常識からかけ離れたダンジョン生活?
何かあったらどうするの!という突っ込みを入れたい気持ちをグッと堪え、最低限自分の身を守れるように気を張りながら周囲を見渡すリアにのんびりとした声がかかった。
「リアー?ご飯できたのだ、食べないのだ?」
ツキミの手には今しがた焼いたと思われる器に具沢山のスープがなみなみと入っている、同じく今焼かれたと思われるスプーンと一緒に。
そして反対の手にはいつ作ったのか、カリっと焼かれた何かの肉を挟んだパン。
透とオンハルトの方を見ると2人は既に食べ始めており、リアは思わず喉を鳴らした。
「……ありがとうっ!凄い美味しそう!」
リアの分まで作ってくれていたとは考えておらず少し反応が遅れてしまったが、美味しそうな湯気を上げる食事には抗う気すら起きず素直に受け取った。
嬉しそうに歩くツキミについて2人の元へ戻る際に、こっそりと毒検知の魔術を食事にかける。
ダンジョン内で案内をしている冒険者から食事を貰う事はかなり異例の事である。
通常は収納魔法の容量の問題上自分が食べる食料を1~2週間分入れておくだけでかなり圧迫してしまうため、誰も他人に分け与えようとはしない。
そして、その食事内容も極力嵩張らず栄養価の高い補給食のような物ばかりになってしまい、透のように通常の食事が取れる事はまず無い。
(美味しそうなご飯をわざわざ分けてくれるんだから、毒か睡眠薬か何かしら入ってると思ったんだけど……特に反応なしかぁ。本当にただのお人好しで、尚且つ魔力量がとてつもなく多いのかな……)
稀に透達のように食事を案内人に分ける冒険者がいるが、そのような奴らは必ず下心を持っている。
ギルドに検知されないギリギリのラインで毒や薬を盛り、動けなくなった所を嬲るという事が過去に起こっている。
そのため案内人は自衛の為、基本的に冒険者からの食事は受け取らず自分で用意をする。
仮に受け取る場合でも毒や薬が入っていないかを調べてから口にするのだ。
当たり前のようにダンジョン内で偶然会ったオンハルトにも食料を提供している透を見て、自分の常識が全く当てはまらず困惑しつつも膝にパンを置きスープに口を付けた。
「……ッ!美味しい!」
「おー、そりゃよかった」
緑が多いシュループならではの香草がふんだんに使われており、しっかりとした味のスープに仕上がっている。
期待を込めて肉が挟まっているパンにかぶりつくと、甘辛いタレが染み込みしっとりとしたパンとカリっと焼かれた肉が絶妙なハーモニーを醸し出している。
中からじゅわっと溢れ出す肉汁がパンに更に吸われ、早く2口目を食べろと言わんばかりに誘惑をしてくる。
「数多くの冒険者さんを案内してきたけど、ダンジョン内でこんなに美味しい物を食べたのは今日が初めて!」
「それはよかったのだ!まだまだいーーーっぱいあるから沢山食べてね!なのだ~」
「持ってるのは俺だぞ?なんでツキミがそんなに得意気なんだよ」
「ラパンを狩るのは2人で頑張ったのだ!持ってるのは透でもあたしのおかげもあるのだ!」
2人の口論を尻目に黙々と食していたオンハルトが透の肩をポンっと叩く。
「この肉を挟んだパンは悪くない、闇の眷属達も喜んでいる。多くの眷属に分け与える為、更に先ほどの食事を献上するがよい」
「お前の言う眷属って骸骨じゃねえの?飯食えねえだろ……、おかわりならおかわりって普通に言えよ」
「ッフ、これだから俗物は……話の通じない奴だ。仕方ない、おかわり」
なんだかんだ最後は素直におかわりを要求するオンハルトに再度パンを差し出し、モリモリと食べ元気よくおかわりを催促するツキミと遠慮がちにおかわりを言い出すリアにも差し出した。
食事が終わりリアが今日の見張りの順番を決める為話しかけようとした時、ふいに3人が動きだした。
透がダンジョンの土を魔術で盛り上げ成形させ3人分のかまくらを作り、その横にオンハルトが骨のかまくらを作りあげる。
そしてその全てを覆うほど大きなドームを透が作り、入口の前にオンハルトが骸骨の見張りを2体置いた。
土魔術を得意としないツキミは紙を3枚取り出し、『見張りです』と書いた物をそれぞれの骸骨の胸に貼り付け、『人が入ってます、モンスターじゃありません。攻撃しないでください』と書いた紙を入口の上に貼り付ける。
最後にツキミが土のドームを覆うように結界を展開させた。
「これで今日の寝床の完成なのだ~!」
当たり前のように魔術を使って巨大な寝床を作りあげた3人に、再びリアの頭痛が襲い掛かる。
諦めを隠す事無く自分だけはいつでも起きれるようにしておこうと思いつつ周囲の冒険者を見渡すと、全員が全員あんぐりと口を開け透達が作った土のドームを見つめていた。
誰も疲れて入ってきた安全地帯で、理解の範疇を超える事象に首を突っ込みたくは無い。
警戒心無く爆睡する3人とは違いリアがいつものように警戒しながら睡眠を取るも、何事も無く夜は更けていった。
