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義の在り方 3

「逃がすかッ!」

 ライフルを片手で発砲。放たれた銃弾は、混乱に乗じて逃げ出そうとしたバートンの頬を掠めていく。

「クソッ! 気づかれたかッ!」

 至近弾を食らったバートンは、右手で悪趣味に装飾されたリボルバーを抜くと、その銃口を俺に向ける。

 だが……、

「グゥ……ッ!」

 その引き金は引かれることなく、バートンはリボルバーを地面に落とした。俺がヤツの銃を撃ち抜いたからだ。

「引きこもりの統治官が、元軍属に早撃ちで勝てると思ってるのか?」

 そのまま、ゆっくりと歩いてバートンの元へ向かう。

「待て、一旦落ち着け。わかった、お前の方が強いのは認めよう。何が目的だ。金か?だったら好きなだけ払うから俺を助けろ」

 バートンは一瞬で力量差を理解したのか、俺に交渉を持ちかける。

 金、か……。未だにそんなもので自分が狙われたと思っているとは、何ともおめでたい頭をしたヤツだ。

「なあ、バートン。お前が教会にけしかけたビヨンディアンを覚えてるか?」

「教会? ああ、一人送った気がするが。……ヤツが欲しいなら無理だ。確かに売ればいい金になりそうなガキだったが、任務に失敗したら自殺するように教えてある。もう、くたばってるよ。他にも売れそうなビヨンディアンはいるから、持ってくならそっちにしてくれ。何人見繕えば助けてくれる?」

 平然とそう語るバートンの顔には、一切の悪意が浮かんでいない。

 ああ、そうか。コイツにとってビヨンディアンは真にただの道具なのか。それを使い潰すことは悪じゃないと本気で考えているのか。

 体温が、急速に冷えていく。

「よくもそこまで傲慢になれるなッ!」

 俺は怒りに任せて、リボルバーで外道の膝を撃ち抜いた。

「ガァアアアアアッ!」

 断末魔を上げて地面に崩れ落ちるバートン。撃たれた場所を抑えながら、襲い来る激痛に地面を転がり回っている。

「お前がソイツに襲わせたのが。そして、そのビヨンディアンを撃ったのが俺だ。わざわざこの話をした意味が分かるか?」

「意味……、まさかお前。俺が黒ガキを使い捨てたからって殺しに来たのか?! そんな理由で俺を殺すのか……ッ?!」

 バートンの顔が醜く歪む。それは、死を前にした恐怖というよりも、何か理解できないバケモノを見たような顔に近かった。

「何で俺がお前を殺すか理解できないか? お前は罪のない子供の命を自分のために奪ったんだ。だったら、無残な死に方することくらい覚悟してると思ってたぜ」

「おっ、俺の道具を使い潰して何が悪いッ! お前は一々撃った銃弾に心を痛めるのか?! いつも薬室で灼かれるソイツらを悲しむのか?! 違うだろッ! それと同じだッ! 何でそんなことで殺されなきゃならないッ! それとも、ここで合衆国憲法を持ち出すか?! お前だって人殺しの癖にッ!」

 またも悪意のない顔で叫ぶバートン。痛みに玉のような脂汗を浮かべながら、それでもその傲慢さは変わらない。

 ……これ以上、コイツと話すことなんてない。

「もういい。お前がどうしようも無いヤツだってことは十分わかった。だから、もう喋らなくていいぞ。……地獄なんてものが本当にあるなら、精々そこで悔い続けるんだな」

 俺は、バートンに向けていたリボルバーの引き金に軽く力を込める。それを見たバートンは大きく目を見開くと、その声を恐怖に掠れさせながら叫び出す。

「やっ、やめろ……ッ! こっ、殺さないでくれ……ッ!」

 殺すな、だと?

「アイツだってそう思ってたッ!」

 もう片方の膝に一発。

「アアアアアアッ! 痛てぇッ! 痛てぇよォッ!」

「アイツの方が痛かったッ!」

 左の肩に一発。

「腕がァァァァッ! 腕が上がらねぇよォッ! どうすりゃッ!どうすりゃいいんだァァァァッ!」

「ファナさんたちの方が怖かったッ!」

 右の肩に一発。そして……、

「テメェェェェェェェェッ! こんなことして許されると思うなよアウトローのクズ野郎ッ!」

「俺の方が怒ってるッ!」

 最後に眉間に銃口を合わせようとする。……だが、

「待てよ。ビリー」

「……止めるのか?」

 俺は、背後から現れた何かに腕を掴まれその手を止めた。振り返ってみれば、ソイツの顔は見知った相手のもの。違うのは、いつものトランクケースに加えて、右腕に細身の血金式外骨格スチームスケルトンを付けていることくらいか。

「何となく、お前に止められる気はしたよ。ジェームズ」

「そうか? 俺の方は驚きだよ。町で暴れてた保安官をハッ倒して帰ってきたら、まさか友人のアウトローまで大暴れしてるなんて思いもよらなかったぜ」

 そう言って、肩をすくめるジェームズ。俺はそんなジェームズを鋭く睨みつける。

「止めるな。撃たせろ」

「駄目だ。言っただろ? バートンは生かしたまま正規の手段で裁くって。もうバートンに悪事を働く力は残ってない。何も殺すことは無いはずだ」

 そう言うと、ジェームズは俺を押し飛ばして素早くバートンの手当を始める。そうして、そのまま俺の方を振り返らずこう言った。

「お前の気持ちは分かる。けれど、俺は一人の保安官として。そして、お前の友人として。お前のことを止めなきゃならない。……どうもネスメア周辺の情勢が怪しい。コトはコイツがいなくなれば解決ってものでも無さそうなんだ。だから、コイツは後腐れの無いように正規の手段で裁く。お前は、もう大人しくしろ」

「お前らが、そのあやふやな情報を一々確認している間にコイツは何人殺した? そして、これから何人殺す?」

「もちろん、コイツを許すつもりは無い。だからこそ、正規の法廷で裁かせるさ。――お前も、今更逃げ隠れしねぇよな?バートン」

 ジェームズの質問に、ぎこちない頷きだけでバートンは答えた。だが、

「信じられるかッ!」

 それでも、俺にバートンを生かす理由はどこにも無い。もうこれ以上、あんな事は起こしちゃいけないッ!

「……どうしても、聞き入れてくれないか?」

 バートンの手当を終えたジェームズはゆっくり向き直ると、静かにそう聞いてくる。

「ああ。俺はバートンを殺す」

 当然、俺はそう答える。するとジェームズは、その目を一段と鋭くして、こう言い出した。

「……男の友人同士で張り合った時、最後にやることは決まってる」

「何をするつもりだ」

 ジェームズは傍らにあったトランクケース――いや、サベージを握って答える。

「ケンカだよ。死ぬ気でり合おうぜ、ビリー」

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