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ゴールドラッシュ・イン・ザ・ビヨンド 2

 さて、最初はどこへ行こうか。

 やはり血金石を求めてどこかの鉱山へ行くべきか? それとも、まずはお尋ね者でも倒して路銀の足しにしようか。

 ああ、俺はいま自分の行き先を自分で選べている! これが自由!これがビヨンド!

 そして、そんな思いの中で俺が出した結論は、

「よし、まずは歩こう! とりあえず歩き回ってみよう! そして、死ぬほど腹が減ったら酒場へ行こう!」

 正直今は稼ぎ云々よりも、ようやく手に入れた自由への興奮の方が大きかった。

 そして、そうと決まればここに留まる理由は無い。そう思い、ビヨンドゲート管理局を後にしたところで、

「そこの兄さん。ちょっといいかい?」

 一人の老人に呼び止められる。そいつは、俺を手招きしながらみすぼらしい格好をして路上に座り込んでいた。

「ん?  俺になんか用?」

「お前さん、見たところ今さっきビヨンドに来た連中だろ。それも、血金石に浮かされて何の情報も無く」

 この老人、見かけによらず鋭いのか?浮かされていたのは血金石と言うより自由なのだが、確かに彼の言う通りである。

「正解。ついさっきの開門でこっちへ来たばかりだし、ビヨンドのことは大して知らない。……よく分かったな?」

「目を見りゃ分かるさ。こちとらゲートが開いた時からビヨンドにいるんだ。しかし、何も知らずににビヨンドへ来るなんて余程焦ってるんだな。ギャンブルで借金でも作ったか?」

「……金じゃない。いや、金もあるけどそれ以上に自由が欲しかったんだ」

 少し真剣になった俺の声を聞いて、老人の言葉が一瞬止まる。

「自由なら本土にだってあるだろう。セルクニカは自由の国だ」

 まあ、そう来るのが普通の反応だろう。セルクニカ合衆国憲章は自由という単語を高々と掲げている。

 俺は少し迷ってから老人に左腕を見せた。左手だけに嵌めた革手袋を外すと、そこからは黒く輝く鋼の腕が覗く。

「ちょっとワケありで本土に居場所が無くなったのさ。ガキの頃から軍に体を弄られて、おかけで左腕が機械のヘンテコ人間。その癖、戦争で活躍してもロクな権利はくれないのに、監視だけは一丁前に付いてくるときた。そんなわけで、流石に嫌になったから研究所の壊滅に合わせてビヨンドに逃げてきたってわけ。向こうじゃ俺はいなかったことになってるだろうし、ビヨンドまでは追いかけてこないだろうからな」

「セルクニカ軍サマの秘密兵器ってわけか。あんたも中々苦労してんだな。うん、面白そうな男だ。気に入ったよ」

 老人はそこで一しきり笑う。そして、その後に目を細めて俺を見た。大きく雰囲気が変わったところから、今までの問答は次の話の前座のような話しぶりだ。

 そして、彼の雰囲気が変わったのは明らかに俺が兵器だと知ってから。うん、なんかヤバげな匂いがしてくるな……。

「そんな所があんたに面白い話があるんだ。聞かないか?」

「……いいぜ。ビヨンドの情報は少しでも欲しい」

 少し考えてから了承する。それが呑んだくれの噂話だろうが、首を突っ込んじゃいけない厄介事だろうが、今は少しでもこの世界のことを知っておきたかった。

「くく、威勢のいいことだ」

 そう言うと、老人は地図を広げてとある一点を指す。

「ここ、ビヨンドゲートから西へ三百キルほど行ったところにでっかい血金山がある。そこじゃ砂状血金を拾うだけでも一日に小瓶一本ぐらいは血金石が採れるらしいぞ。どうだ、お前さん行ってみたらいかがかな?」

「……それだけ? その血金山のことが面白い話? 確かに、それが本当なら凄いだろうけど、そんな場所があったら既に人が殺到してるはずだ。本土じゃ、誰もそんな話してなかったぜ」

