魔術研究所所長の来訪
2021/2/27 改稿
※物語の流れに変更はありません。
透は気怠さと痛みで目を覚ますと、見慣れない薄汚れた天井が広がっていた。
顔を顰めつつ記憶をあさり、ツキミと限界まで己の全てを出し切る戦闘を行った事を思い出す。
雨の様に降ってくる雷撃をマシンガンモードのルドニールで必死に迎撃していただけで、ツキミにこれといった決定打を与えられた記憶はない。
爆音と熱風と眩しさが立ち込める中、魔力枯渇に陥り意識がブラックアウトしていったのだ。
「俺の方が先に倒れたのか……」
若干悔しがりながら体を起こし辺りを見回すと、隣のベッドで猫モードのツキミが、その小さい体に見合わない大きな枕を使い、きれいに布団をかけ眠っていた。
その愛らしさに透はクスっと笑みを漏らし、ツキミを揺すり起こす。
「んにゃぁ……」
ツキミは大きな欠伸をして起き上がり体を伸ばし、透を見やる。
体中の倦怠感や多少の痛みで、徐々に覚醒してきたツキミは透に疑問を投げかけた。
「透が勝ったのだ?」
ツキミも透と同様に全てを出し切っていた。
身体強化を最大まで引き上げ、音を置いて空間を縦横無尽に駆け回り、透のマシンガンを避けながら雷撃を降らせる。
2人も同じタイミングで魔力枯渇に陥り意識を手放した為、幸い大怪我をする事も無く魔力枯渇による倦怠感と所々当たったお互いの傷が痛むばかりだ。
それも会場に控えていた何人もの治癒術師が傷を癒してくれた後なのだから、体を動かせないような状態ではない。
勝敗の結果が分からずお互いに首を傾げていると、廊下の方からドスドスドスと荒い足音が聞こえてくる。
2人が寝ていた部屋の前でその足音は止まると乱暴に扉をノックし、2人の返答を待たずしてドアを開け放った。
そこに居たのは、鼻息荒くし顔中から汗をびっしょりと流し、頭上がテカテカと光った小太りのオッサンだった。
見慣れない気持ち悪いオッサンの登場に2人は警戒心を最大まで引き上げ、気怠い身体に鞭打ってすぐに戦闘態勢に入る。
ツキミはバチバチと威嚇するように身体に雷を纏わせ、透はガンブレイドモードのルドニールを具現化する。
その様子を見たオッサンはより目を輝かせ、竜巻を起こしそうな程鼻息を荒くしながら、2人へと近づいてきた。
先制とばかりにツキミが雷撃を打ち込もうと力を込めた瞬間、ミニスカートから長い脚を覗かせた綺麗な女性が、ドアの向こうから走って来た勢いを殺さないまま、オッサンに蹴りかかった。
オッサンは前に倒れ、そのまま女性にグリグリと踏みつけられている。
突然訪れたオッサンと美女の変態的な状況に、透とツキミは目を白黒させながら距離を取った。
「落ち着きましたか?所長」
恍惚な表情をして息を荒くする所長と呼ばれるハゲ親父と、背中をハイヒールで血が出る程ぐりぐりと踏みつけて蔑むような眼で見降ろしている美女。
暫くその状態が続いていたが、透の悪戯心がうずうずとしだす。
どうしても我慢できなくなった透は、ルドニール改の先端部分でプスっと肩に刺してみた。
その瞬間所長の顔がギュルンと透へと向き直り、された行動に似合わないとてもにこやかな笑顔で返した。
その気持ち悪さに、透とツキミは顔を顰めてサッと目を逸らす。
「透は触れてはいけない物に触れてしまったのだ、何をしてくれやがるのだ」
「い、いや……つい……ごめん」
ツキミの静かなる怒りに、透は素直に謝るしかない。
その間に落ち着きを取り戻した所長が立ち上がり、軽く衣服を正すと咳払いをして話し始めた。
「いやはやお見苦しい所を見せてしまってすまないね、私は魔術研究所王都本部で所長をやっているエム・ド・ハゲヅーラと申します、以後お見知りおきを」
その名前に目を丸くし、反応したのは透だけだった。
(確かにドMで禿げてるけど……!それがそのまんま名前かよ!!!)
