樹海ダンジョン 下
思いもよらず気持ちが通じ合った一件があり30階層まで難無く突破はしたが、命がけのダンジョン内で戦闘の連続だった為甘い雰囲気はすぐにかき消され緊張感に包まれていた。
休憩所に入り一息ついた事で先ほどの一件を思い出し徐々に顔を赤らめよそよそしくなる。
──チラチラ。
もじもじ……。
「「あっ」」
勇気を出して発した声が重なりお互い相手に先を促し話が中々進まない。
そんな2人の様子を生温い目で周囲が見つめ羨望と皮肉が漏れるが、2人の世界に入り切っている透とツキミは気が付いていない。
「つ、次の階について情報を集めようか」
「そ、そ、それがいいのだ」
目が合っては逸らすを繰り返していたがやっと動き始め、商人から31階層以降の情報を聞き出す。
「ここより下は毒沼が多く更に深くまで行くと毒霧もかかっているますねぇ。この毒消しポーションと、持続的に体力を回復してくれるポーション、それから通常の回復ポーションも多めにお持ちになる方が多いですねぇ」
商人の話を聞いて自分たちの持ち物を確認するが、ポーション類はかなり消費されておりおすすめ通り多めに購入する事を決めた。
それと同時に食料もある程度購入し31階層に向けて英気を養っていく。
念の為に持続回復のポーションを飲み31階層へ続く扉を開けると、そこは薄暗くどよっとした空気が立ち込め異臭が漂っていた。
泥が少し固まったような地面が続いており、気を抜いて足を踏み入れるとツルっと滑ってしまう。
更には土色と紫色が混ざったような毒々しい水たまりが点在している。
2人は自分たちが歩く地面に薄く結界を張り毒沼に触れないよう細心の注意を払って進みだした。
「それにしても、空気までどんよりとしてるし臭いしあんまり長居したくない場所だな」
透の呟きに対していつもすぐ返ってくる返事が来ない事に不信がり、ツキミを見ると目をランランと輝かせ毒沼の上に張った結界の上で飛び回っていた。
「ちょっとだけ毒沼って触れたらどうなるのか気になるのだ」
そう言いながら結界を手が入る大きさだけくり抜きそっと手を伸ばす。
透が止めようと声を出そうとしたが時すでに遅し。
ツキミの細い指先に毒沼が触れ、白い指先が触れた場所から青紫色へと変色を起こして手を蝕むように毒がのぼっていく。
慌てて毒を落とそうと手を大きく振るが毒の浸食は止まらない。
「と、透!たすけてなのだ!!」
半泣きで駆け寄ってくるツキミの為に毒消しポーションを取り出し、半分を患部にかけ半分を飲ませる。
毒に侵された部分の色が徐々に元の色へと戻るのを見て、ツキミは落ち着きを取り戻し安堵のため息をつく。
バツが悪そうな顔で恥ずかしさの為か少し頬を赤らめ感謝を伝えると、そそくさと歩き出した。
透は苦笑いをしながら後ろをついて行く。
極力結界を張っていても毒沼の上を避け迂回しながらボス部屋へと向かい順調に進んでいく。
途中毒沼の中からヘドロにまみれた魚が結界を割り襲い掛かってきたがルドニール改で切り裂く。
魚が半分に切れた際に周囲に毒をスプレーのように巻き散らしていったのを2人して浴びてしまい、急いで毒消しポーションを飲むといった事態があった。
その後も同じ毒魚が飛び出してきたが、分厚くした結界に体当たりして毒を巻き散らすを続けていたが、結界を割られる事はなく難なくボス部屋へとたどり着く事ができた。
「いよいよボスか、早くこんな所とはおさらばしたいぜ」
透の言葉にツキミは頷き、結界を張り続けて失った魔力をポーションで回復し万全の体制を整える。
扉を開けると中には薄紫色の薄い霧が周囲を覆い視界を悪くさせ、足元は相変わらず最悪のコンディションだ。
そして目を凝らすと点在する毒沼と中央に巨大な毒沼が見える。
もわっと広がってきた霧を吸い込むと体に痛みが走り、体力が削られ倦怠感に襲われる。
体力を持続的に回復させるポーションを多めに飲み、足元に結界を張り周囲を警戒しつつボス部屋の中央に向かって進む。
巨大な毒沼を覗き込むとゴポゴポと音を立てながら不気味な泡が上がっており、沼の中央が重力に逆らってヘドロが盛り上がり蠢いている。
「先手必勝!」
透はルドニール改を構え蠢くヘドロの中央に向かって魔力弾を放ち、ツキミは全方向からの攻撃に備え魔力弾の通過する空間以外を結界にて覆い警戒を強めている。
盛り上がっていたヘドロは魔力弾を撃ち込まれた事によって爆散し沼へと還っていったが、再度集まりより大きな盛り上がりとなった。
そのヘドロの中からギロリと2人を睨みつける目が現れ、ガパリと口を大きく開け空気を吸い込んだと思ったらヘドロ弾を2人に向かって吐き出す。
結界にヘドロ弾が当たり煙を上げ音を立てながら結界を徐々に溶かし出している。
ツキミが慌てて結界を修復させていくが、ヘドロ弾の猛攻は止まる事を知らず前が見えなくなるほどのヘドロで結界の外側が埋め尽くされてしまった。
「糞ッ、一旦下がるぞッ」
「はいなのだっ」
扉まで2人は後退し自分たちを覆うように結界を張りヘドロまみれになった結界を解除すると、そこにはいつの間にか透の3倍程あるヘドロでできた土偶のような物が存在していた。
