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最強の武器はこの妄想力  作者: 緒嶋まゆ
第一章
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エム・ド・ハゲヅーラ

「ウッラァァアァァ」


 透の八つ当たりとも取れる雄叫びと共に跳躍した透の全体重を込めたルドニール改が振り下ろされ、怒りをまともに食らったゴブリンは緑色の体液を撒き散らし潰れた。

 少しすると地面のシミとなった元ゴブリンから煙が上がり、1滴のシミすら残さず最初から何も無かったかのようにダンジョンに吸収された。

 透はルドニール改を振り、ゴブリンの体液を更に地面に撒き散らしてから奥に現れたもう3度目の階段を下る。


 ツキミは透の姿に呆れつつも後ろにつき、朝の魔術研究所での一件を思い出しつつ階段を下っていった。



 ◇◆◇



 太陽も昇り王都全体を明るく照らしてから暫くして、透は足取り重く魔術研究所へと向かっていた。

 最後の曲がり角を曲がりいよいよ魔術研究所の全貌が見えるといった時に、突然透の腕が掴まれ引き寄せられる。

 透は前に引っ張られる力に抗う間もなくつんのめり、ボヨンとした生暖かい感触に抱き留められた。

 目を白黒させて必死に状況を理解しようとするが、それよりも早く耳元から荒い息遣いと熱を含んだ声が届き全身に鳥肌を生じさせた。


「長瀬サン!!!お待ちしておりましたよー、もう離しませんよー、ささささささささ、行きましょう!!!」


 突然の天敵に頭が理解する事を拒む透を、ずるずると引きずり魔術研究所に進むハゲヅーラ。

 ツキミはその様子に同情の眼差しを向けはしたが助ける事はなく、ハゲヅーラの隣に控えていた昨日の美人と一緒に2人の後を追いかけた。

 5メートル程ずるずると引きずられた所で透が我に返り、ハゲヅーラの腕を振りほどこうと暴れるが思っている以上にガッシリと捕獲されておりハゲヅーラはびくともしない。


「いやあ長瀬サンに早く早く会いたい気持ちを抑える事ができず、昨晩から此処でお待ちしておりましたよ!!」


 ハゲヅーラの言葉にドン引きの様子で顔を顰める透とツキミだが、そんな様子を気にもせずハゲヅーラはウットリとした顔で透に愛の言葉を捲し立てていた。



 魔術研究所の中でも透は引きずられ続け、パソコンに近しい魔道具が多く並ぶ薄暗い部屋でやっと解放された。

 ずっとハゲヅーラに捕獲されていた為に透にはハゲヅーラの汗がねっちょりと染み込んでいた。

 解放され半泣きの状態でツキミに近寄っていく透だが、1歩近づくとツキミは露骨に嫌そうな顔をしたまま1歩下がる。

 透が少し速足で3歩近づくとツキミも速足で3歩下がる。

 一進一退で2人の距離は一行に縮まる様子を見せない。


「さあさあさあさあ!長瀬サン、あの未知なる武器をここで出して下さい!!!さささささささささ!!」


 そんな2人の動きを止めたのはハゲヅーラのワクワクとした声だった。

 いつの間にか好奇心を隠さず目をランランと輝かせた研究員達が透とツキミを囲っている。

 透はツキミに目配せをするが、ツキミは冷たい表情で早くやれとばかりに顎をしゃくるのみ。


「はぁ……」


 溜息を吐きつつ透はルドニール改を具現化し鬱憤を晴らすために力を込めて床に突き刺した。

 床をも貫く質量に一同は驚きを隠せない。

 研究員達はすぐに我に返ると透とツキミを押しのけ我先にとルドニール改に群がる。

 ある者はペタペタと触れ、ある者はよくわからない機械を当て、ハゲヅーラは恍惚とした表情で舐めまわしていた。


 武器は透のイメージを素に具現化されている為、一回解除して再度具現化すれば舐めまわされた涎等も綺麗さっぱり消えてはいるのだが、それでも自分の大切な武器を舐めまわされるのは気持ちが悪くて仕方ないと考えるのが一般人である。

