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義の答え 3

 お前の後始末をしてくる。そう言って、ジェームズはどこかへ去っていった。きっと、残った保安官として、攻めてくるビヨンディアンに備えるのだろう。

 結局、俺は何も守れない兵器のままから抜け出せなかった。もう、自分が何をすればいいのかすらわからない。

「ビリーさん……」

 誰かに名前を呼ばれた。繊細な楽器の音のようで、それでいて力強い声。ファナさんのものだ。

「ビリーさん、その……、大丈夫、ではありませんよね……。リトゥアちゃんのこと……」

 相変わらず俺を心配してくれるファナさん。そんなファナさんに、俺は甘えるように叫ぶ。……まるで、ガキが暴れてるかのように。

「……なあ、ファナさん。俺は何をどうすればよかったんだ?どうすれば貴方やリトゥアを守れる? もう、何にもわかんねぇよ……!」

 我ながらクソ情けない言葉だ。勝手に暴走して、勝手に失敗して。挙句、女に泣きつくなんて、つくづく自分が嫌になる。その相手を危険に晒したのは俺だっていうのに。

 でも、そんな俺にもファナさんは優しく語りかけてくる。ファナさんは、俺が何をしたかを知らないはずなのに、それでも必死に俺なんかに向き合おうとしてくれる。

「ビリーさん、落ち着いてください! あの後、何があったのか私にはわかりませんが、リトゥアちゃんのことは私にだって責任が……!」

「そうじゃないんだ! そうじゃ、ないんだよ……ッ!」

 当たり散らすようにファナさんに叫ぶ。もう、それを咎めるだけの思考すら残っていない。

 そんな俺にとは裏腹に、ファナさんは落ち着き払った声で語りかけてくる。

「ビリーさん。貴方は何かに迷っているように見えます。一体、どうされたのですか?」

「……ああ、迷ってる! 迷ってるさ! もう、何をすべきで、何をしなければ良かったのかすらわからない……! ただ、貴方たちを守りたかっただけなのに……! 何かを壊すだけの兵器から抜け出したかっただけなのに……! 俺は、リトゥアの隣にいるべきじゃ……!」

「ビリーさん。それはいけませんよ」

 俺を諌めるファナさんの口調は、決して強くは無いものだが、そこには有無を言わさぬ何かがあった。

「けど、俺のせいでリトゥアは……っ!」

「……詳しい事情はわかりませんが、リトゥアちゃんのことで、私が知る以上のことがあったことはわかりました。それで、貴方が罪の意識に苛まれ、大きく迷っていることも」

 そう言うと、ファナさんはいつものような優しげな微笑みを湛えて、俯く俺の手を握る。

「――懺悔なさい、ビリー。ここは教会です。神の徒たるファナ・ブラウンが、貴方の罪と悩みを聞き届けましょう。今のあなたに必要なのは、その罪を語り、悩みを共に考える相手です」


「本当は、もっと形式があるのですが、今はこのままでいいですね」

 ファナさんは崩れ込んでいる俺の前に座った。

「さあ、何があったのか話してみてください。大丈夫、あなたが話し終わるまで私はちゃんと聞いています」

 そう語るファナさんは、本当に全てを受け止めてくれそうなほど優しげで……、

「…………俺は、大きな間違いを犯しました」

 気づけば、自然と自分の罪を告白し始めていた。懺悔して許されようなんて気は微塵もなかったのに、一度開いた口は止まることを知らず、全ての思いを吐き出していく。

 隠していた生い立ち。ビヨンドに来る前の行い。自分がリトゥアの導になれているという自惚れ。それらの思いを、全て……。

「……だから、俺は自分の早計な判断で貴方たちを危険に晒しました。リトゥアを兵器に戻しました。それが、俺の罪です」

 もう、どれくらいそうやって話していたかもわからない。一瞬だったような気もするし、一日中そうやっていたと言われても信じてしまいそうに思う。

 けれど、そんな話もファナさんは心から聞いてくれている。まだ、俺のことを真剣に思ってくれる人がいる。それだけが、今の俺には救いなのかもしれない。

 そうして、俺の話が終わったことを察すると、おもむろにファナさんが口を開いた。

「なるほど。話はわかりました。……きっと、あなたは少年のままなのですね。兵器として育てられ、そのまま力はあるのに、心は大人になる機会を持てず、世界へと放り込まれた。それが、あなたの罪を作り出したのでしょう」

