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少年の戦 3

 俺は装備のリロードを済ますと、今まで戦っていた通路を抜け、霊地の中心部へと辿り着いた。

そこは確かに祭壇という名がふさわしいような岩の部屋。地面には複雑な文様が張り巡らされ、それを幾つも浮遊している淡い光球が照らしている。その様は、ビヨンディアンでない俺でさえ神々しいと感じる程だ。

 そして、その奥にある結界で塞がれた小部屋。そこが祭壇の制御室であり……、

「リトゥア!」

 リトゥアがいる場所だ。祭壇に入った瞬間、俺は我を忘れて、小部屋に向かって駆け寄る。だが、

「止まりたまえ。――クルナ スコリヌ!」

 後から魔術を放たれ、祭壇の奥へ入ることは叶わない。

 立ち止まり、振り向きざまに魔術を躱す。そして、後ろへと向けられた俺の目は、一人の男を明確に捉えた。

「……やっぱりお前か、ハクロヌ。そろそろ出てくる頃だと思ったよ」

 その男はハクロヌ・ヌヒア。リトゥアから自由を奪い続け、そしてまた奪おうとする首謀者だ。

「そう睨むな。これでも俺は、お前の強さを認めてるんだ。まさか、祭壇まで辿り着くとは思わなかったよ」

 鋭く睨みつける俺に、ハクロヌは悠々と返答した。

「くだらない煽り合いをしに来たんじゃない。……リトゥアを返せ。アイツをテメェらの下らない戦争の道具にするな。ちょっとばかし強い魔術が使えるようになった程度で、たかだか一部族が国に勝てるわけ無いだろ」

「だとしても、我々は戦わなくてはいけない。このまま支配を甘受するくらいなら、最後まで、死力の限りを尽くして戦った証を刻みつけて死なねばならん。ならば、貴様の下らない感傷など構っていられるか。神の子リトゥアは我々が使う」

 返ってきた答えは明確な拒絶。当然、聞き入れてもらえるとは思って発した言葉ではないので、今のは一種の儀式みたいなものだ。ハクロヌ自身も勝算の低さを自覚しているのは以外だったが、それでも俺が答えを変える理由にはならない。それどころか、ますます負け戦からリトゥアを救い出さねばならないという思いが湧いてくる。

 そして、儀式を終えればやることはただ一つ。

「だったら、悪いが力づくで通らせてもらうぞッ!」

 俺はリボルバーを一気に抜くと、立て続けに3発をハクロヌに打ち込む!

 すかさず、銃口からは弾丸が放たれ、それらは一直線にハクロヌへと奔る。

 だが、ハクロヌは一切銃弾に抵抗する素振りを見せず、ローブの下から刃の付いた杖を抜くと、ただただそこに立ち塞がっていた。そして、不気味にニヤリと笑うと、それを自らの腹に突き立てる!

 そのまま、吠えるように祝詞を唱え始めた。

ネスメアの(レンド ネル )大地よ(ネスメアレ)我にキシネルサを(ラウシ トワノ)導く力を(ヌヒアリ キシネルサ)

 瞬間、周囲の力はドス黒い何かが溢れ出し、それらは放たれた銃弾を弾きながら、見る見るうちにハクロヌの周囲へと集まっていった。

 そして、程なくしてもやのような何かは消え去り、それ・・を纏ったハクロヌの姿が鮮明に浮かび上がる。

 だが、そこには元のハクロヌの姿はない。

「何だ……、あれ……」

 まるで侵食されているかのように半身だけ黒くなった肌。不自然に発達した両腕と鉤爪。顔の半分は仮面を被ったように硬く、そこには角と牙が存在している。ハクロヌはこの一瞬で、およそ人ならざる姿へと変貌していた。

 俺は、そんな歪な生き物を表す言葉を知っている。いつぞや竜と対峙したときに感じたそんな思いを、今は一人に対して感じている!

怪物モンスター……」

 そう。まさしくその有様は、怪物と呼ぶにふさわしいものだった。そして、驚愕に竦む俺に向けて、ハクロヌは牙の生えた口を開く。

「光栄に思え。これは本来、セルクニカ軍を相手取るために用意した魔術モノ。それをここで使うということは、それだけお前を評価しているということだよ。――さあ、これまでを導く者ハクロヌ・ヌヒア。推して参るぞ!」

 瞬間、ハクロヌは大きな両腕を掲げると、俺めがけて走り寄る!

