さようなら、透
中層へと続くはずの階段は5段のみしか見る事ができず、どこまで続いているのかもどれ程上ったのかもわからない。
手を伸ばせば届く距離にいるはずの他人すら見えず、己の身体すら見えない不思議な空間。
目の前にいるのだから階段に影ができるくらいしてもいいはずなのに、何故か見えるのは階段のみ。
寂しい世界に1人取り残されてしまったような膨大な不安が胸を押し潰しにやってくる。
人間とは視界を奪われると何故ここまで不安になるのか。
リアの元気のよい掛け声が耳に入っているはずなのに、どこか朧げに聞こえてくる。
「……はい!……はい!……は、イアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッ!!!」
深い不安に飲み込まれて心が折れそうになった時に……リアの絶叫が2人の意識を引き戻した。
「ッッ!?リア!?どうした!」
「……ッ、敵なのだ!?」
自身に襲い掛かっていた不安も吹き飛び、慌てて状況把握をしようとリアに声をかける2人。
その声にリアのとても楽しそうな笑い声が返された。
「精神を操る感じの敵か?それとも……」
「おかしくなっちゃったのだ?」
「失礼ね!おかしくないわよ!」
すぐさま飛んでくる突っ込みにホッと胸をなでおろす。
このまま暫しの休憩を行うという事で、ゆっくりと左手をついていた壁に寄りかかり階段へ座り込む3人。
「多分もうそろそろ2人とも精神的にかなりのストレスを抱えてる頃かなーって思ってね、優し気な問いかけじゃ聞こえないかもって思ってちょっと叫んでみただけよ。効果はあったでしょう?」
ふふふっと笑いながら先ほどの奇怪な絶叫の理由を明かす。
リアの言っている事が全て的確で、2人とそう変わらない年齢の女の子が凄腕の案内人だという事を思い知らされる。
「その通りなのだ、リアは凄いのだ!流石なのだ!」
「えへへへへへへ、そんなに褒められると照れちゃうなあ……。ツキミちゃん怖かったらこの後手繋ごうか?変な事はしないから!大丈夫だよ!任せて!」
ツキミに褒められデレデレとしそのまま触れ合うとする姿勢は、本当に同年代の女の子なのかを疑うような、変態的なオッサンの臭いを醸し出しているが。
ツキミは少し考えたが、「歩きにくいから大丈夫なのだ~」とさっくりと断っている。
悲しそうな悔しそうな声で相槌を打ったリアは気を取り直して2人へ喝を入れた。
「もう半分は過ぎたからもう少しよ、早くこんな暗い所抜け出しましょっ!」
「あいなのだ~!」
永遠に続くと思われた階段も終わりが近付いていると知り、身体に気力が湧いてくる。
そこでふと透が疑問を口にした。
「よくこんな目印も何もない所で後どれ位だなんてわかるな、案内人にだけ何か特別モンでも見えてんの?」
「そんな都合の良いモノなんて見えないわよ。ただ単に段数を最初から数えてるからね、ここの空間は目の前の階段だけしか見えないという以外に罠は無いからね」
特別な索敵魔術なんかがあるかと思いきや、思っていたよりもアナログで単純な方法にほんのりと残念がる透だった。
残りが100段を切った所から掛け声の中にカウントダウンが混じる。
0と同時にリアが前方の壁へと辿りつくと、ゴゴゴゴゴ……という音と共に目の前が割れ光が入り込み目の前の階段しか見えなかった空間の全貌が明らかになった。
光が入っても何故か手をついて歩いてきたはずの壁は見る事ができず、重力という概念を全くもって無視し縦横無尽に弧を描く1000以上もの階段があった。
上層と繋がっていると思わしき階段が途切れている所を見ると、直線距離で下ればほんの50段くらいで到着しそうな距離なのに。
ダンジョンの嫌らしさに引きつった乾いた笑いしか出せない2人であった。
「お疲れ様!もう少し進むと罠が無くモンスターも入り込めない場所があるから、そこで今日は休みましょ」
「おう……もう色々とクタクタだぜ……」
