の最強を決める戦いが存在しており、ほぼ全ての集落の者たちが参加しそこで優勝すると族長代理としての権限を得る。

 決して寿命が短い種族でもない為、コシュカだけが族長が頻繁に入れ替わる珍しい一族であり、常に強い者が皆を引っ張っていくのだ。


 前回の戦いではツキミの上から2番目の兄が優勝し、今頃は族長となり集落をまとめているであろう。


 族長を生んだツキミの家族は皆期待をされていたが、ツキミは一族の中でも落ちこぼれであり、4歳を迎えても人の姿になる事ができなかった。

 戦いのほうはセンスがあり他の者と同じように狩りを行えたのだが、それ以外の能力が低くツキミは集落の皆に疎ましがられていた。


「ツキミねーちゃん、いつまで獣の姿なの?ツキミねーちゃんの人間みてみたいなー!」


 ツキミより後に生まれてきた子達が先に人間へと姿を変え、無邪気にツキミの心に言葉の刃を突き立てる。

 毎回愛想笑いをしてそれとなく誤魔化し、7歳になるまで居心地の悪さに耐えつつも鍛錬を続けていたツキミだが、ついには追い出されるような形で一族を出る事になった。



 一族の恥とまで言われた1匹の猫は居場所を求め、冒険者となるべくサンロットへと到着する。

 冒険者登録にも猫の姿のままだった為、何度も受付で追い払われ、周りの冒険者達に鼻で笑われ襲撃をかけられた。

 それでもいつか人間の姿になれる事を夢見て、自分という存在の証明に冒険者になる事を諦めず挑戦し続けた。


 冒険者の道を諦め山奥で自給自足をし独りで生きていく事はできたのだ。

 だが、独りの辛さ、寂しさよりも足掻いて足掻いて人と関わる事を求め続けた。


 何度も挫けそうになったが、諦めの悪さと努力の量は一族の中でも誰にも負け無い強さを持っていたのだ。

 そうでなければ何年もの間疎ましがられつつも一族に身を置き、鍛錬を続ける事などできるわけがなかった。


 ギルドは何度訪れても門前払いをするだけだった為に、こっそりとギルド内部に潜入し貼り出されているギルドクエストを拝借し、モンスターを討伐しその証拠を置きに行く。

 そんな行為を続けているうちに実力が認められ、特例ではあるが人の姿をしていなくても冒険者登録をする事を認められた。

 努力で冒険者という肩書をもぎ取ったのだ。


 冒険者登録が完了した後もギルド職員にいい顔はされず、周りの冒険者にも蔑まれていたが、より張り切りクエストをこなしていった。

 そのうち背伸びを繰り返すようになり、身の丈に合わないモンスターが出る森に立ち入りボロボロになりながら透と出会った。


 ツキミはまた人に拒絶される事を恐れはしたが、助けを求める声に応じ1度もツキミを蔑み馬鹿にせず、猫の姿のままでも普通に接してくれた透に淡い期待を抱いた。

 透が異世界の人間という事に驚きはしたが、初めて人に撫でられ一緒に行こうと誘って貰えた事に、嬉しさで胸がいっぱいになるのを感じながらそれからの2日間を過ごした。

 これが実は自分の望みが見せた幻だと言われても納得できる程、初めて人の側に自分の居場所が出来た事がうれしかったのだ。


 ◇◆◇


 ゆっくりと視界が明るくなりツキミは目を覚ます。

 頬にはうっすらと涙の跡があった。

 ベッドを見ると透が気持ちよさそうに寝ているのを発見し、微笑みを浮かべつつ透のお腹の上へと移動した。


 透の存在に救われたのだ、と感謝をしつつも素直になり切れないツキミはそれを伝える事はしない。

 透のお腹の上で再度丸くなり、その暖かい体温を感じながら再び眠りに落ちていった。



 一方透も夢を見ていた。

 それは夢というには余りにも明瞭で不可思議な体験だった。


 ◇◆◇


 透は見覚えのある部屋にいた。

 それは日本にいた頃の自分の部屋であり、ベッドには自分が眠っている。

 ベッドに眠る自分を上から見下ろす形で透は部屋にいたのだ。


「幽体離脱……?今までの異世界うんちゃらは全部夢落ちかよ……、しかもまだ変な夢の世界にいるじゃん」


 自分が寝ている所を見ていても面白くないので、部屋から出ようとしたが結界のような物に阻まれてその行為は叶わなかった。

