義の在り方 1
「……雨?」
頬にぽつりとした滴を感じる。もはやそれが雨粒なのか自分の涙なのか分からないが、何にせよ、このまま自分ごと雨に消えてしまいたい気持ちだった。
「ビリー、聞こえてる?」
不意に肩越しに声をかけられる。こんな絶望の中でなお、透き通るように響く音。リトゥアの声だ。
「……なんだ?」
「シスターファナが、あの娘の葬式をするって。ビリーも来るわよね?」
葬式……。ああ、葬式か。人が死んだときにする。何でそんなものを? そうだ、俺が殺したからだ。この手で。引き金を引いて。
クソっ、まだ思考が乱れてる。子供じゃないんだ。いつまでも嘆いてばかりいられないってのに。
俺は、気を入れ直すようにテンガロンハットを目深に被り直した。
「ビリー、大丈夫?」
「……ああ、迷惑かけたな。心配するな。元々、殺しには慣れてるはずだから」
ただ、今回は相手が何の罪もない子供だっただけ。……ハッ、結局やってる事は兵器の頃と変わりないじゃないか。慣れているのは人を殺すことじゃなくて、自分の心を殺すことだ。ああ、またこうやって、俺は心を殺し続けるのか。
「……アイツの葬式をやるんだっけか? 俺も参列するよ」
俺は無理やり気丈にそう言うと、教会の中へ戻ろうと立ち上がる。そんな俺を、リトゥアは悲しげな表情で見つめていた。
「……ごめんなさい。あなたが苦しんでいることはわかっているのに、私には何もできない。あなたが悲しんでいるいることはわかっても、何をしてあげればいいのかわからない。……でも、あなたに悲しんで欲しくないとは思う」
そう言って、リトゥアは俺のジャケットを軽くつまむ。そこからは、体温、吐息、指先の震え。リトゥアの全てが伝わってくるようだった。
ああ、リトゥアはそこにいる。そこで、俺を受け止めてくれている。
「なあ、リトゥア。お前は俺の隣にいても死なないか? 俺を……、兵器に戻さないでくれるか?」
絞り出すように俺は呟く。
その時、リトゥアの頬を伝った滴は彼女の涙なのか、雨粒なのか。それは、やはり分からないのだった。
彼女の棺は教会の礼拝室に置かれている。その前に立っているのは俺一人だけ。
俺は葬式の前に、一人で彼女へ会いに来ていた。ファナさんに頼んで、しばらく礼拝室には誰も入れないようにしてもらっている。だから、この場にいるのは俺と物言わぬ遺体だけ。
そんな俺を、棺の小窓から眺める彼女は何を思うのか。お前を救えなかった俺を嘲笑うのか。お前を殺すことしかできなかった俺を詰るのか。その答えは、今となってはもう分からない。
「なあ、何でこんなことになったんだろうな……?」
零れるのはそんな言葉。
俺は、あの外道を倒した。そして、ここにはファナさんのような優しい大人がいる。教会の子供たちは素直で無邪気だ。責任感の強い彼女は、きっといいお姉さんになれただろう。もしかしたら、同じ魔術師同士、リトゥアの友達になっていたかもしれない。
そして、いつかネスメアに平穏が戻ったとき……、
「みんなで笑っていられたかもしれないのにな……っ!」
それを奪ったのは誰だ?
俺だ。俺が殺したからだ。
なぜ殺した?
アイツがファナさんを殺そうとしたからだ。俺はその一瞬で……、ファナさんを選んだ。
なぜ彼女は殺した?
その、ように歪められたからだ。バートンに、アレックスに、ありとあらゆる物を奪われて。
「……ッ!」
思い起こすだけで悔しさと怒りがこみ上げてくる。
二度と、彼女のような結末はあってはいけない。二度と、理不尽に殺し殺される少女を生んではいけない。二度と、そんな少女を殺さなければならない人を生んではいけない。
ならば、どうする?
動け。もう手を拱くな。俺が静観しているうちに誰かが死んでいく。
次は誰だ。リトゥアか?ファナさんか?子供たちか?
だったら俺自身で動くしかない。俺が……、
「バートンを殺す……ッ!」