「クソっ!」

 俺は悪態と共にリボルバーの引き金を引く。だが、やはりと言うべきか、怪物と化したハクロヌは、交差させた鉤爪でその尽くを弾いた。

「ハハハ! そんな豆鉄砲を撃っているようでは、先に死ぬのは貴様だぞ?」

 そんな挑発とともに振り下ろされる歪な腕。俺は、それを受け止めるべく義手を高く構える。

 だが、ヤツの鉤爪が義手に触れたとき、

「くッ……!」

 左腕から鈍い衝撃が体内を迸った! 無論、義手に通じている擬似神経は痛覚を伝えないように出来ている。そこから体内に痛みが伝えられることなど有り得ない。

 だが、それでも俺は痛みに似た衝撃を感じた。そして、その事実が指し示す事実は、ただ一つ。俺の義手で相殺しきれなかった衝撃が体を貫いたということ。単純なエネルギーの余波だけで、義手から体内まで衝撃を伝えて見せたということだ。

 つまり、それだけハクロヌの攻撃が強力だということになる。力もさることながら、体内に衝撃を直接与えてくる技量は恐ろしく高いものだ。

 しかし、あくまでハクロヌは高位の魔術師。その本分は、魔力を用いた神秘の技術、魔術を用いた戦闘にある。つまり、今の単純かつ強力な殴打は、まだヤツの全力ではない!

「コウ クナライ!」

 仮面の口が祝詞を紡ぐ。瞬間、俺が必死に受け止めている鉤爪には、またもやドス黒い光が宿り、やがてそれは漆黒の奔流となって俺へと放たれた!

 クソっ、この距離だと間に合わない!

 俺は咄嗟に義手で頭を庇うが、体を劈く程のそれ・・は、一切の容赦なく俺を吹き飛ばす!

「カハッ……!」

 大きく飛ばされ岩壁に激突した俺は、乾いた嘔吐えずきを漏らすと、ふらつく足で必死にハクロヌの方へ向き直る。あまりに強大な魔力の一撃。フラックジャケットと義手で急所を守っていなければ、即死の可能性すらあった。

 だが、そんな俺をよそに、既に眼前まで迫っていたハクロヌは、未だ衝撃から立ち直れきれていない俺にさらなる猛攻を食らわせてくる。

「どら、まだまだ終わらんぞ!」

 振り下ろされる腕は機関砲の如く。何度も、何度も、執拗に俺の命を狙ってくる。異形の腕から繰り出される剛力の殴打。一撃でもマトモに食らったらそこで終わりだ。

 だったら見極めろ! その全てを捌ききれ!

 飛んでくる鉤爪の軌道を読む。そこに合わせて義手を構える。そして接触の瞬間、腰と足を使って衝撃を流す。

 単純だが、この状況を乗り切るにはこれしかない!

「ラァァァァァッ!」

 そうして俺は、何度も振り下ろされる腕を決死の覚悟で捌いていく。何度も、何度も、何度も、何度も!

 俺たちは互いに一歩も譲らない殴り合いを続ける。対するハクロヌも、この展開は予想していなかったのか、歪に歪ませた仮面の口からは焦りが見て取れた。

 そして、そんな膠着状態に一つの転機が訪れる。ハクロヌが攻めの手を変えたのだ。

「なかなか粘るではないか。では、こういうのはどうかな!」

ハクロヌはそう叫ぶと、距離を取るように大きく跳躍。そして、洞窟の天井近くまで至ると、再び祝詞を唱えた。

「レヌシ リア ソレクナ ウレ!」

 途端に、突き出した右手に黒い光が収斂しゅうれんし、それらは瞬時に三つの細長い三角錐へと形を変える。恐らくカナサのナイフなどと同じ、魔力を固めて実体化させた魔弾だろう。

 近接戦闘に慣れてきた頃合で遠距離攻撃を捩じ込み、戦のリズムを変えて翻弄する。ハクロヌらしい堅実な策だ。

「さあ、異界の戦士よ! 存分に生き足掻いて見せろ!」

 ハクロヌが力強く叫ぶと、その手から魔弾が放たれる!

 それらはまるで生き物であるかのように、細やかに軌道を変えながら、俺の正中から食らいついてきた。

 三つの魔弾は、一箇所にまとまることなく、それぞれが一定の距離を離しながら俺に迫る。つまり、一点を狙うサンダラーでは、一撃で全ての魔弾を撃ち落とすことはできないということだ。

 だが、さしたる遮蔽物のないこの部屋で、魔術によって追尾してくる魔弾を躱しきることは不可能だとすぐに気がつく。かと言ってリボルバーによる迎撃では絶対的に威力が足りない。

 そしてサンダラーは連射が効かないとなれば……、

「結局、一発で仕留めるしかねぇ!」

 導き出されるのは、そんな無茶苦茶な結論。だが、それしか道がないなら、どんな無茶でもやるっきゃない!