吹き出さないようにサッと口元を抑え、心の中で名前に対してツッコミを入れていると、隣のツキミが冷静に所長へと要件を訪ねる。
「君たちの素晴らしい戦いを目に焼き付けさせてもらったよ、特に長瀬サン!君のその見たこともない武器!いやあ、素晴らしいね!!!是非とも研究所で色々と見せて欲しいな、と思ってね」
ハゲヅーラは目をギラギラと輝かせながら、透に向かってにじり寄って来る。
ツキミは横に飛びのいて被害を被らないようにし、面白い物を見るようにニヤニヤとしながらハゲヅーラと透の様子を観察し始めた。
ハゲヅーラを痛めつけていた謎の美女もツキミの隣に静かに立ち、2人の行動をすました顔で観察している。
透が逃げ惑っているのをツキミと美女は見ながら、ツキミは今日の試合結果について美女に尋ねた。
「御二人の試合に関しましては、同時に意識不明となった為に勝者無しとされました」
「にゃるほどなのだ、決着はお預けだったのだ」
透も勝敗の結果は知らないらしく先ほど首を傾げていたので、透には教えないで堂々としてようとツキミ意地悪心が囁く。
その間もずっとハゲヅーラは透を追いかけまわしていたが、透がその熱意に負け明日魔術研究所へ顔を出すという事で話は落ち着いたようだ。
話が終わったらそのまま美女とハゲヅーラは会釈をして控室を出て行った。
後に残された透は盛大にため息を吐き、憂鬱そうな顔で明日の予定を考え始めた。
「ツキミ……王都で何かやりたい事はあるか?」
「んー、強いて言えば王都のダンジョンが気になるのだ」
「じゃあ明日はすぐにでもダンジョンに潜ろうか!」
透の提案にツキミはじっとりとした目を向け却下する。
「今ハゲヅーラと約束してたのだ、明日は魔術研究所なのだ」
その言葉に透はしょんぼりとしていたが、すぐにバッと顔を上げると妥協案を出す。
「なら、明日の朝一に魔術研究所に行って、午後からはダンジョンに行かないか!?」
「どれだけハゲヅーラに会いたくないのだ……まあそれなら別にいいのだ」
ツキミの許可にガッツポーズをした透はすぐにギルド本部へダンジョンの情報を集めに動き出した。
王都で一番人気のダンジョンの中は樹海となっており、全83階層から形成されている自然発生のダンジョンではあるが、現在攻略されているのは52階層までとなっている。
日帰りでの攻略は難しい為、食料や物資を大量に持ち込み安全地帯にて野営をし、階層を進めていくそうだ。
各階の最奥にボス部屋が存在しており、ボスを倒しきると下の階へ続く階段が現れる。
現在攻略されている階までは、階段横に地上へ戻れる魔方陣が彫られており、比較的簡単に地上に戻る事もできるようだ。
「どこまで進むのだ?」
ツキミの問いに透は頭を抱え悩む。
どれだけ強くなったかを試してみたい気もするし、初の本格的な自然ダンジョンなので少々臆病にもなっている。
「とりあえず、一晩ダンジョン内で過ごして、一回帰ってきて決めるのはどうだ?」
弱気だが好奇心を隠し切れない発言に、ツキミは苦笑いをしつつも透の提案に乗った。
保存食等を少し多めに購入し、明日のダンジョンに備えた2人は帰路につく。
「そういえば試合結果ってどうだったんだろうな」
透がボソっと呟いた言葉に、ツキミは美女の言葉を思い出して告げるか少し悩んだが、透に向き直った時には意味深な笑顔だけにし言葉は返さなかった。
その返答に透は疑問符を頭いっぱいに浮かべたが、一向に教えてくれる気配の無いツキミに諦め、追及する事無く終わった。
友人にカッコいいオジサンキャラを出して欲しいと言われたのですが、どうしても私には気持ち悪いオジサンしか書けませんでした( ;∀;)笑
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