「名付けて、魔力ガム」
翌朝日が昇ると同時に2人は王都を出発した。
とにかく少しでも多く路銀を集める為に2人はタブイノ、スゴラマの討伐と、ラパンの捕獲、いつもの薬草収集、麻痺消しや毒消し等に使われる薬草の収集クエストを受けていた。
「ちょっとクエスト受けすぎちゃったかなぁ……終わるだろうか……」
「弱気にならないのだ、数日かければきっとなんとかなるのだ!」
透が夢見ていた異世界生活では、王宮かどこかで召喚されて途方もないチート能力を山盛り授かっていて、世界を救って下さい勇者様!と可愛らしいお姫様にお願いされ、王家から最強の装備を受け取り颯爽と魔王を討伐して戻りハーレムを築き上げるというもの。
決して大衆の中の1人として存在し、旅する路銀に困り泥だらけになりながら僅かなお金を稼いで生活をするという物ではなかったはずだ。
ブツブツと文句を言いながら、ツキミの後ろをついて歩いて裏山へと入った。
透は女神の加護と文句を言いながらも日々の鍛錬を怠らないおかげで常人よりも既に大分強くなっているのだが、そんな透と一緒に訓練を日課としているツキミもまた遅咲きの特異点ではあるがゆえに、通常の獣人族よりもかなり強くなっていた。
初心者2人が初見で王都の樹海ダンジョンを31階層まで踏破する事は異例の出来事なのだが、それを教えてくれる友人はいなかった為2人とも自分たちの強さを正しく認識できていなかったのだ。
透は魔力絨毯を展開し見慣れた薬草を収集と周囲の索敵をしていく、今では魔力絨毯は常時発動してても問題無い位には魔力量も増え範囲も広がり展開速度も上がった。
麻痺消しや毒消し用の新たな薬草をツキミが透に渡す事で、魔力が薬草の形を覚え一気に探せるようになる。
「なんかこう魔力絨毯で見つけるのはいいけど、もっと簡単に収集できたりしないもんなんかね」
透は歩いてその場までいって屈んで草を取るという作業を面倒くさがり、何かより効率的に行える方法が無いかと頭を捻りながら歩く。
薬草を覆っている部分だけ魔力量を増やしてみるが青白く光る光量が増えただけだった。
「あっ!」
透は何かを思いついたかのように声を上げて立ち止まる。
ツキミは怪訝な顔をしながら透へ声をかけるが、得意そうな顔で静止を促されその場に留まった。
分かりやすく光量を増やした薬草に向かって、指先に小さな球体で集めた魔力を投げ薬草の根本に当てたかと思うと指をクイッと曲げた。
すると引き戻される勢いで薬草が根本からもげ、魔力の球と一緒に透の手元まで飛んできた。
よくよく目を凝らして見ると指先からは投げた魔力球までには細い魔力でできた糸みたいな物が繋がっており、指を曲げる動作に合わせて縮んでいた。
「名付けて、魔力ガム」
「やっぱりネーミングセンスは無いのだ」
若干呆れ気味のツキミを残し、透は新しく開発した魔力ガムで薬草をどんどん収集していく。
自分の出来栄えに満足しニヤニヤしながらひたすらに収集している透を放置しツキミは木から木へ飛び移りつつ敵を探す。
「ツキミ!斜め左前10mほど先に何かモンスターがいるぞ」
「ほいなのだ!」
先にモンスターを見つけたのは魔力絨毯を常時展開している透の方だった。
透の忠告に程よい緊張感が走り2人はすぐに臨戦態勢に入る。
森の奥からやってきたのは、顔と同じくらい長い牙を3本口から生やした巨大なイノシシの群れ。
頭上まで伸びる牙と牙の隙間から見える小さな瞳が獲物を狙うようにギラついている。
群れが2人を発見し木々を薙ぎ倒しながら突進してきた。
二手に分かれ飛びのきながら透は魔力弾をツキミは雷撃を落とし1匹ずつ仕留めるが、数が多く全く減った気がしない。
「これがタブイノの群れかよ……想像より迫力あんなあ」
「でも思ったより強くないのだ」
