ステータス
それぞれの用紙に向き合う透とツキミ。
ため息を吐くのを気付かれないように、ゆっくりと長い息を吐いた透は用紙の手形部分に手をかざし、それ見ていたツキミも同じように手をかざした。
「「解除」」
同じように呟くと2枚の紙が淡い光を放ち魔道具が起動した。
用紙に含まれていた鑑定用の魔力が手から伝わり2人の体内にゆっくりと流れ出す。
((このまま何かしらの誤作動が起きて文字が表示されなければいいのに))
2人の心の声に反応するがごとく浮かびあがり始めた文字が薄い色のまま停止する。
いち早くその異常に気が付いた2人が文字よ消えろと強く願うと同時に逆に用紙へ魔力を流し込み始めた。
薄く浮かび上がろうとしていた文字が2人の魔力と願いを受け白紙へと戻っていく。
新品状態に戻った所で恐る恐る用紙へ流していた魔力を切ると、用紙が纏っていた光を霧散させた。
光が収まった用紙をおっさんたちが奪い取り凝視するが、その手には自分たちが差し出した時と全く同じ真っ新の紙があった。
「何故だ!魔道具はしっかりと発動されていたはず!何故何も表示されていないんだ!」
「落ち着け。何事にも絶対という事はない、考えられないが2枚とも不良品だった可能性もある」
「そんな馬鹿な!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐおっさん達を横目にツキミの元へ少し近寄ろうとした透に悪寒が走り身体が硬直する。
騒ぐ4人の職員を気にもせず2人を睨み付けるギルドマスター。
(気付いてる、この人だけは俺達が何をしたのか見抜いてる……)
再度新しい用紙が2人の前に差し出された。
ツキミが横目で問いかけているのを感じた透は、冷や汗が浮かぶのを感じながらゆっくりと首を横に振る。
「もう一度やれ、今度は妙な真似すんじゃねぇぞ」
その言葉で部屋の中が静まり返り、2人を凝視する。
2人の「「解除」」という声が小さく響き、用紙が淡い光を放った。
【長瀬 透】
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レベル:34
体力:680
魔力:1460
筋力:680
幸運:680
耐性:680
スキル:言語理解・女神の加護・妄想癖・全属性適正
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【ツキミ】
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レベル:30
体力:450
魔力:1050
筋力:200
幸運:50
耐性:300
スキル:変身・大器晩成・雷属性適正・火属性適正・風属性適正
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文字が浮かびきった用紙を奪い取るおっさん達。
そして一斉に覗くとそこに表示された常識を外れた数値に、皆が皆自分の頬をつねったり夢でないかを疑ってかかっていた。
4人の挙動不審なおっさん達から紙を奪ったギルドマスターは用紙を見ながら部屋に入って最初に驚きを示した2人へと問いかける。
「チャック、ジェント、お前等の鑑定結果はこれと似たようなものか?」
「は、はい、漠然としたものしかわかりませんでしたが、まさかここまでとは……」
「私も同意見ですな……」
用紙に表示された能力値に間違いが無い事を確認し、用紙と2人を見比べる。
「ツキミの能力は許容範囲だな、ステータスの上り幅は種族によって最大値も違うから納得できよう。スキルに関しても目を見張る物はあるまい」
そして、深いため息を吐いて透を睨み付けゆっくりと口を開いた。
「問題は長瀬透、お前だ。人間の能力値で全て最大値を引く所か魔力に関しては完全に上回っている。スキルの妄想癖なんてのも聞いたことねぇな。お前は何者だ、まさか魔王の落とし子か?」
ギルドマスターの問いに全力で首を横に振る透。
だが、異世界からきただなんて突拍子もない話をしても信じて貰えるわけがないと端から諦め、うまい説明は無いかと思考をぐるぐるかき混ぜる。
透が思い悩んでいる間にもギルドマスターは4人の職員達を退出させ部屋には3人だけとなった。
冷や汗をかき縮みあがりながらも必死に言い訳を探す透と、無言で鋭い眼光を浴びせ続けるギルドマスター。
そして何もできる事がなく極力気配を消して透の隣で小さくなっているツキミ。
そんな気まずい空気が流れている中、最初に声を発したのはギルドマスターだった。
「女神の加護というスキル、俺の目見たのはお前以外に過去1人だけだ。」
「……え?」
冷や汗が止まったわけではないが、透の他にも同じスキルを持っていたやつがいるという驚きの情報に一瞬思考が止まる。
(あのスキルはこの世界にくる時に貰ったもの、持っている人がいるならそれはつまり俺と同じく異世界からきたって事か……?)