罠はあるが強いモンスターが殆どいないと言われている場所で、サクサクとダンジョン攻略を進めてお宝ザックザクするつもりだった透は、自分たちのスタート地点である中層に辿りついた時点で心身ともにかなりの体力を消費していた。
「ただし……その安全地帯に行く前にかなり危険な罠が1つあるの。この中層へ続く階段で疲れさせてここで一気に殺しにくるから気を引き締めて」
リアの忠告を聞いて真剣な表情で頷く2人。
その場に少し休憩を取った3人は安全地帯に向けて出発した。
「危険な罠って一体どんなのなのだー?」
「私が縦に5人位並ぶ高さの落とし穴なんだけど、下にはエヴォスライムが大量にいるのよ」
「エヴォ……スライム?なんか弱そうだけど……」
真剣な表情で危険な罠があると脅されたのでもっと即死級の罠があるのかと思いきや、スライムと来た。
日本にあった大ヒットしたゲームソフトで最も序盤に出てきてレベル上げに使われるほどの最弱モンスターだ。
そしてサンロットでの校内ダンジョンでもスライムの群れに出会ってマシンガンモードのルドニールでぶっ飛ばしている。
「長瀬さんのその顔。エヴォスライムを馬鹿にしてるでしょ」
「いやだってスライムだろ?」
ツキミはエヴォスライムに嫌な思い出があるのか耳をぺたりと垂らせ尻尾を足の間にから前にだして抱きしめている。
リアは呆れたような表情であからさまに溜息を吐き、自然な動きでツキミの頭を撫でながらエヴォスライムの脅威について語った。
エヴォスライムは通常のスライムとは違って弱点となる核のような物を持たないモンスターで、小さく切り刻んでもその全てが動き向かってくるので物理攻撃が一切効かず、唯一倒す方法は強力な炎で蒸発させきるしかない。
ある程度の広さはあるとはいえ締め切った洞窟ダンジョンの中で、エヴォスライムを殲滅できるまで強力な炎を出すと人間の方が先に倒れてしまうので倒す手段が無い。
そしてエヴォスライムは身体の全てがドロッとした消化液となっており、飛ばしてくるエヴォスライムの一部に当たるとそこから即消化が始まり装備や衣服は溶け出し肌には焼けるような痛みが走るという。
「幸い消化スピードが速いわけではないから、どこかについたら燃やすか大量の水で流せば死ぬことは無いわ」
「うーん、とりあえず普通のスライムよりはやべぇって事だけわかったような気がする」
危機感の無い返答にリアは再度溜息を重ね、それ以上は諦めたように口を噤んだ。
中層は上層に比べ分岐点も多く横穴も増えており、無駄口を叩いているとはぐれてしまう。
透も置いて行かれたらもう帰れないという不安に、余計な事は言わずリアの後について行こうと決めたのだった。
「ここで一旦止まって」
リアは静止の声を上げると収納魔術を展開させる。
大き目の陣からはリアの身長の倍はありそうな長い木の板が出現し、そのまま地面に置かれた。
頭に疑問符を浮かべてる2人に向かって自分が実践をしながら理由を告げる。
「丁度この下がさっきの落とし穴なの、横は壁まで目一杯あるからこうやって橋を渡して渡るのよ。一応強化の魔術はかかってるけどあんまり強度が高くない板だから、1人ずつ順番に渡ってね」
リアとツキミが渡り切り透が渡ろうとした所で、横穴からソレはやってきた。
洞窟の天井にかすっていそうな高さの骸骨が横幅いっぱいに並び後ろに数列作っている。
骸骨達はそこに透がいる事に気が付いているのかいないのかわからないまま、武器を構える事も無くただただ透目掛けて進んできた。
「ちょッ、こんなモンスターが出るなんて聞いてねえけど!?」
「私も初めて見たわよ!とりあえずボサっとしてないでこっちに来なさい!」
透は急いで板を渡ろうとしたが、あと一歩の所で骸骨達が落とし穴へと足を踏み出した。
簡単に足元は崩れ骸骨達は落ちていく、大量のエヴォスライムの元へ。
そして重量オーバーで板も割れ、透は最後の一歩が間に合わず骸骨と共にエヴォスライムの待つ落とし穴の中へ落ちていった。
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