 そうこうしているうちにアラームが鳴り、寝ていた自分が目覚め眠い目を擦りながら外出する準備をしている。

 扉から出ていく自分の後ろをついていくと、今度は何にも阻まれる事なく移動することができた。


 生前まで通っていた学校に到着し講義を受ける。

 その講義内容に違和感を覚えつつも透はのんびりとあたりを周回した。

 透は学校に特別仲がいい友人はいなかったので、誰かにちょっかいをかける事もなく自分の頭の上に胡坐をかいて座りぼーっと講義が終わるのを待つ。


 どうやら一日の講義が終わったのか、自分は帰り支度をし帰路についた。

 そして校門から出た所で他の生徒を避けたトラックが突っ込んできて死んだ。


 ずっと感じていた違和感は、透が死んだ日の出来事が丸々再生されていたからだ。

 自分はこの後異世界に飛ばされるわけだったが、透の意識はそちらには持っていかれずトラックに轢かれ死んだ自分を見つめていた。



 自分が死んだ校門前は騒然としていた。

 殆ど関わりが無かった生徒が死んだとはいえ、目の前で人の死を見たのだ。

 周囲の人々のショックは大きいだろう。


 その後救急車と警察が到着し、自分の遺体が病院へと運ばれていく。

 透は車の上に乗って同伴したが、既に息を引き取っていたために霊安室にて保管され家族が呼び出された。


 すぐに駆け付けて泣き崩れているのは祖父母のみで、ほかの家族はまだ来ていない。

 透は祖父母以外の父・母・弟には除け者扱いされており、結局その日祖父母以外の家族が自分の遺体の元へ訪れる事はなかった。


 透は自宅へ様子を見に戻ると、葬儀の為奔走している祖父母と、すぐに透の部屋を片付け売れそうな物以外を捨てて仕分けをしている母と弟がいた。


「わかってはいたけど、こう目の前で見せられると辛いものだな……」


 透の呟きは誰にも届かない。



 透はこれ以上見るのが辛くなり目を瞑ると、フワっと浮遊感が襲い女神のいる空間に飛ばされた。

 目の前に光が集束し女神を形取る。


「いかがでしたでしょうか。今の映像は貴方が亡くなってからの周囲の様子です」

「わざわざ胸糞悪い映像をありがとう」


 皮肉を込めて女神を睨むが、女神は柳に風といった感じで透をスルーする。


「いらぬ世話でしたら申し訳ございません、今まで異世界に送った者達は自分のいなくなった世界を見たがっておりましたので」

「俺には必要ない、今後は見せなくていい」


 表情を一切変化させないまま「わかりました」と女神が頷くのを確認して透は続ける。


「それよりもサンロットへと転移させてくれるんじゃなかったのか?あんな草原に放り出しやがって」


 先ほどよりも強く睨みつつ悪態をつくと、途端に女神はオロオロを焦りだし透へと謝罪を述べた。

 そのお詫びもかねて有益な情報を差し上げましょう、と女神は透の顔色を伺いながらも提案する。


「貴方は今後とある冒険者一行と出会います。必然と仲良くなる方々で、そのリーダーも貴方と同じ異世界から訪れた方ですよ」

「ちょっと待って!普通その世界を救うために飛ばされる勇者って1つの世界に1人なんじゃないのか!?」


 女神は透の言葉には反応をせず「必ず時は来る、目印はその手にある聖剣です」と言い残し女神は闇に溶けていった。



 ◇◆◇



 腹部に重みを感じ透は目を覚ました。

 視線を下げるとお腹の上でツキミが丸くなって寝息を立てている。


 あまりいい夢ではなかったので、ツキミの体温を感じて透の強張った表情が柔らかくほぐれた。

 こっそりとツキミを撫でモフモフの感触を楽しみ透は再度眠りへと落ちていった。


 眠る2人の表情はどこか幸せそうであった。


どんな明るい子にも心には何かしら抱えているモノですよね・・。



誤字脱字報告ありがとうございます。

引き続きよろしくお願いします( *´艸`)



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