 俺は、左肘を大きく後に引いて、サンダラーの砲身をできるだけ短く構える。この策を仕掛けるなら。アレを一撃で撃ち落としたいなら、長い砲身は邪魔でしかないからだ。

 そうこうしている内に、魔弾は眼前に迫りくる。黒い光をぎらつかせたそれらは、数俊の後に俺の体を貫くだろう。まさしく絶体絶命というヤツだ。

 だが、俺はそれを待っていた・・・・・・・・・・

「ラァァァァァァッ!」

 俺はサンダラーを構えたまま一気に後ろに跳躍する。するとそこからは、さっきまでバラバラに動くだけだった魔弾が、一箇所に集っていくのが見える。それはまるで、先刻まで俺がいた場所を正確に貫くよう。

 そう、魔弾が集まる瞬間はただ一つ。俺を穿つ瞬間だけだ!

雷公サンダラーッ!」

 そのままサンダラーを発射!そして、血金石により加速された砲弾は、凶悪な漆黒の魔弾を跡形もなくブッ飛ばす!

「まだまだァッ!」

 そして、そのまま砲弾は勢いを止めることなく進み、その先には……、

「くゥ……ッ!」

 まさに天井から降りてくるハクロヌがいる!

 ハクロヌは赤子のように両腕を丸めて砲弾を受けるが、それも空中でのこととなれば、完全に威力を殺すことは叶わない。そのまま、ハクロヌは砲弾と共に、岩壁までめり込むようにフッ飛んでいった。

 無論、その好機を逃す手はない。だが、その刹那の好機を仕留めるなら、サンダラーのリチャージを待つ時間すらもない。

 俺は素早く義手から砲身を取り外すと、何とか岩壁から抜け出してすぐのハクロヌへ駆け寄って、そのままヤツをぶん殴る!

「ラァァァァァァッ!」

 軽く跳ね上がりながら放つ渾身の左ストレート。それはハクロヌの顔面へと直撃する。

「ガハッ!」

 もう一度岩壁まで吹っ飛ばされ、絞り出すような呻きを上げるハクロヌ。何度も叩きつけられた左腕はもう使い物にならないほどにねじ曲がり、その割れた仮面からは苦悶に歪む素顔が覗いている。ようやく、ダメージらしいダメージをハクロヌに食らわせることができた。

 だが、喜んだのも束の間。

「この程度で導く者ヌヒアが倒れてたまるかッ!」

 ハクロヌは、空気が軋んだと錯覚するほどに叫ぶと、自らの左腕を引きちぎるり、そのままそれ・・を一息に喰らう!

 瞬間、黒い光がまた蠢く。そして、それらは右腕に纏わりつくと、そのかいなをさらなる異形へと変貌させていった。それは、俺が介入する隙もないほど、一瞬の事だ。

 そして、新たに造り変わった右腕は、鉤爪はさらに鋭いなものとなり、肘には肩の方へ向けて巨大な筒状の器官が新たに形成されていた。その器官の形状は、魔術に疎い俺の価値観からすれば、血金石式の推進機関に備わっている蒸気噴出口に似ているように感じる形状だ。

「刮目しろ。これが、己さえも喰らい尽くす私の覚悟だ」

 ハクロヌはそう呟くと、肘の器官を後ろへ向け。そして、大地を揺るがすような叫びとともに神速で飛びかかってきた!

 どうやら俺の直感は正しかったらしく、肘の器官からはドス黒い魔力が激しく噴射され、ハクロヌを前へと押し出している。

「セアァァァァァァァァッ!」

 仮面を酷く歪ませて迫り来るハクロヌ。その形相はまさしく狂気と呼ぶべきものだったが、ヤツの右腕は一切の狂いなく俺を捉えていた。

 そんなハクロヌの突貫に対して俺は、義手の怪力全てをもって応戦する。

 振り下ろされる異形の右手。放たれる鋼の左腕。その二つは俺たちの中央でカチ合うと、そこで激しい閃光を散らす!

