洞窟の中に広がる王都の闇
ツキミの提案により少し冒険の延長として草木で隠されていた洞窟探検を始めようとする2人。
透は灯りを持っていない為火の玉でも浮かせてみようかとチャレンジしたが、身体から離れてしまった術に魔力を注ぎ続け現状維持をさせる事が想定より難しく、洞窟の中に火の玉をいくつか投げ入れる結果となってしまった。
「人間って不便なのだ」
獣人族は夜目がきく者達が多く真っ暗な洞窟でも苦労しない。
ツキミはサラっと小回りがきく猫モードに戻り、早く入ろうと駄々をこね透の周りをぐるぐると回ったり飛び跳たりしながら透の暗闇対策を急かしていた。
目の前でジャンプして視界に入ってきた時には叩き落そうとするが、ツキミは空中で更にジャンプをして華麗に避けていく。
ツキミの煽りに対してイラついた様子を隠しもせず不機嫌さを声に乗せて発する。
「あー、わかったわかった。わかったからちょっと黙っててくんねぇかな?」
洞窟は透が手を伸ばせば届きそうな位の高さしかない為、結局魔力絨毯を広めに展開する事にした。
更に遠くから飛来してくる可能性のあるモンスターに警戒して、魔力を目に集める事で先ほどよりは暗闇の中が見えるようになった。
「行こうか」
「ほいなのだー」
2人気持ちを一瞬で切り替え洞窟の中に入っていった。
洞窟の中には面白いモンスターや珍しい鉱石があるという事はなく、小さなコウモリが数匹襲ってきた程度で特に何事もなく30m位進んだ所で突き当たりに辿りついてしまった。
害をなすわけではないので大人しくしているコウモリについては放置したまま軽く壁を調べる。
そのコウモリ達が2人から目を離す事なく見つめ、薄っすらと怪しげな魔力を纏い佇んでいる事に2人は気が付かなかった。
「拍子抜けなのだ」
興味を無くしたツキミが踵を返そうとした時、透が壁の違和感に気が付いた。
魔力絨毯が壁の僅かな隙間を感知しその奥の空間にまで入り込んだのだ。
「待て、この壁の奥に広い空間があるぞ」
透の言葉にツキミは好奇心を取り戻し瞳が爛々と輝く。
2人は仕掛けが無いか壁を探るがそれらしき物を発見する事はできなかった。
だが、仕掛けを見つけられなかったからといって今更帰る程2人は大人しくはない。
「壊すか!」
「壊すのだ!」
ツキミは透の言葉に元気よく同調し飛び跳ね、罠に警戒をし念のため2人を覆うように結界を張る。
狭い空間でルドニール改のガンブレイドを具現化しても邪魔になるだけなので、ルドニール拳銃モードを具現化し照準を壁へと合わせる。
無色の特大魔力弾が放たれ壁を粉砕した。
衝撃で洞窟全体が揺れ粉砕された壁の破片と土埃が2人を襲う。
それに紛れて明らかに壊した壁ではない大きい岩の塊が2人へ向かい飛んできたが、ツキミの結界にヒビを入れた程度で消えていった。
何が起こったのかと状況を確認しようとするが、それを防ぐように槍を持った人が3人現れ一斉に透とツキミに襲い掛かる。
ピシッという音と共に、結界のヒビ割れが槍を受けた場所から蜘蛛の巣状に広がった。
割れる直前で2人は壁から距離を取ろうと後方へと飛ぶが、いつの間にか後方には土の壁がそびえ立っており、ぶつかった衝撃で前へと押し戻される。
そして結界が粉々に砕け散った。
結界を割った所で槍を持っていた3人は撤収し、代わりに矢の雨が2人を襲う。
矢と矢の間には網が張られ、2人は後ろの土の壁へと磔にされた。
「ぐっ……」
呻き声を上げ逃れようとするが網には魔術が込められており、肩が壁から1cm程離れた所が行動可能限界だった。
土埃が収まり壁の奥に広がっていた空間が見えるようになる。
そこには薄汚れた格好をして卑下た笑みを浮かべた人が10人程いた。
