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義の在り方 4

「……いいぜ。受けてやる」

 俺はリボルバーをジェームズに向ける。

「お前も抜け。構える時間くらいはやる」

「まあ、待てよ。これは殺し合いじゃなくてケンカなんだからルールがいるだろ。――こういうのはどうだ? お互い背中合わせで反対方向に三歩歩く。もちろん、カウントでタイミングを合わせながらな。そしたら、振り向いてスタート。そっからはどっちかが倒れるまで戦う。悪くないだろ?」

決闘デュエルの真似事か? まあいいぜ。今からいきなり撃ち合うってのも不公平だしな」

 そう言うと、俺たちはどちらともなく背中合わせに立つ。その距離は僅か5mほど。完全に互いが互いの射程に入っている距離だ。

「今振りむきゃ、俺を撃てるぜ」

 俺はそう呟く。

「お前を殺すのが目的なら最初に撃ってるさ。……始めようぜ」

 そんな俺に対し、ジェームズはいつも通り軽口を叩いた後、その声を鋭く尖ったものへと変えた。それに呼応するように、辺りの空気は一瞬にして灼けるような静けさを帯びていく。

「3--」

 俺たちは一歩離れる。

「2--」

 ぎり、という鉄を握る音が辺りに響いた。そして……

「1!」

雷公サンダラー!」

獰猛者サベージ!」

 二つの兵器が動き出し、遂に大喧嘩が始まった!

 まずは俺がサンダラーを発射。だが、ジェームズはこれを横に退くように避けると、そのままサベージを走りながらブッ放す。その弾幕は圧倒的で、俺は攻勢を保つことができなかった。

「クッ……、相変わらずメチャクチャな弾幕だな!」

 サベージの大きすぎる反動と、走りながらという不安定な射撃体制により、その銃弾が当たることは無いが、それでもサベージの圧倒的な弾幕に俺は、何とか遮蔽物に転がり込むことしかできない。半壊したバートンの屋敷の中に入り、一部分だけ残った壁を利用してサベージを防ぎきった。

 だが、コカトリスの群れをも屠ったサベージの威力は強大。一度サンダラーを食らったバートン邸の壁では、近いうちに限界が来るだろう。

「さっきまでの威勢はどうしたァッ!」

 裂帛の気合いと共に、ジェームズの掃射はなおも続く。

 クソっ、この距離じゃ、砲戦用のサンダラーは不利だ。かと言って、俺のライフルやリボルバーじゃ血金石の生み出す弾雨とカチ合うことは不可能。

 一度、離れて狙撃を狙うか? いや、そこまで距離を取れる移動手段が俺にはない。

 じゃあ、壁越しにサンダラーで砲撃すれば……。駄目だ。サンダラーは連射が効かない。この距離で撃つなら、相手を目視して一撃で決めなければ確実に反撃を食らう。

 ……それに、万が一クリーヒットでもしたら、ジェームズを殺しかねない。……こんなことを考える程度には、俺も大概甘ちゃんだ。

 だが、そうしている間も、数回のインターバルを挟みサベージは轟音を上げながら俺を追い詰める。俺が遮蔽物を変える度、喰らい尽くすように追いかけてくる様は、まさに獰猛な獣だ。

「さあ、もう逃げらんねぇぞビリー! いつまで引きこもってるつもだァ! それとも、バートンを殺したいっていうテメェの思いはその程度かッ!」

「うるせェッ! そっちこそ、そんだけ撃って一発も当たってねぇだろッ!」

 クソっ、思考を止めるな! 考え抜け! どこだ、どこに俺の活路がある?!

 条件は単純。サベージの面制圧力に喰われず、かつ確実に一撃のサンダラーで決める。だが、単純故に二つが抱える矛盾は大きい。それだけ、この距離では狙撃を得意とする俺と、近距離での強襲を得意とするジェームズでは相性が悪い。

 ならば、もっと条件を遡れ! 距離を離せないなら、別の策をそこから見つけろ!

 探して。

 探して。

 探し回って。

「見つけた……ッ!」

 かなり無茶苦茶な策だ。だがそれでも、やるしかないッ!

「オラ、そろそろ瓦礫の山じゃ防げなくなってくるぜ! チョコマカと逃げやがってチキン野郎ッ!」

 うるせぇ、言われなくても……ッ!

「サンダラーッ!」

 俺は義手の設定を調整すると、壁の後ろからサンダラーを発射。だが、それはジェームズに向けてでは無く、後ろに向けてだ・・・・・・

「あのバカ、どこに撃ってやがる!?」

 ジェームズは驚愕しているが、これでいい。この一撃は、お前を倒す為のものじゃない。

「ブッ飛べぇぇぇぇぇぇぇッ!」

 これは、お前に接近する為のものだッ!

 サンダラーの生み出す強大なエネルギーは銃口の向く先、つまり後方へと放たれ、その反動で俺は前方へと投げ出される。そして、軽い被弾はフラックジャケットで防ぎ、そのままのスピードでサベージの弾幕を振り切って……、

「オラァァァァァッ!」

 そのままデバイスを投棄した義手で殴り掛かる!

「来てやったぞジェームズ!」

「クソっ、間に合わねぇッ!」

 俺の急接近にジェームズはサベージを地面に投げ捨てると、腰からサーベルを抜いて応戦した!

