樹海ダンジョン 中
主にツキミのおかげで12階層へと降りてきた2人は、今度こそ迷わないようにツキミの感覚を頼りに時には川を越え、雑草をかき分け獣道を超え、偶に石畳を歩き進んでいく。
着々と進み難無く20階層も踏破し、休憩所に入り食事を取り21階層の話を聞く。
21~30階層は今までのような山林の中で数メートル先も見えない濃い霧が立ち込めており、気配を消してモンスターが襲いかかってくる。
2人は意を決して21階層に降り立ち霧の濃さに愕然とする。
ツキミは霧もかかる森の中で狩りをして暮らしていた獣人族なだけあり軽い足取りで進んでいくが、運動を全くしてこなかった透にはステータスで補正があるもののかなり辛い道のりで肩で息をしている。
奥へと進むにつれて霧が濃くなっていき、疲労が蓄積した人間の生命の灯を刈り取るように霧の中で息を潜めるモンスター達が襲い掛かってくる。
「クッソ……」
霧中の水蒸気が服に染み身体に纏わりつき重くなった身体を動かして、悪態をつきながらもツキミを見失わないように必死に後ろをついていく透。
どれだけ警戒を強めていても、この濃い霧でモンスターが見える範囲まで来てからだと対処が間に合わず喉元を噛み切られてしまう。
モンスターに対応すべく常に魔力絨毯を広範囲に展開して歩いており魔力の消費も大きい。
「ツキミ!斜め右後ろからモンスターが来るぞ」
「ほいなのだ!」
魔力絨毯に2人に向かって接近してくる反応を捉えすぐにツキミと応戦体勢へと入る。
目を凝らすが濃い霧が視界を奪い気配でしか距離感を掴めず緊張が張り詰める。
魔力絨毯で敵を覆いその全貌を察知すると、高さが透の身長の3倍はありその長さは更に倍以上ある。
「馬鹿でけえのが、来るぞ!」
タイミングを計っていた透が合図すると同時に左右に飛び退く。
2人がいた場所には人一人が丸々入りそうな程大きな白い弾丸が地面に衝突し、そのままべしゃっと広がった。
そして左右についた8つの目がギョロリと2人を見下ろし、太い毛がびっしりと生えた前足を振るった。
ツキミは軽い動きで前足を回避し雷撃をモンスターへとぶち込むがびくともしない。
透はルドニール改でその前足を受け止めモンスターを観察しようとしたが、動きを止めた透にモンスターは前足を離し背中を向けると鋭くとがった尻の下から白い弾丸を発射した。
「──ッッ」
声にならない声を上げ右へ転がりながら回避し、透の背後でまたべちゃっという音と共に白い弾丸が広がり飛び散る。
飛び散った弾丸は透の右腕に付き、回転を続けようとする透と地面を接着させた。
「蜘蛛の糸か……」
視界では霧に覆われモンスターの全貌を認識できなくても、魔力絨毯でモンスター全体を覆い形を把握していた透は襲ってきた白い弾丸の正体を理解し舌打ちする。
素早く地面と接着された上着を脱ぎ棄てると、巨大蜘蛛に向かって炎を纏った魔力弾を撃ちつけ走る。
巨大蜘蛛は身体を覆っている毛が焦げ苦悶の声を上げるが前足で透を切りつけ、ちょこまかと地面と空中を逃げ回るツキミに粘着質な糸でできた白い弾丸を放ち続ける。
ツキミが回避する度に弾丸は弾け広がり周囲をその糸で埋めていく。
「ツキミ!!!気をつけろ!その白いのに触れると身動きが取れなくなるぞ!!!!」
霧で見えないツキミに大声で忠告をするが──視界に捉えた時には時すでに遅し、片足に白い弾丸が掠め木に宙吊りとなっていた。
巨大蜘蛛は木と木の間に簡易的な巣を作り、ツキミをその中央に逃げ出さないように手足と腹部を固定して貼り付けていた。
「とぉ……る……ごめ……なの、だ」
巨大蜘蛛は透には目もくれず、ツキミに対して餌以上の感情を持っているかのように8つの目で舐めまわすように見て、ゆっくりゆっくりとツキミの胸元目掛けて前足が近づく。
糸で圧迫されて苦しそうな声を出し、恐怖と嫌悪感に顔を歪めているツキミを見て透の中で何かが音を立てて弾け飛んだ。
「汚らわしい手でツキミに触んじゃねえ!!!!」
透の怒りに呼応してルドニール改がその刀身を倍程に大きくさせ怒りの炎を纏い、全てを焼き尽くさんとばかりに水蒸気を蒸発させる。
巨大蜘蛛に飛び掛かりルドニール改を振り下ろすと後ろ足の一本がスパッと切り離され宙を舞った。
巨大蜘蛛が痛みに雄叫びを上げ透へと向き直り前足を振り上げるが、透が動く方が速い。
「鈍間が、とっとと消え失せろ」
その場でルドニール改を振り回すだけで纏っている炎が乗った風の刃が飛び巨大蜘蛛を切りつけ燃やす。
巨大蜘蛛は反撃をする間もなく、切り刻まれ燃やされ粒子となってダンジョンへと還っていった。
巨大蜘蛛が消滅した事によって周囲に撒き散らされていた蜘蛛の糸も徐々にダンジョンへと還っていく。
透はルドニール改の具現化を解除しツキミに駆け寄り抱き留めると、頬を軽く染め目に涙を溜めて安堵したようにゆっくり微笑みながら感謝を伝える。
至る所に白濁とした蜘蛛の糸が絡まり、まるで交接があった後のような姿に透は情欲を掻き立てられる。
ゆっくりとツキミの頭を撫で抱き寄せ耳元でボソリと呟く。
「俺……ツキミの事、すんげえ好き、かも……」
ふいに出た言葉に透は自分自身で驚き耳まで真っ赤に染め上げる。
勿論耳元で囁かれたツキミも同じように真っ赤になって硬直し驚きで声も上げる事ができず金魚のように目を見開き口をパクパクと動かしている。
「ご、ごめ!今の忘れて!!」
透は抱きしめてた拘束を解き慌てて立ち上がると赤い顔を見られないように後ろを向き、もう行こうかと先を促し歩き始める。
その歩みは手と足が一緒に出てロボットのようにとてもぎこちなく、木の根に躓きよろけてしまう。
ツキミはやっと我に返り、どもりながら透を必死に呼び止める。
「あっ、あたしも……あたしも!透が、す、すき……なのだ」
真っ赤な顔のまま必死に答えを出すツキミだが、羞恥心に負け語尾がどんどんと小さくなっていき最終的にはもごもごと口の中だけで呟く。
俯きつつチラチラと透を前髪の間から覗き見ると今度は透の方が真っ赤のまま硬直し口をパクパクと動かしていた。
時間が停止したように硬直し赤い顔で見つめ合う2人の間に再び霧がかかりはじめる。
先ほどまで重たく冷たかった霧が今はひんやりと気持ちよく感じた2人だった。
暫く頭と顔を冷やしてから落ち着きを取り戻した2人は再度現実を確認するように一度きつく抱きしめ合い名残惜しそうに離れるとボス部屋に向かって歩き始めた。
霧の濃度に変わりはないが2人の足取りはどことなく軽く感じる。
多少のぎこちなさが残りはするが、お互いの思いが通じ合った事もあり以前に比べ連携が上手く取れている。
道中のモンスターを軽々と蹴散らせ、ボスも難無く突破していく。
勢いに乗り濃霧が立ち込める30階層までを踏破し、次のフィールド情報の収集も兼ねて休憩所にて一休みをする事にした。
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