 それは金属の火花。あるいは溢れた魔力。その閃光は、両者の力が強大かつ拮抗しているということをまざまざと示していた。

 一度膠着が途切れても、その度にすぐさま互いのぶきが再び降ろされる。二度、三度、四度。俺たちは目まぐるしく攻守を入れ替えながら、何度も殴打の猛襲を繰り返していった。

 そして何度目かの衝突の時、急に左腕からきりきりと締め上げるような感覚を俺は感じる。それは左肩、義手の付け根を中心として発せられていた。

 それは確実に俺の動きを阻害し、一進一退の拮抗はハクロヌの側へと崩れ出す。

「くッ……そ!」

 そんな状況に、俺は思わず悪態を漏らした。だが、その理由はハクロヌの攻勢ではなく、義手に感じる違和感に対してのもの。なぜなら、俺はその感覚の原因を知っているからだ。

 擬似神経の過剰使用オーバーフロー。つまり、連続する衝撃に遂に義手が耐えられなくなりつつあるということ。ここに来て体に限界が来るなんて……!

 だが、対するハクロヌの勢いはとどまることを知らず、その猛攻はさらに激しさを増していく!

「ハハハ! どうした?! もう終いかッ!」

 一合ごとに義手から遡ってくる違和感は強くなり、もはやそれは痛みと呼んでも差し支えない程だ。

 そして遂に、ヤツの右腕を受けようとした義手が、その力を失うようにして大きく後ろへ弾かれた!

 そして、そのままガラ空きになった俺の胴にハクロヌの蹴りが炸裂!

「グッ……ッ!」

 投げ出された俺は、体を折り曲げるように蹲る。地には吐き出した血反吐が落ち、視界は朦朧としている。そして、限界が来たのは義手も同じ。擬似神経と血金石のほとんどが尽きた義手では、これまで使ってきた怪力の半分の出力も出せないだろう。

 一方のハクロヌは、俺が倒れている間に、右腕の魔力噴射で俺から距離を取ると、そのままじっくりと全身の傷を再生させる。

 治癒に専念したハクロヌの全身からは、細く煙を立ち上がり、やがてそれらが一瞬にして消え失せた後には、もうその体に傷は見られなかった。

対する俺は、未だに満身創痍のまま。何とか立ち上がりハクロヌを睨むが、いつ倒れてもおかしくないような状況だ。

 ハクロヌは、そんな俺に向けて右腕を構えると、そのまま全身から魔力を昂らせる。そして、それは腕の噴射口へと集積していき、そのままヤツの右腕は全てを塗り潰すような漆黒の光を纏い始めた。

 ここで決める気だ。一目でそうわかる程の魔力量だった。それらを乗せた全力のかいなを持って、俺の防御も小細工も何もかもを吹き飛ばすつもりなんだ。

「一つ、貴様が私に――いや、俺に勝てない理由を教えてやろう……ッ!」

 ハクロヌは叫ぶように語り出す。

 ……時間稼ぎか?いや、違う。これは、もっと歪で攻撃的な何かだ。

 そして俺は、ハクロヌの意図を感じ取る。

 そうか、ヤツは俺を徹底的に叩き潰そうとしているんだ。俺の命だけでなく、信念までも全て。

絶対に相容れない敵同士である俺たちは、力の前に心も戦わせなければ終われない。だからこそ、信念だけでここに立つ俺に、己が信念をぶつけてくる。

 無論、そうした宣言の間にもヤツの右腕には魔力が集まり、やがて放たれたそれは、俺の防御や小細工など何もかもを吹き飛ばすだろう。その為の時間を稼ぐという戦術的な理由も確かにある。

 だが俺は、その奥にヤツが仕掛けてきた思いの戦を感じ取った。

「ハッ、いいぜ。聞いてやるよ」

 俺は全身の痛みを堪えながら、何とか気丈に返す。これから始まるハクロヌの叫びが心の戦なら、ここでヘタれる訳には行かない。だって、アイツの思いを聞いた後、俺はそれを笑い飛ばしてやらないといけない!