今回の討伐対象でもあるタブイノは群れで暮らすモンスターであり繁殖力が強い。
数が少ないうちは低ランクの討伐依頼として募集がかかるが、森を破壊する程繁殖すると中ランクパーティが数十組共同で大きな討伐が行われる程だ。
感心した様子のまま透はルドニール改を構え群れの中に飛び込んでいく。
バッタバッタと切り倒して徐々にその群れの数を減らす。
ツキミも負けじと10発の特大雷撃を一気に落としタブイノを丸焦げにしていく。
お互い競い合うようにタブイノの群れを蹂躙しつくした。
「ここからがお仕事なのだ、右耳を切り取っていくのだ」
モンスターの捕獲であればそのまま持って帰れば依頼達成となるが、討伐となると不正が無いように倒した証明が必要となってくる。
モンスターにより必要部位は多少違いがあるが大半は右耳が証明部位として必要になってくる。
「もし空間魔術に空きがあるなら1匹くらい持って帰っておけば、旅の途中の食料に困らないんじゃね?」
空中に魔方陣を浮かべその中にせっせと切り取った右耳を投げ入れていくツキミに透は提案をする。
どうせ右耳以外はアンデッドが生まれないように燃やしつくす為、食べれるモンスターなら持って帰って問題は無い。
「タブイノは食べた事無いから美味しいかわからないのだ……。今試してみるのだ?」
「お、それいいな」
ルドニール改で皮をはぎ、肉を切り取り剣先に突き刺しツキミへと差し出した。
それをツキミが炎の魔術でこんがりと焼くと、周囲に香ばしく食欲をそそる匂いが立ち込める。
2人は涎を拭きながら熱々の肉にかぶりついた。
筋張った歯ごたえのある肉を噛みちぎり、何度か噛む事でやっと中からジュワーっと肉汁が溢れ出てくる。
その味に2人は思わず吐き出した。
「なんなのだ、これ!?」
「味がしないってこんなに美味しくないもんだったんだな」
そう、筋が多く硬い肉を頑張って食べても中から出てくるのは無味の肉汁とも呼べない液体。
肉自体にも味が全く存在しておらず、無味の硬く歯ごたえのある塊である。
2人はため息をつきながら右耳を切り取る作業へと戻り、余った大量のタブイノを燃やしつくした。
更に薬草収集を続けながらラパンを追いかけ森の中へ入っていくと、2足歩行をし手には棘がびっしりと生えている鉄球付きの鈍器を持っている熊に遭遇する。
この物騒な熊も今回の討伐対象であるスゴラマである。
2メートル半程ある背丈に厳つい顔、見るからにムキムキの筋肉、そして手の鈍器を見て一瞬怯んだ透だったが、すぐに魔力弾を放ち追撃をするように飛び込み切りつける。
スゴラマの首が後方へと飛び一瞬で決着がついた。
宙を舞うスゴラマの首が身に起こった事を理解できず、パチクリと瞬きをし咆哮を上げようとして声が出ない事に困惑しつつ絶命した。
「なんかあっけなかったのだ」
「そうだなー、もう少し強いと思ったんだけどなあ」
透は困惑顔で絶命したスゴラマの首を拾い上げ右耳を切り落とすと胴体の方に放り投げた。
胴体を燃やしていたツキミが顔にも点火をし後処理をこなす。
その後も数匹のスゴラマに遭遇したが危なげもなく討伐していく。
太陽が沈み出す夕刻となり今日の成果に満足しホクホク顔で戻ろうと下山し始めるとツキミが不自然に草木で隠された小さな洞窟を発見した。
「透、透!ここが気になるのだ」
洞窟を指さし好奇心を隠し切れない様子で透を呼び止める。
王都付近で遭遇したモンスターに強い者がおらず、少し調子に乗っていた2人は好奇心に突き動かされるまま洞窟の中へと入っていった。
またもやお久しぶりの更新となります。
なんとも今度は人生初のインフルエンザに……( ;∀;)
もしかしたら今年は厄年なのかもしれない……。
のんびりと亀更新ではありますが、どうぞ今後ともお付き合い下さい('◇')ゞ




