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ゴールドラッシュ・イン・ザ・ビヨンド 7

「テメェッ! 今何つったッ!」

「だから、リトゥアへの慰謝料代わりにこれを寄越せって言ったんだ。俺じゃなくてリトゥアにちゃんと謝りながら渡せよ?」

「なんで黒ガキにそんな事しなけりゃいけないんだッ! お前、アレかッ! ガキと異界人が好きな変態かッ!」

 喧嘩っ早そうな見た目だけあって、ジョーはあっさりと挑発に乗って激昴した。ここまでは予想通り。

「なんでって、訴訟と慰謝料は歴史の浅いセルクニカの数少ない文化だろ。むしろ、異界特別法に違反してるのに話だけで済ませようとしてやってるだけありがたく思えよ」

「もういい、ブッ殺してやるッ!」

 ジョーはそう叫んでそう言って真珠の拳銃をひったくる。よし、かかった。

「いいぜ。付き合ってやるよ。ただ、料理が来るまでに終わらせるがな。肉料理は焼きたてが一番だ」

「ナメやがって、新参者のチビがッ!」

「さっきからガキだのチビだのって、年齢以外に誇れるものは無いのか? ……まあ、これから死ぬ男の話をしてもしょうがないか。おい、酒場にお前の血をブチまける訳にゃ行かないし外でやろうぜ。決闘はそこからだ」

「チッ、早くしろ!」

 どかどかとわざとらしい程に音をたててジョーは店から飛び出す。これまた、やたら大きい扉の音がしたから、もう店から出たのだろう。それに続くようにして、何人かの野次馬も外の通りに出ているようだ。

「じゃ、行ってくるよ、リトゥア」

「私も行くわ」

「……危ないから見てるだけな。手は出すなよ?」

 俺も少しリトゥアと話してからジョーに続こうとする。この店はちょうどL字型の形をしているのだが、俺たちは奥のテーブルに座っていたため、ジョーの姿はもう見えなくなっていた。

「オイ、さっさと来いっつってんだろ!」

「あー、今行くよ」

 一応、サンダラーの位置を確かめてから扉へ向かう。

 だが、通路を曲がったときに俺が目にしたのは自慢のリボルバーを構えるジョーの姿だった。

「バカがッ! 店に内臓ブチまけるのはお前の方だったな!」

 要するに騙し討ちを仕掛けられたらしい。先に店の外に出て、後から追ってくる俺が店内で油断しているうちに撃ち抜こうという算段だろう。その証拠に彼の拳銃からは、ガチリという引き金を引く音が聞こえた。

 そしてもう一つ言えば、この距離ならばというのは・・・・・銃声・・にかき・・・されて・・・こえない・・・・

 つまりその音が聞こえたということは……、

「く……クソッ! 弾が出ねぇッ! こんな時だってのにこのポンコツがッ!」

 銃弾は放たれていないということだ!

 当然、その隙を見逃すはずもなく、撃鉄を起こす音がした瞬間から構えていた右腰のリボルバー拳銃を撃ち放つ。念を入れて眉間に三発だ。辺りには子気味良い銃声が三つ響き渡り、ジョーは驚愕に顔を歪ませながら崩れ落ちた。

「ま、俺とリトゥアの分で二発に利子付きで計三発ってあたりかな。しっかし、銃は無闇に人に渡す物じゃないぜ。どんな手癖が悪いヤツがいるかわかんねぇからな」

 ……って、もう聞こえてねぇか。

 そして、俺はさっきリボルバーを見たときに盗んでおいた銃弾をジョーの亡骸に集まるヤツの子分達に投げつける。無論、ヤツのリボルバーが不発に終わったのは、俺が弾を抜いたことが原因だ。

「お前らまで殺す気は無い。これに懲りたら真っ当に生きることだな」

 すると子分達は、皆一目散に逃げていった。それはもう見事な逃げっぷりである。

 うん、いささか派手なデモンストレーションになってしまったが、これでリトゥアにちょっかいかける連中は減るだろう。奴らはビヨンディアンを下に見ているからゴミの様に扱っているわけであって、ゴミの為に死ねる人間は少ない。過激な割に信念のない連中だ。

「とりあえず終わったかな」

 俺は店の外にある死体を適当に隠した後、早々にテーブルに戻る。もちろん、真珠グリップの拳銃を回収するのも忘れない。どうもジョーは懸賞金付きのアウトローらしいので後で換金に行けばそれなりの金になるだろう。死体に俺の名前でも掘っておけば、さっきのを見て死体を盗もうと考える奴はいないだろうし。

「待たせたな、リトゥア。怪我は無いか?」

「私は大丈夫。ビリーは?」

「見ての通り、俺は何もされてないよ。……心配してくれてるのか?」

 だとしたら嬉しい。戦ったかいがあると言うもんだ。

「心配……、わからないわ。でも、私のために戦ってくれた人は初めて見た」

 そう言うと、リトゥアは指を複雑な形に組んで俺の額に当ててきた。

「これは?」

「キシネルサの感謝の表し方。私たちは自分の為に特別な何かをしてくれた人にはこの礼をする」

 それっきり、リトゥアは考え込むように黙ってしまった。けれども、その礼だけで俺には十分な報酬だ。

 ついさっき会ったばかりの俺を自分なりに受け入れようとしてくれるリトゥアに…………いや、待て。報酬? そうだ、アレを忘れてた!