 もし話がこれで終わりだとしたら少し拍子抜けだ。大きな血金脈の噂話は本土にも流れてくるものである。いくら門で隔てられているからと言って、そんなお伽噺のような血金脈の話しなら本土でも話題になっているだろう。それはもう、俺みたいな無知な若者でも耳にするくらいに。つまり、俺が知らなかったということは、この話はデタラメだ。

 俺は、この話を酔っ払った老人の与太話として聞き流そうとする。だが、そんな俺の態度に動ずることなく老人は話を続けた。

「まあ、落ち着けって。面白いのはここからだ。実はその血金山がある州はな、統治官……、国の制度で州を治める領主みたいな奴がいるんだが、そいつが大分横暴なんだよ。確かバートンとか言ったかな。統治官なんてのは暴君も多いもんだが、そいつは輪をかけて酷い。一応憲法で保護されているはずの異界先住民ネイティブ・ビヨンディアンは酷い差別にあってる癖に、本土人が新たに血金石を掘ろうものなら翌日には吊るされている。要するに、自分で富を独占したいんだろうね。おまけに、本土から来た人間を狙う強盗紛いだっているもんだから、良い血金石が採れるのに、誰も近づこうとしない。誰にとっても住みにくいんだから当たり前だわな。それでもそこを目指す連中は、あんたみたいなワケありや荒くれ者と、それ目当てのバウンティハンターだけってなもんよ」

 そう言って老人は、またケラケラと笑い出す。

「……なるほど。それは確かに面白いな。そんで、見返りは幾らだ? まさかタダで情報を教えたわけじゃ無いだろ?」

 面白い話を聞けたのは事実だ。酒代くらいは出してやろうとポケット手を入れるが、

「いや、お前さんがそこに行ってくれるだけで十分な報酬だ。ワシはもう歳をとったが、荒野を駆け回ってた頃が忘れられなくてね。若いものに情報タネを撒いて、彼らの武勇伝がここに流れてくるのを聞くのが何よりも楽しみなんだ。未来ある若者から金を巻き上げたりはしないさ」

 老人はどこか遠い目をしてそう語るのみ。その目には一線を退いた老兵の矜恃と悲しみが見て取れた。きっと、この老人はこうやって新たな世代を眺めながら、まだ見ぬ大地に思いを馳せるのだろう。

 ……よし、俺が目指すべき場所が決まった。旨い話なことは確かだし、何よりこの老人の思いに報いてやりたい。若者にベットしてくれた老兵の望みくらい叶えてやれないで何がフロンティアスピリットだ。

「わかった。いつか身を上げて、またここに来るよ。その時は酒でも飲みながら土産話を聞かせてやる」

「ああ、楽しみに待っとるよ。………………ところでお前さん、三百キルもの旅路をどうやって移動するつもりだ?」

 ……ここは一言二言話してからカッコよく別れる場面じゃないのか?

「どうやってって、横断鉄道辺りじゃないのか?」

「ああ、ありゃダメだよ! 値段も高いし、何より駅から血金山までが遠い!」

「じゃあ何で行きゃいいんだ?」

 いまいち要領を得ない老人の話に多少の訝しさを感じながら問い返す。すると、それを聞いた老人は、今まで態度が嘘のように目を輝かせて語り出した。

「そりゃあもちろん、血金駆動二輪車スチームバイに決まっているだろう! スチームバイはいいぞ〜! 風を切るスピード、蒸気の音、まさにビヨンドを駆けるに相応しい! どうだ、オレはスチームバイの技師をやっているんだが、一台買わないか? なに、悪いようにはしないさ。最高のものを安く見繕ってやる!さあさあ、買うだろ? 買うよな?! お買い上げありがとう!」

 そこで俺はようやく気付く。この老人、若者の為とか言っときながら押し売りの口実が欲しいだけだ! 俺の感動を返して欲しい!

 ……予定変更だ。いつか身を上げたらこの老人は札束でぶん殴りってやろう。

俺は密かにそう決意しながら、彼の店へと強引に連れられていくのだった。


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