その余裕の笑みとは対照的に手には槍や弓を構え2人が変な行動を起こせばいつでも襲い掛かれるように警戒をしている。
「あっ、しめーてはいはーんの人が何人もいるのだ」
ツキミがボソっと呟く。
透が記憶を探りながら相手の顔を見渡すとツキミの言葉通りに懸賞金が掛けられている人が3人程見つけられた。
「こいつ等……山賊か……」
透とツキミが好奇心で踏み入れた洞窟はここ数年王都を騒がせている山賊一味の隠れ家であった。
「皆さん、我らの住処に愚かにも足を踏み入れた輩は確保できたようですね?」
奥から山賊達に声を掛けながらゆっくりと現れたのは、見間違える事等ありえない程強烈な印象を2人に残した魔術研究所の所長であるエム・ド・ハゲヅーラだった。
予想外の人物の登場に2人とも目を見開き言葉を失う。
その間にもハゲヅーラは山賊達に指示を出しテキパキと2人を拘束したまま壁から外し隠れ家の中央へと移動させる。
「これはこれは!長瀬サンとツキミサンではありませんか!このような所まで一体どのようなご用事ですかな?」
ハゲヅーラは2人に警戒を残しているのか少し離れた場所から声をかける。
その顔には研究所で見たのと同じ笑みが浮かべられているが、目は一切笑っていない。
形式だけ丁寧ぶった言葉の中には自分の欲求を押し通す確固たる意志が存在しており、それこそ返答次第ではすぐにでも首を落とすぞ、という強迫めいた圧力を伴っている。
2人が返答に迷っていると愉快そうにハゲヅーラは言葉を続ける。
「私がここにいるのが不思議といった目ですね、いやはや魔術研究所というのは何分その維持にも莫大な金額がかかるんですよ。私自身が研究対象の武具等を集めたりもするのですが、中々珍しい物が市場に出回ってない事が多くてですね。資金集めと武具の収集、延いては魔術の発展の為なんですよ。わかっていただけますかね?」
饒舌に語ったハゲヅーラの目にはドロッとした欲望が渦巻いてギラギラとしている。
ハゲヅーラがゆっくりと語っていたおかげで、ある程度落着きを取り戻した透が顔色を伺いながら疑問を投げかける。
透は悟られないように自身に身体強化をかけていく、その一言で状況が悪くなって山賊に襲われても耐えれるように。
「なるほど、状況は理解しました。それで?俺たちが今後も黙っているので帰して下さいって言って解放してもらえるんですか?」
透の言葉を予想していたかのようにハゲヅーラは笑みを強くした。
笑ったのはハゲヅーラだけではない、周囲にいた山賊達はハゲヅーラよりもわかりやすく声を上げて笑い出した。
「おいおい、坊主は自分の状況がわかってねえのか?」
「ただで帰して貰えるなんて虫がよすぎるだろーが」
見下す山賊達をハゲヅーラが落ち着かせ目の前に青白く光る1枚の金属板を取り出した。
「こちらの契約板にサインを頂いて、私たちの協力者となって頂けるのであればその身柄は解放する事をお約束致しますよ」
契約板は契約書よりも拘束力の高い物となり、魂に契約を刻み付ける事でお互いに約束を違えないようにする物であり、一方的に契約を破棄する事はできない。
もしも契約内容に反する行いをした場合にはその場で死が訪れるという物だ、とハゲヅーラは続けて説明を行った。
ハゲヅーラが提案したのは透とツキミの身柄の安全を約束する代わりに、実験体として2人の全てをもってハゲヅーラへ協力するという内容だった。
今現在透とツキミには選択肢が与えられる状況ではなく、更には断る事で2人には価値が無くなり即刻殺される事が手に取るようにわかる。
ツキミと透は互いにアイコンタクトで意思疎通をし結論を出した。
身体強化に回す魔力量を増やし、キッとハゲヅーラを睨みつけ言い放った。
「「断る」のだ」




