目指せ、ルメジャン!
逃げ出すようにシュループ国の王都を飛び出した2人と力を貸すように現れたオンハルトをプラスした3人は灯り1つ無い街道を骨でできた狼のような物に乗り猛スピードで駆け抜けていた。
稀にモンスターが3人に気が付き襲ってこようとするが、機動性が高い骨狼に追いつく事ができず戦いとなる事はなかった。
途中で休憩を数回挟むが腰を据えて眠ったりする事は無く、道中の町や村を迂回しながらそのまま数日走り続けた。
濃紺の闇に煌めく星々のみが輝く空が薄っすらと白み始めた頃、一際大きな町が3人の前に現れる。
「ここがルメジャン国との国境に存在する町ロラッタか」
「もうクタクタなのだ……」
通常の馬車で王都からロラッタへと移動するには14日程かかる道のりをしっかりと休憩を取る事も無く、悪路も猛スピードで踏破できる骨狼に乗っていたおかげでたったの3日で到着してしまった程無理をしていた。
町に着いた安心感によって今までの疲労と眠気が一気に襲って透とツキミは今にも寝落ちしそうになっている。
「修行が足りぬな。町までもう少しだ、我に続け」
骨狼をずっと召喚し続け一番消耗しているはずのオンハルトだけがまだ余力を十分残していた。
フッと笑いマントをはためかせて骨狼に前進するよう命令するオンハルトに透が当たり前の疑問を投げかける。
「むしろ何でそんなに元気なんだよ……」
「闇が我に力を与える。今宵までは闇が深かったのでな」
オンハルトの言葉を理解しようと頭を悩ませていたツキミに透がそっと耳打ちをした。
「多分夜になると元気になる変態だ。道中に街灯も無ければ昼でも薄暗い山の中を踏破してきたからきっと元気なんだろう、全く理解できねえけど」
「なるほどなのだ……。とりあえずオンハルトが変態って事なのはわかったのだ……」
コソコソと小声で話していたが、その内容は全てオンハルトに聞こえていた。
オンハルトは不満げな独り言をボソッと残し今度こそ町に向き直って骨狼の速度を上げさせた。
30メートル程もある巨大な塀がシュループとルメジャンの国境を描くように建造されている。
そして塀を挟んでロラッタの町が存在している為、町の半分がシュループとなりもう半分がルメジャンとなっている。
ロラッタの町へ入ると国境を超えたのと同義となる為、町の正門には屈強そうな門兵が10人程おり町に入る手続きに時間がかかっているようだった。
短めの行列に並ぶと骨狼を珍しく思う人たちがチラチラと3人の事を見るが、オンハルトはそんな視線など何処吹く風で気にもかけず、2人は眠気に負け骨狼にしがみつくようにして浅い眠りに入っていた。
そして3人の入国審査の番がやってきた。
身分証明書の提出が求められた上に冒険者登録を行った際に使用した物に酷似した書類を使用しステータスとスキルを見られる。
更には手配書が回っている犯罪者ではないかの照合や国境を渡る理由等を聞かれた。
透とツキミのステータスの高さと珍しいスキルに騒然となり中々入国許可が下りなかったが、国境とは言え町の関所ではどう対応する事もできなかった為にルメジャンの王都につき次第冒険者ギルド本部にて対応する事となった。
すんなりと入国審査を終えたオンハルトが木に寄りかかり2人を待っていた。
僅かしかない木陰に頑張って入っている様子を見て「少しでも薄暗い場所を求めてるのだ……やっぱり変態なのだ……」とツキミがボソッとこぼす。
聞こえない声量で呟いたはずがオンハルトと目が合ってしまい慌てて目をそらした。
「遅くなって悪い」
「構わぬ、この町にはどれほど滞在する予定だ?」
オンハルトの問いにシュループ王都を出る事しか頭になかった事に2人は気が付いた。
今にも意識を手放してしまいそうな程、疲労がたまっている状態なのを自覚したいる2人は少しの休息と新しい町を見てみたいという欲求に素直に従う事にした。
「3日程にしようかと思うが、オンハルトも一緒の宿に泊まるか?」