 それは優しげな口調に見えて、ジェームズの怒りとは違う方向から俺を糾弾するように俺には思えた。

「……似たようなことをさっき知り合いに言われた。そうだ。俺は、どうしようもないガキだった……ッ!」

 語ってみても拭えない罪悪感に頭がねじ切られそうなのを感じる。俺は、今まで何度もやったようにまた地面を拳で叩いた。

 だが、

「ビリーさん。でも、私は少年というものは必ずしも悪いことだけだとはないと思います」

「何を……、言って……」

「確かに、あなたは少年故に間違いを犯しました。けれど、規律や大局に縛られた大人たちでは救えないものを救ったのも事実です。あなたがバートンを倒したことで、きっと、今日ネスメアで殺されるはずだった人は救われました。あの時、感情に任せてバートンを殺す道を選んだことは、あなたの大きな過ちかも知れません。けれど、単身で誰も手が出せない巨悪に挑み、そして勝ってみせるという誰にもできなかったことも、あなたは成しました。それはきっと、あなたが少年のように己の心と正義へ従順になれるからできたことでしょう。そんなあなたを、ここで見ていることしかできなかった私が責めることなんてできません」

「けれど……ッ! それでも、リトゥアを兵器に戻したのは俺だッ! その罪はどうすればいい?! もう、リトゥアはここにいないのに……!」

 またもや慟哭が溢れ出る。それは、抱えきれなくなった絶望を音に変えて撒き散らしているようだ。

 そんな俺を見つめるファナさんの顔は、哀れむようにも見え、慈しむようにも見えた。

「そうですね。確かに普通ならこの罪を取り返すことは難しいでしょう。何かしらの折り合いをつけて生きていくしかないのかもしれません」

 ファナさんはそこで一旦、言葉を切る。そして力強い声で、こう告げた。

「けれど、あなたは少年です。それも、運命を切り開く強い力を持った。でしたら、思いのままに進む少年なりの償い方があるはずです」

「少年……、なり……?」

「ええ! もう一度、嫌な部族の大人をはっ倒して、リトゥアちゃんを取り戻しちゃいましょう! ついでにネスメアも守れるんですし、誰も文句ありません!」

 それは、穏やかで、慈愛に満ちたファナさんには似つかわしくない、あまりに荒唐無稽な答えだった。

 けれど……、

「また、俺は兵器じゃなくて何かを守ろうとしていいのか……?」

「もちろん! 私にとっては、あなたは今も変わらず立派な戦士です!」

「また、ファナさんやネスメアのために戦っていいのか……?」

「誰かのために必死に戦おうとするのを、誰が止められますか? その中に私が含まれているなら、感謝こそすれど、咎めるなんてもってての外です!」

 そして、俺は最後に尋ねる。

「俺はもう一度、リトゥアに会っていいのか……?」

「ええ。もう一度会って、ゆっくりお話してあげてください」

 がらん、と何かが崩れ去っていくのを感じる。それは、どす黒く変質した決意や矜持。俺をビヨンドで生かしたもの。……そして、今となっては重荷でしか無いものだ。

「……ハハッ、無茶苦茶な理屈だ。ツッコミどころだらけじゃないか。賢いファナさんらしくない」

「あら、気に入りませんか?」

「いや、ガキの俺にはわかりやすくて丁度いい。――ありがとう、ファナさん。お陰でやるべき事が見えた」

 俺は、わざとらしい程に力強く立ち上がる。不思議と、全身に気力が満ちているような気がしてきた。

「ふふ、それは何よりです。今のビリーさん、まるで無邪気な子供みたいな、とってもいいお顔をしてますよ」

 そう言って、にこやかに笑うファナさん。

 そうだ。俺はガキだ。道理も知らず、決意も失くした、ただのバカガキ。

 けれど、世界に抗い続けるのもまたガキの宿命!だったら、ガキらしく。道理も決意もかなぐり捨てて、思いのままに暴れてやる!

 リトゥアを、ファナさんを、ネスメアを救う。それは、あまりに馬鹿げて大層な夢だ。けれど、

「バカげた夢を叶えるのも、それに挑んだバカなガキだけだ!」

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