ゴールドラッシュ・イン・ザ・ビヨンド 8
夕飯を食った後、俺たちは今夜の宿を探しに行った。腹も膨れたし、さっさと寝床を決めてしまおうという魂胆である。
けれども、その成果は順調ではない。理由は単純かつ腹が立つことに、リトゥアを連れているからだ。ネスメアは他と比べてビヨンディアン差別が少ない地だが、それでも偏見が全く無いわけではない。
「あー、倍払ってもダメ?食堂とか皆が集まりそうな所には行かねぇからさ」
本日何度目かの同じ交渉。
「駄目だな。金じゃないんだ」
そして、本日何度目かの同じ却下。明らかにリトゥアに対する差別だが、ジョーの時のようにいきなり危害が加えられたという状況でもないので、流石に拳銃を出すわけにもいかない。
「このご時世、ビヨンディアンを泊めたってだけでウチの評判が落ちる。悪いとは思うが、俺にも養う家族がいるんだ」
「……ああ、邪魔したな」
そういう訳で、ここでも寝床は決まらなかった。
宿を出ると、扉の前にはリトゥアが立っている。俺の顔から、この宿も駄目だったことを察したらしく、俯きがちの視線はスチールバイに載せたローブを向いていた。
「いや、それは駄目だ。隠して泊まったらバレたときこの町にいられなくなる。俺たちはまだ新参者なんだから、ルール違反はあまり犯さない方がいい」
「だったら、あなただけで泊まって」
「その話はもう終わっただろう? お前を放って泊まるくらいならハナからお前を雇ってない。そんな事よりもどこで野宿するかを今は考えるべきさ」
俺は無理やり明るい声でリトゥアに告げる。幸い、この辺りは気候も暖かいし、外で寝たからと言って野垂れ死ぬことは無いだろう。アウトローと野獣は俺が見張っていればひとまず大丈夫なはずだ。寝ずの番は兵器をやっていた頃に慣れている。
「さ、行こうぜリトゥア」
俺はスチームバイに跨ってリトゥアを促す。だが、
「少し待って」
と言って、リトゥアはその場に立ったままだった。そして、剣と一緒に腰に吊るしていた水筒から水を一滴指に垂らし、それを月に掲げながら何やら言葉のようなものを呟き始める。
「シラ ナフタ ノウヤル ヒェン、 ネリ サムラ アウラ レオル」
すると、水滴が一瞬輝いたあとに四散した。すると、リトゥアは向き直ってこう告げる。
「町のすぐ東に雨風くらいは防げそうな洞窟があるわ。そこなら地脈の流れもいいから人避けや野獣避けの結界も張れる」
それはまるで見てきたような……、いや、実際に見てきたのか。
「……それも、魔術か?」
「ええ、遠くの景色を見るためのもの」
「そうか……」
魔術、あらためてそれが未知の技術である事を痛感する。いくら血金石があろうと、俺たちの力ではレンズの組み合わせで遠くの一部を確認することしかできない。少なくとも、周囲を家に囲まれた中で、辺りを見渡して洞窟を発見するなんて芸当は不可能だ。
「凄いな、魔術って。そんなことまでできるのか」
「でも、私は遠見の魔術に適性が無いから土地や天気に左右される。今日は月が出ているからたまたま上手く行っただけ。私より上手にやる人はたくさんいるわ」
「それでも、お前のおかげで寝床が見つかったのは事実だ。ありがとうリトゥア」
そう言ってから、再度スチームバイのエンジンを吹かす。
「よし、今度こそ行くぞ!」
「了解」
そうして、さっきよりも少しだけ強い力でリトゥアしがみついてくるのを感じながら、俺たちは夜の町を駆けていった。