「リトゥア、お前への慰謝料代わりだ。売って金にしてもいいし、綺麗な真珠だから加工し直してもいい。お前の物なんだから好きに使え」

俺は慌ててジョーの拳銃をリトゥアに渡す。元々はこれを慰謝料にブン取る所から決闘になったんだった。

 だが、リトゥアの答えは、

「よく分からないからビリーにあげるわ」

 といういつもの物。だが、いつもと違う部分があるとすれば、この後にもう一つ、悲しげな表情でこう告げたことだろう。

「……ごめんなさい、任せてばかりで。私は部族より外の世界に出たことがないから」

「謝る話じゃない。これから学んでいけばいいんだ。この銃は、いつか必ずお前の為に使うよ」

 俺はリボルバーを布で包みながら答える。いつかきっと、これはリトゥアの役に立ってくれるだろう。

 そうこうしていると、奥から店主のオヤジが大きな皿を持ってやってくる。そうだ、なんか

「羊のクレニ焼き、お待ちどう! お前が暴れてる間は待っててやったから焼きたてだぞ! そんで、こっちは俺からのサービスだ! あの大男がいるとメシがマズくなりそうで困ってたからな」

 そう言って、オヤジは頼んだ料理と共に小鉢のような物も一緒に置く。頼んだ覚えが無い品なので、これがサービスとやらだろう。

「サンキューな、旦那。ところで、何だコレ」

「チャンタって言ってな、こっちの野菜を塩とスパイスで漬け込んだ漬物の一種さ。そのまま食っても、パンに塗っても、肉にかけてもメチャクチャうまい」

「そりゃ楽しみだ。それで、そっちの酒とレモネードも旦那から?」

 俺は、もう一つ盆に乗っていた注文した覚えのない品を指さす。

「ああ、あれは俺からのじゃなくて、あそこの女からだ。ファナって言うヤツなんだが」

 そう言って店主が指した先には、確かに一人の女が座っていた。

 ゆったりとした紺のワンピースと、透き通るように輝く金髪に乗せた頭巾ウィンプル。全体に白の意匠があしらわれたそれらは、アレア教――本土に本拠地を置く一大宗教の修道服だった。シンプルな中にも最低限の華やかさを持つそれは、彼女の穏やかな美貌をこの上なく引き出している。まさに最高の相性と言えるだろう。

 だが、その調和をブチ壊す要素がただ一つある。それは、彼女の前に山と積まれた皿の数々だ。どうもこの酒場は酒問屋のような業務や、簡単なテイクアウトも行っているらしく、彼女は持ち帰りの利用客のようなのだが、それにしても量が異常だ。と言うか、酒瓶まで見えるけど大丈夫なのか? アレアは飲酒を禁止しているはずなんだが……。

「ありがとう、シスターファナ……。あー、その……、なんだ……」

「うふふ、このご飯やお酒が気になりますか?」

「……まあ、そりゃ。アレアって、教会に大人数置かないし……」

「あら、シスターはつけなくて結構ですよ。私は修道女ですが、今では情報を売ったり賞金稼ぎの方達に依頼を紹介したりと言った仕事を主に行っていますので、厳格に修道生活を行っているわけではないのです。故に、教会には困っている人たちをいっぱい招きますし、そうなるとご飯もたくさん必要なのです! きっと、善きことの為なら神様も見逃してくれます!」

「そういうもんか?」

「そういうものです」

 ……そういうものだってことにしておくか。

「そして、そちらは勇敢な戦士と心優しい少女へのプレゼントです。クレニ焼きにはレイラットもいいですが、そっちのクムもまた独特の味わいがあってよく合いますよ。お嬢さんの分は好みが分からなかったから同じものにしたわ」

 そう言って、ファナと名乗ったその女性は盆に乗せられた飲み物を手で指した。

「ああ。感謝するよ、ありがとう。旦那にも。……何だか、今日は奢ってもらってばっかだな」

 俺は改めて皆に例を言った。見れば、リトゥアもさっきの礼を皆にして回っている。

 ビヨンディアン式の礼を笑顔で受ける本土出身者。元兵器のアウトローと仲良く話す酒飲みの修道女。ここには、そんな混沌を受け入れる自由な空気がここにはある。

 ……やっぱり、人なんてものは人種だの世界だの、ちっぽけなものでは測れない。未だに軋轢が残る二つの世界だって、こうやって分かり合えることもある。そう信じたから、俺は軍を抜け出してきたんだ。

 やっぱり、俺はリトゥアにこういう世界を見せてやりたい。

「じゃあ、ゆっくり食ってけよ!」

「そうですね、私もそろそろ帰ります。ここのクレニ焼きは絶品ですよ」

 二人は、俺たちの礼を受けた後、それぞれ厨房と店のドアへ消えていった。

 さて、じゃあ俺達もそろそろ食事と行こう。

「さ、皆と食材に感謝して、熱いうちに食っちまおうぜ!」

 リトゥアも俺の言葉に無言で頷く。そうして、俺とリトゥアはさっそく肉の山を崩し始めた。

「おお、これがクレニ焼きか! うん、確かに味が染みててうまい! 羊肉って独特の臭みが出るものだけど、嫌な味が全くしないな。味付けに工夫があるのか?」

「カーナ……ううん、ハタリやサームロの味もする。はじめて食べた味……」

 リトゥアはよく分からない単語を並べているが、恐らくビヨンドの香辛料か調味料だろう。俺みたいに口には出さないが、うまそうに食っているようで何よりだ。初めての外の食事に最初は恐る恐るだったリトゥアも、徐々に慣れてきたのだろう。

「予想通りレイラットとよく合うし、こっちのクムも強い味同士が混ざりあって強烈なうまさだな。……うん、言われた通りチャンタとの相性も抜群だ。リトゥアも付けてみろよ」

「……確かに美味しい」

 それからも、俺たちは初めての味を堪能する。今日は互いに、初めてのことだらけだ。

そうして、

「な、外の世界も案外悪くないだろ? 世界なんて生き方次第さ」

 なんてことをたまに話しながら、楽しい夕食は進んでいくのだった。

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