「本当に何事もなかった……」
リアは色々な意味の頭痛と今日も仲良くしつつ、与えられた土のかまくらから這い出ると、既にオンハルトは身支度を整え終わっているだけでなく、骨の椅子と机を作り優雅にお茶を飲んでいた。
隣のかまくらを見るとツキミが猫の姿ですやすやと眠り、その隣のかまくらから透のいびきが聞こえてくる。
「ダンジョン内でよくそんなに寝れるわね……」
誰に聞かせるわけでもなかったリアの呟きに、オンハルトがフッと笑いながら髪をかきあげ、手を机にかざす。
するとオンハルトの向かいに骨の椅子と骨のカップが現れ、これまた骨のティーポットから暖かい湯気を上げるお茶が注がれた。
リアは骨の間からどうしてお茶がこぼれないのかについては聞く事を諦め、骸骨の椅子という趣味の悪さに若干引き気味になりつつも誘われるまま目の前に座ってお茶を啜った。
当たり前のように優雅にお茶を飲む為だけに浪費されている魔力を見て寝起きから頭痛がしそうになるが、2人の知り合いなのでという無茶苦茶な理由でスルーを決め込む。
「貴女が心配するのも無理はない。中々このように魔力をダンジョン内で使う冒険者は少ないのだろう」
「え、ええ、そうね。それもそうだけど、長瀬さんみたいに爆睡できるのも私の常識的には信じられないわ、このドームがもし壊された時はそのまま殺されてしまうかもしれないのに」
オンハルトは再びフッと笑いながら立ち上がると、マントを翻しつつ両手を広げた。
「貫け、漆黒真槍行進曲」
オンハルトの背後に極太の槍の形をした骨が4本現れる──漆黒と言う割に骨の色は白いが。
そしてオンハルトが手を振り下ろすと同時に、4本の槍が勢いよくドームの天井に向けて飛び出す。
全てを覆っているドームに槍が触れた瞬間、透の寝ていた小さなかまくらが爆発した。
「ッ!何!?」
リアが驚いて爆発したかまくらを見ると、土埃の中から青白い光を纏った弾がオンハルトに向けて3発撃ちこまれる。
オンハルトは元々分かっていたようにヒラリと躱すと、手を上げドームを壊そうと奮闘している骨の槍を消した。
透もオンハルトが躱す事を前提としていたようで、土埃の中から飛び出すとガンブレイドモードのルドニールを持ってオンハルトへと迫る。
それを骨の壁を具現化し苦も無く凌ぐオンハルトに透が吠えた。
「おい、オンハルト!お前は昨日から一体何のつもりだ!?」
「落ち着け、そこの案内人のお嬢さんが不安がっていたのでな。お前たちの実力と安全性を示したまでだ」
2人がリアを見ると、驚愕で固まっていた体をビクリと跳ねさせる。
「あまりにも皆が私の常識外の行動を取るもんだから、ちょっと愚痴ってしまったの。そ、そしたら、オンハルトさんが今の行動を……」
焦ったように言葉を紡ぐリアを見てオンハルトが真実を話してる事を理解した透はルドニールを解除した。
それに合わせてオンハルトも骨の壁を解除する。
誤解が解けて再び3人でオンハルトの作った骨の寛ぎセットでお茶を飲もうとした所で、無事だったかまくらからのそのそとツキミが這い出てきた。
「ふぁ、みんなはやいのだ~、おはよ~なのだ~」
まだ寝ぼけ眼でよろよろと3人の元へ近寄ってくるツキミに皆は苦笑いを浮かべた。
ツキミの分の椅子とお茶セットをオンハルトが用意し、簡単に食べれる朝食を透が用意した。
「まぁあれだ、俺らの作ったこのドームとか外にツキミが張った結界とかは俺らの精神にそのまま繋がってるから。攻撃受けたりしたらその時点でどんだけ寝てても気が付くんだよ。だから心配しなくても大丈夫」
「長瀬さんはわかったけど、その……疑ってるわけではないんだけど……ツキミちゃんはぐっすり眠ってたようだし……」
朝食を食べながら気まずそうに呟くリアに、まだ寝ぼけながらもぐもぐと無心でご飯を食べていて何を言われてるか理解してない様子のツキミを見て代わりに透が答える。
「今回オンハルトに襲撃を受けたのが俺のドームだけだったからな。これが一番外側を覆っているツキミの結界に当てられてたら多分殺気を感じた瞬間にでも飛び起きてると思うよ、獣はそーゆーの敏感そうだし」
「んん?よくわからないけど馬鹿にされてる気がするのだ~」
両頬にパンを突っ込みハムスターのようになってご飯を食べながらも軽く怒った様子を見せるツキミを宥める。
リアもとりあえず納得をしたようで、透と一緒にツキミを宥めている。
「我は一足早く日の照らす上界へと参ろう」
「お?もう戻んのか?」
透の問いに「用は済んでおるのでな」とだけ残し、マントを翻しながら立ち上がる。
その際に机の上に置いてある皆のお茶や朝食をこぼしそうになるが、当たる直前でツキミが結界を張りマントの襲来から食事を守った。
オンハルトはヒラリと手を振りそのまま振り返る事もなくドームを後にした。