 そんな俺を見たハクロヌは、軽く口を笑みの形に歪めると、吠えるように叫びだす。

「貴様が俺に勝てない理由。それは、背負ってる物の差だッ! 貴様と私では後ろにあるものが違うッ! お前は何のために戦う? リトゥアか? ネスメアに住む仲間か? 所詮はその程度のものだろうッ! 俺は違う。俺は、この大地の全てを背負っている!」

 その形相はさながら鬼神のよう。そして、それこそがヤツにとって、その思いがどれだけ痛切なものかを物語っていた。

「貴様も見たはずだッ! この地に蔓延る差別の影をッ! 俺はそんな世界から、全てのキシネルサを救うために戦っているッ! 世界を取り戻すために合衆国せかいと戦っているッ! それ故に導く者ヌヒア! 俺は全てのキシネルサを導く者! この戦は、勝つ負けるの話ではない! 我々の思いが為の戦争だッ! その前ならば、個人の感傷などは瑣末な物だッ! それだけ、我々は苦しんできたッ! 今更になって、そんな些事に拘る貴様のような愚物に、俺が負けるはずがないッ!いや、負けていいはずがないッ!」

 そこにあるのは悲痛な願い。あるいは、己が矜恃の全てだろうか。

 キシネルサを差別から救う。それは、ただビヨンドを取り戻すというだけではない。差別の中で反抗し続けるという行為により、ビヨンディアンとして――いや、キシネルサとして、自分たちが見下される存在であると決して認めないためのものだ。だから、勝ち目の無い戦でも、持てる力の全てを使って戦おうとする。

 ……確かに、今の合衆国には暗い差別が渦巻いている。それによりどんな悲劇が生まれるか、俺は身をもって体験した。

 それでも、リトゥアや俺はこの地で多くの人と出会った。そこに本土人も、ビヨンディアンも関係ない。

 全てが善人ではなかった。理不尽に飲み込まれることだって何度もあった。

 けれど……、だからこそ! リトゥアは心を取り戻した! 俺は自分の過ちに気づけた!

 だから、俺は何度でもお前に言ってやる!

「お前の言い分はわかったよ。……けど、やっぱりリトゥアは渡せねぇなッ!」

 そのまま俺は、さらにハクロヌへと叫び続ける。

「差別の撤廃? 隷属の拒否? ああ、確かにそれはお前らにとっちゃ大切なのかもしれない。けど、それにリトゥアを巻き込むなッ! アイツに、あんな顔で人を殺させるなッ!アイツは、神の兵器なんかじゃないッ! 自分の意思で歩く一人の人間だッ! だから、俺はリトゥアを取り返すぞッ! ――それでも、最後まで戦わなきゃ終われないってお前らが言うなら、今ここで俺がブッ倒したたかってやるッ!」

 さあ、ハクロヌ! テメェの執念は俺を砕けなかったぞ! 俺はこうしてお前を笑っているぞ!

 俺は素早くサンダラーのデバイスを起動。そのまま、銃口をヤツに向ける。

「フン、貴様の言い草はまるで道理を知らない少年のようだな。綺麗事の数と血の気だけはやたら多い」

 そう言うと、ハクロヌは薄い笑みを浮かべると、重心を低くするように体を構える。そして……、

「ならば、その思いごと俺が砕いてやるッ!」

 次の瞬間、猛烈な魔力の噴射で俺に向かって迫り来る!

「セァァァァァァァァァァァァァッ!」

 その魔力量は凄まじく、きっと、俺なんかは容易く塵芥と砕くだろう。これが、全身の魔力と長時間かけて生成した大量の魔力全てを右腕に集約させて生み出した最凶の破壊力だ。

 だが、それ故に俺がすべきことも至って簡単。全ての力が右腕に集まるなら、その右腕を砕けばいい!

 狙うは、最も体表から突き出し、かつ今のハクロヌを支える最凶の武装。右肘の魔力噴射口。いくら今のサンダラーが威力不足とは言え、これだけの相対速度があれば、腕のほんの一部くらい破壊することは十分に可能だ。

 高速で迫るターゲット? サンダラーの射程不足? そんなことはどうでもいい。リトゥアの為ならこの程度の無茶。何度だって成功させてみせる!

雷公サンダラーッ!」

 俺は、裂帛の気合いと共に一発の砲弾を放つ。それは、ヤツの右肘へと吸い込まれるように突き進んでいった。そして……、

「ヒット!」

 そのまま、激烈な相対速度をもって、ヤツの魔力噴射口を打ち砕く!

「グゥ……ッ!」

 それと共に急に推進力を失い、そのまま地面に落ちるハクロヌ。その時、ハクロヌには一瞬の隙が出来た。きっと、これが最後のチャンスだ!

「ラァァァァァァァァァァァァァァッ!」

 俺は、威力不足のサンダラーでもハクロヌを射程に収められる距離まで前進し、

「穿てェェェェェェェェッ!」

 そのまま、最後のサンダラーを放つ!