泥偶の足元に広がっていた巨大な毒沼は今や一滴も残っていなかった。
泥偶は2人目掛け腕を一振りする。
ヘドロが飛び結界に当たった衝撃で薄くヒビが入り音を立てて結界を溶かし始める。
ツキミは結界の修復をし、透は再度魔力弾を放つ。
透の魔力弾が泥偶を貫通し多数穴が開くがすぐに周囲のヘドロが流れ込み穴が塞がれてしまい目立ったダメージを与える事ができない。
「あんなのどうやって倒せばいいのだ……」
ツキミの顔に絶望が浮かび両手が震えだし恐怖に飲まれつつ透を見ると、1ミリも諦めていないどころか不敵に微笑みを浮かべる透がそこにはいた。
「ツキミ、聞け!俺は異世界転移で女神の加護なんか付けてやってきてんだよ!つまり俺の世界の常識で言えば俺はチート満載で絶対負けねえ無敵のスーパーヒーローになってるはずなんだ。なんとかなる気がしてこねえか?俺はなんとかなる気しかしねえぞ!」
今までに見せてきたどんな表情よりも自信に満ち溢れ、本気で負ける事なんて疑っていない様子でそこに立っている。
ツキミは透の言葉に呆気にとられながらも、先ほどまでの震えや恐怖が軽減されている事に気が付く。
「言ってる事は半分もわかんないし、なんか透の中身が入れ替わった感じがするのだ。でも、なんかなんとかなる気がしてこなくもないのだ」
そう言ってツキミは透に微笑みを返すと、透から指示が飛ぶ。
透の指示に従い結界の強化とポーションの準備を行う。
「ドロッドロてこたぁ、干からびさせて固まった土の塊を粉々にぶち壊してやったらいいんだろ!そろそろ主人公らしい事してもいいんじゃねえの!」
透は叫ぶとルドニール改を解除し、ガンブレイドではなく拳銃だった元のルドニールを2丁具現化する。
両手にルドニールを構え泥偶の頭上へと照準を合わせイメージを膨らませ魔力を練る。
2つの銃口に光が集まり直視出来ないほどの明るさと肌を焦がすような熱量が膨れ上がっていく。
その間にも泥偶は攻撃の手を休めず、強力なヘドロ弾を撃ち込んでくるがその全てを強化したツキミの結界が防ぎきる。
「働け俺のイメージ、持ってけ俺の魔力。創るは太陽、目標はヘドロ野郎の真上!」
引き金を引いた衝撃で足元の結界にヒビが入り、ツキミが慌てて修復をする。
太い2本の光線が真っすぐと泥偶の頭上まで伸び、到達したかと思うと光線同士が絡まり巨大な球を作っていく。
その眩しさと熱さはまさに疑似太陽である。
必死に疑似太陽を消そうと泥偶は殴ってみたり、ヘドロを飛ばしてみたりするが効果はなく、泥偶の頭から徐々に潤いが無くなり泥偶の動きが鈍くなり始める。
疑似太陽が泥偶の肩幅と同じくらいの大きさになり、透はやっと引き金から指を離す。
ふらついて倒れそうになるのをツキミが支え、魔力と体力の回復ポーションを透の口に流し込む。
「まだまだ終わんねえぞ、とっとと干からびやがれ」
ポーションで復活した透は再度ルドニールを2丁構え再び魔力を練り始める。
再度引き金を引くと泥偶の周囲の空間に魔力弾が当たり、魔力弾は鏡へと変化を遂げる。
胸元の高さに泥偶を囲むように8個、足元にも同じように8個の鏡が出現し疑似太陽の光を反射し数多の方向から泥偶を追い詰める。
泥偶は疑似太陽を破壊するのを諦め、術者である透を仕留めようと錆び付いたような動きでヘドロ弾を放つが、乾いた土は泥偶にとって相性が悪く威力も速度も半分以下になっている。
結界の強度を落としたツキミによる竜巻で簡単にボロボロとヘドロ弾は崩れその攻撃が2人へ届く事はない。
そうこうしているうちに泥偶は7割が乾いてきており、動かせるのは足元と指先位になっている。
透はルドニール2丁を解除し、ガンブレイドであるルドニール改を再びその手に具現化する。
雄叫びを上げながらツキミの作る結界の階段を駆け上がり、泥偶の胸元へ引き金を引いて高周波を放つルドニール改を突き刺す。
更にルドニール改の放つ高周波に意識を合わせ魔力を上乗せしその振動を泥偶全体へと響かせる。
透も自分で作った疑似太陽に身を焦がされるが、ツキミの結界が透を覆いその光と熱から透を必死に守る。
カラカラに乾いていた場所は振動で割れ、僅かに残っていた水分を含むヘドロが集まって最後の力で反撃をしようとするのを炎を纏った魔力弾を撃ち込み蒸発させ砕き散らせた。
泥偶の残骸があった場所には倒した証に魔石が落ちているのを確認し、大きなため息なつきながら疑似太陽、鏡、ルドニール改を解除した透は疲労によりその場で倒れ意識を失った。
ツキミが慌てて駆け寄りポーション類を飲ませるが目が覚める気配は無く、仕方なく透をおぶって出口を目指す。
ポーションも残り少なくなっていた2人は魔方陣を使い地上へと戻る。
ツキミは宿のベッドまで透をおぶったまま歩き、体力の限界を感じベッドへ一緒に倒れこんだ途端にそのまま意識を手放した。
久々の更新となります。
いつもより少し長くなってしまいました、お付き合い頂きありがとうございます。
徐々にキャラが変わってきているのはご容赦下さい。
面白かった、更新頑張れなど思って頂けましたら、
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