ギルドマスターは透の心の中の独り言には気が付いた様子も無く淡々と話を続ける。
「勇者、現在はそう呼ばれている男が存在している。旅をするのであればそのうち耳にする事もあるだろうし、出会う事もあるかもしれねぇな」
黙り込んだ透へ向かって更にギルドマスターの言葉は紡がれる。
勇者を思い出し信頼と尊敬の眼差しを虚空へ向けて。
「そいつは『俺は魔王を倒しこの世界を救うために、異世界からやってきた』と突拍子もない事を抜かしやがった。だがその実力は折り紙つきで、魔族や魔物を次々と屠り数多くの人々を救ってきた。誰もそいつの異世界から来たっていうのは信じちゃいねぇが、いつからかその在り方を称えその男を勇者と呼ばれるようになった」
「ゆう、しゃ」
(異世界から来た勇者だと……。俺と同じ……、しかも勇者の行動なんて漠然と目指してたものそのままじゃないか)
透が声にならない声で勇者と繰り返すのを聞いたギルドマスターが頷き、再度透を睨み付ける。
「この国もその勇者に救ってもらって今が存在している、だから俺は危険分子を放置しておくわけにいかねぇんだ。その強さはただの人間ではあり得ねえ、勇者と同じく異世界から来たという馬鹿か魔王が勇者に対抗すべく生み出した存在かだ。再度聞く、お前は魔王の落とし子か?」
ひゅっと息を吸い込んだ音が響いた。
何か言わなきゃ、と焦った考えだけが透の頭の中を支配する。
口だけはその焦りを受け言葉を発しようと開くが、肝心の音だけが透の体内に取り残されている。
「ち、ちがうのだ……。とおる、は、透は!その馬鹿のほうなのだ!」
「ほう?」
続きを促す声と共にギロリとギルドマスターの視線がツキミへと移った。
今までその鋭い眼光に怯え何も発する事ができなかったツキミが涙目になり震えながらも訴える。
「透とは、草原で出会って助けてもらったのだ。その後透が冒険者になって一緒に色々なクエストをやったり、ダンジョンに潜ったり、かなり怖い出来事に巻き込まれたりしたのだ……。それでも透はいつもあたしの事を助けてくれたのだ!魔王の落とし子だって言うのなら、魔族だって言うのなら、もっと残忍なはずじゃないのだ?透はいつだって優しくてあたしを救ってくれる最高の馬鹿なのだ」
ギルドマスターの目がその言葉の裏を探るように細められる。
そして口を開こうとした時、透が意を決したように話に割り込んだ。
「ツキミ、ごめん、こんなに震えながらありがとう」
透の先ほどのまでの焦りが嘘のように消え、膝の上で震える手を握ったツキミの拳にそっと手を重ね微笑んだ。
その微笑みを受けてツキミの力が抜けふにゃりと安堵した笑みを返す。
「信じて貰えるとは全く思っていません。なので今までどうやって伝えようか迷っていて何も言えませんでした。でも、こんなにも必死に弁明してくれてる女の子が隣にいていつまでも黙ってるわけにはいきませんよね」
透はギルドマスターに向き直り、先ほどまで委縮してしまっていた原因となる瞳を正面から見返した。
そこには腹を決めた清々しい様子の透がいた。
思ったより長くなってしまったので、もう少しこのままの状態で続きます(._.)。