 それは、残り一つの砲弾を、これまた残るだけの液状血金石をもって加速した、文字通り最後の一撃だ。

「クッ……! --ボトヌ ガマユン サレサリアッ!」

 対するハクロヌも、必死に右腕を翳し、その一撃を魔術によって受け止めんとする。

 だが、それでも砲弾は前身を止めない! 

 這うような速度でも動き続ける砲弾。そして、それを必死で抑え込む障壁は激しく拮抗し、まるで俺たちの思いが再びぶつかり合ったかのように俺には思えた。

 そして、ついに砲弾はハクロヌの胴へとめり込むが……、

「ここで……、ここで負けていられるかァァァァァァァァァッ!」

 一際大きく叫んだハクロヌから放たれる黒色の魔力により、その突貫は終わりを迎える。それは、俺の最後のサンダラーは、ヤツを穿つことなく終わったということを意味していた。

 そうして、辺りは一瞬、重苦しい沈黙に包まれる。やがて、ハクロヌがゆっくりと口を開いた。

「……いい攻めだったと素直に賞賛しよう。あと一歩、致命傷に届かなかったが、それでもこの傷は深い。サンダラーが万全であったなら、貴様の勝ちだっただろうさ」

 その言い様はまるで、己が勝ちを示し、俺に負けを叩き付けるよう。

 ……ああ、そうだ。この攻防、制したのはハクロヌだ。そして、俺の左腕にはもう一発の砲弾も残っていない。

 けど……!

「まだ戦いは終わってない!」

 そう高らかに吠えると、俺は右腕でリボルバーを抜き放つ!

 狙いは、ヤツの胴に刺さったサンダラーの砲弾。その中にある、血金石の雷管!

 本来は、サンダラーの中で推力に変えられるはずの血金石。けど、今の壊れたサンダラーは、砲弾の血金石をエネルギーに変えられない。故に、ハクロヌを貫けるだけの推力を作り出せなかったのだ。

 だから、今からそこを銃弾で叩き、ヤツの体内で血金石を暴発させる! 足りなかった推力を、破壊力に変えて叩き込む!

「バッ、バカな……ッ!」

 今になってハクロヌは狼狽えるが、もう遅い。俺は既に、リボルバーの引き金を引いている!

 ダブルでダブルアクションで連射されたそれらは、尽く雷管を叩いていき、そして……、

「終わりだ、ハクロヌッ!」

「こんな……、所で…………ッ!」

 ごうっ、と辺りには血金石の爆発が引き起こした轟音が響く。そしてすぐさま、そこには蒸気と熱が立ち込め、その中央には……、

「グッ……ハァ…………ッ……」

 体に大穴を開けたハクロヌが横たわっている。そこからはとめどなく血液と黒い魔力が流れ出していた。傷口は必死に穴を埋めようと蠢いているが、まったく塞がる気配を見せず、その目からは徐々に正気が抜けてく。もう、ハクロヌは助からないだろう。

「俺の勝ちだ。何か、言い残すことは無いか?」

俺はハクロヌを見下ろしながら尋ねる。するとハクロヌは、変わったことを聞いてきた。

「……名前を聞かせてくれ。勇敢で愚かな戦士よ」

 ……名前か。ウィリアムの名は、軍で付けられたものだ。だから、俺は周りにはビリーを名乗ってきた。リトゥアは出会ったときから俺をビリーと呼び。ファナさんも、ジェームズも、みんな俺をビリーと呼ぶ。そんな内に、俺は存外、この名前が気に入っていた。きっと、ビリーという男が俺なのだ。

 そう思った時、ふとリトゥアの話を思い出す。キシネルサ達は、その武功などを長老に認められたとき、自分の決意なんかを苗字として名乗るらしい。

 だったら、俺はこう名乗ろう。

少年ビリービリー・ザ・キッド。ただのバカなガキさ」

そう言った俺の顔は、きっと笑っていたのだと思う。

「少年……。少年と来たか。ハハ、貴様に相応しい、無様でいい名前だ……!」

 俺の名乗りを聞いたハクロヌは一しきり笑う。そして……、

「ビリー・ザ・キッドよ。そこまで宣ったなら、最後までリトゥアを導いてみせろ……!」

 そう呟いて、その命を閉ざした。その死に顔は、悔恨とも悲しみとも、あるいは歓喜とも感じられる。

「……ああ、言われなくても、リトゥアは俺が守り続ける」

 俺は傍らに落ちたハクロヌの剣を拾い上げて、キシネルサの戦士にそう答えた。

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