「必要ない、我は闇に求められるままただ定めを果たすのみだ」
「よくわかんないけどわかったのだ、じゃあ4日目の朝にルメジャン側の出口?の関所あたりで待ち合わせでよいのだ?」
ツキミの問いに頷いたオンハルトはそのまま薄暗い細めの路地へと姿を消した。
「3日間泊まりたいんですけど、空いてますか?」
一番近くにあった宿に入り空き状況を透が確認する。
今にも寝そうでうとうとしている10代後半に見える2人に不審がりながらも、少し考えた店主は普段の宿泊代金よりも5割増しの値段を口にした。
眠気で思考回路が止まっている透とツキミはその値段に高いなという思いが一瞬頭をかすめたが、新しく宿を探す面倒さとロラッタの物価を理解していなかった為に、そんなものかと流しポケットから硬貨を取り出しカウンターに置いた。
店主はその様子に驚きを顔に出さないように必死に取り繕い片眉を動かしてしまった所で止まったが、店主の顔など見ていない2人が気が付く事は無かった。
鍵を受け取り部屋に到着するなりベッドに倒れこみ1秒と経たずにそのまま意識を手放した。
「なんだ今のガキ達は……どっかの貴族の坊ちゃんのお遊びか……?」
それにしては身なりが綺麗なわけでもなければ、こっそりと監視しているような護衛の存在も察知できない。
少し多めの収入に今日の晩酌の酒を何にしようかと考える方が重要だったようで、すぐに不思議な子供たちの存在は頭から抜けていった。
眠っていた2人が目を覚ましたのは、ロラッタの町に入ってから2回目の夕日に空が染まる頃だった。
お腹の虫がぐーっと叫んで存在をアピールしている。
「腹減ったな……なんか飯でも食いに行くか」
「そうするのだ」
宿屋の1階に降りて店主に今が何日目かを確認する。
自分たちが極限状態まで疲れていた事を理解していたので、どれくらい寝ていたかを確かめる為に。
透の質問に首を傾げながらも「2日目の夕方だ」と店主は答えた。
お礼を告げ、そのまま周辺のおすすめのご飯屋さんを教えてもらい2人は外出した。
「なんなんだ?あのガキ達は……」
1人残された店主はまた不思議そうに呟くが、それに答える者はいなかった。
「お待たせ致しました、こちらがラパンの丸焼き、タブイノの香草蒸し、砂蛙の油煮、すっきりロラッタ煮、黒パン、たっぷり具材の辛めスープでございます」
テーブルに乗り切るかギリギリな程大量の料理が2人の座っているテーブルに運び込まれてきた。
他のテーブルに座っていた人たちが驚いたように2人に集中する。
そんな視線を気にした様子も無く黙々と料理にかじりついていた。
会話をする時間も惜しいほどお腹が減っていた2人は、美味しいと思った物は相手に差し出す事でアピールをする。
瞬く間にテーブルいっぱいに広がっていた料理が無くなってしまった。
最後の1口を口に運んだ瞬間に食べる様子を呆気にとられて見つめていた周囲の人達から盛大な拍手が送られた。
2人は少し照れながらも店員さんに追加のラパンの丸焼きとフルーツの盛り合わせを頼んだ事で、更に周囲を驚かせた。
再び運ばれてきた料理を今度はゆっくりと味わいながら食べる。
「皮はパリっとして、中は肉汁がじゅわああで美味しいのだぁ」
「あぁ、これは確かに常に依頼が出てても不思議じゃねえな」
2回目の丸焼きもペロリと平らげ、新鮮なフルーツの盛り合わせへと手をつけた。
2人は久々に美味しい物を満腹になるまで食べれた事に満面の笑みを浮かべ、全て綺麗に食べてから手を合わし感謝を捧げた。
あっと言う間にロラッタに滞在する最後の1日となり、2人はそこまで大きくないロラッタの町をぶらぶらと散策しながら旅の備品を買い足していった。
時々薄暗い路地を覗くとオンハルトのような影がチラリと見える事もあったが、はっきりと確認する事はできなかった。
「そんなに大きくない町だしオンハルトに出会うかと思ったんだけどな」
「捕まえれなかったのだ」