 勿論透も一般人と同様の思考をしているため、舐めまわすハゲヅーラを見てげっそりとした顔でルドニール改の具現化を解除する。

 フッと目の前からルドニール改が無くなり不満そうな顔で皆が透に目を向ける。


「一般の研究員の方々みたいに触ったり分析したりする分にはいいが、ハゲヅーラ、お前の舐めまわすのだけはダメだ」


 透が厳しい口調で至極当然な事を言い放つ。

 それに研究員達は確かにと呟きつつもハゲヅーラを非難するような目で見る。

 ハゲヅーラは動揺しブヒブヒと汗をまき散らしながら必死に弁解をし始めた。


「誤解です!長瀬サン!私の一番優れているのが味覚なので、物質の分析の為に少し味見をさせて頂いたまでで、決して舐めまわしてなどいません!」

「それでも舐めていた事には変わりねえだろうが、気持ち悪いから却下だ」


「そんなああぁぁぁああぁぁぁ」


 ハゲヅーラの悲しい叫びが研究所に木霊する。

 透とツキミは何でこんな奴が所長なんかになっているんだと頭を抱えるが、それでも魔術や武器に対する熱意と分析能力については誰もが認めるようで研究員達はその変態行動を窘めはするが、ハゲヅーラに意見を求める者も少なくない。


 少しするとハゲヅーラも落ち着いてきたようで研究員達が集めた情報をもとにテキパキと指示を出していく。


「なんかちゃんと仕事をしているハゲヅーラは意外なのだ……」

「そうだな……」


 研究員達も一度自分達の世界に入り込むと周りが見えなくなるタイプのようで、研究所に招待された透とツキミは完全に蚊帳の外となり放置されていた。

 部屋の隅からその様子を見ていた2人にひと段落したハゲヅーラが声をかけてきた。


「長瀬サン、舐めたりはしないのでもう一度目の前で見せて頂いてもよろしいでしょうか」


 真剣な表情で改まってお願いしてくるハゲヅーラに透も頷く事しかできず、ルドニール改を再び具現化する。

 ハゲヅーラは透に礼を伝えると周りの研究員達に次々を指示を出していく。


 最初こそ真剣な表情ではあったが、ルドニール改を目の前にしていると徐々に鼻息が荒くなり、目がうっとりとした物に変わって来る。

 危機感を覚えた透はルドニール改を解除するが、時既に遅し。

 ハゲヅーラは最初の舐めまわしていた時と変わらない表情をになっており、透に襲いかかってきた。

 それと同時に研究員達が一斉に2人にお辞儀をし感謝の言葉を伝える。


 2人は左右に飛びのきハゲヅーラの突進を避け、いつの間にか美女が開けていた後ろの扉に向けて駆け出す。

 2人を追いかけようとするハゲヅーラを研究員達が抑え込み、美女が透とツキミを追い越し道案内をするように前を走る。


 ──ゼエッ……ゼエッ……


 研究所を出た所でようやく止まり息を整える。

 全力疾走をしたせいで肩で息をする透とツキミとは対照的に涼しい顔をして脇に立つ美女。


「御二人ともご迷惑をお掛けし誠に申し訳ございません。研究にお付き合い頂きましてありがとうございます」


 どうやら研究所の人達はハゲヅーラの扱い方に慣れているようで、珍しい術や武器を持つ人がいるとかなりの高確率で今回のような状況になるそうだ。

 2人は美女から報奨金を受け取りダンジョンへと向かった。



 ◇◆◇



 ダンジョンに入りルドニール改を具現化すると先ほどのハゲヅーラの顔を思い出してしまったのか、透はイライラしだし手あたり次第に見つけるモンスターを殲滅して進む。

 サクッとボス階すら突破するが透の怒りは収まる事を知らず、下の階に行っても同様にモンスターを蹴散らし進む。

 透が怒りに任せて加勢する間もなく全て倒していく為、ツキミはやることもなく欠伸しながら後ろをトコトコとついていく。


 直接その視線や思いをぶつけられてないツキミですらハゲヅーラを気持ち悪いと思っていたくらいなのだから、当事者である透の不快感は相当なものだろう。

 それ故にツキミは口出しも手出しもする事は無く、透の怒りが収まるまでその勢いに任せてダンジョンを進んでいくのだった。

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