がきん、と衝突音。そして、

「なんつー怪力だ!?」

 義手のパワーで殴り掛かり続ける俺に、ジェームズから驚嘆の声が投げられた。

 だが、驚いているのは俺も同じ。コイツ、俺の拳に対して的確にサーベルを当てることで、単純なパワーの差を補って捌ききってやがる!いくらスチームスケルトンで強化しているとは言え、なんて剣技だ!

「クソっ、大人しく殴られろッ!」

「無茶苦茶言うなよ、ビリー?!」

 そのまま、俺たちの格闘戦は一進一退のまま続いていく。

 その時、ジェームズが大上段にサーベルを構えた! 絶大な攻撃力の代わりに大きな隙も存在するその構え。なるほど、ここで終わらせる気か!

「受けて立つぜ……!」

 俺も胸を開くようにして左腕を大きく後に引き……、

「ラァァァァァァァァァァァァッ!」

「ハァァァァァァァァァァァァッ!」

 俺たちの渾身の一撃は、中央でぶつかり合う!このまま、俺たちの戦いは鍔迫り合いバインドへと移行。

 ジェームズは刃の背に左手を添えて俺を押さえ込み、それによって回した体を戻せなくなった――つまり、右腕を封じられた俺は、義手だけでサーベルを防御する。

 二つの金属が文字通り火花を散らす力比べ。いいぜ、お前がブッ飛ぶまで付き合ってやるッ!

「ビリー、もういいだろ?! ここまでして、なんでバートンを殺すことに拘る?!」

「もう二度と、バートンに歪められた子供を増やしたくないからだッ! 俺を襲ったアイツ見たいな子供をなッ!」

「それは俺たち保安官の仕事だ! このままバートンは証拠と一緒に法廷まで連れていく!」

「そうやってお前らが正しさに拘ってるあいだ。俺が傍観しているあいだ。いったい、どれだけの命が失われたッ?! それでまたコイツを法廷に連れてって、地盤の固いクソ統治官が憲法通りの罪に問われると本気で思ってるのか?! 軽い罪で野に放たれたコイツは、またどこかでビヨンディアンを殺すぞッ! だったら、今この場で俺が殺してやるッ! たとえそれが悪行でもなッ!」

「だとしても、お前がやってるのは、ただの八つ当たりだッ! 苛立ちを体のいい象徴にぶつけてるだけの癇癪だッ! 裁きを下すのは俺たちじゃない! 裁きを正すのは暴力じゃない! 俺たちは何かを守る力であればいいんだッ!お前も、アウトローの義賊を気取るならそう言う戦い方をしろッ!」

 ジェームズは勇ましくそう言い切った。

 だが、俺の臓腑からは黒い何かが湧き上がってくる。それは、激怒。あるいは、悔恨か……。

 そんな何かをぶつけるようにジェームズを睨みつける。

「守るだけでいい……、だと? 俺たちが悪を倒す必要は無い……、だと?」

だったら……、

「だったら、俺たちで守れなかったアイツはどうすりゃ救えるッ!」

俺は激情に任せてジェームズを投げ飛ばす!

「守る? 傍観? それで俺たちは守るべきものを守れなかったッ! だったら俺は、せめて俺の手が届く範囲の悪をブッ倒すッ! そうしないと、何かを救うことなんかできはしないッ!」

 そのまま、木にぶつかって苦悶の呻きを上げるジェームズを右手で殴った。立て続けに強い衝撃に襲われたジェームズは、もう立つことができない。

「……勝負あったな。約束通り、バートンは俺が殺す」

「ま、待て……! 行くな……ッ!」

 動けない体で必死に睨みつけてくるジェームズ。それを、俺は冷ややかな目で見下ろした。

「往生際が悪いぞ。約束を違えるのがお前のケンカか?」

「だったら、最後にもう一度考えろッ! アイツを殺した先に何があるッ! それはアイツを殺さなきゃ手に入らないかッ!」

 そう言うジェームズの目はあまりに激しく俺を見据えている。それは俺に、一切の虚偽を許さない。だからこそ、俺はヤツの目を見据え返して答えを投げつける。

「バートンのいなくなったネスメアだ。リトゥアたちが楽しく暮らせる町だ。……もう、寝とけ」

そして、倒れているジェームズをもう一度右手で殴った。そうしてジェームズは、

「それが、お前の答えか……」

 と言い残して地に倒れ伏した。死んではいないだろうが、しばらくはこのままだろう。

 ……これでいい。俺はバートンを殺す。そうすることで、俺は守ってみせる。

 リトゥアを。ファナさんたちを。そして、救えなかった皆を。

「そこで見てろ、ジェームズ。これが、俺の答えだ」





「見てみろ、ビリー。これがお前の答えだ」

 目が覚めた俺が見たのは、無残な破壊の痕が刻まれた教会。泣き出す子供たち。怯えるファナさん。

 そして……、

「リトゥアッ! リトゥア――!」

 そこにはあるべきものが無かった。

「何でだ……!どうしてこうなった?!」

 取り乱す俺に、ジェームズは冷酷な目線を投げつける。

「今までの事をもう一度思い出してみろ。お前が何をやったか。何を間違ったか、を」

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