ネスメア動乱 3
あの後、ジャムを作っていたファナさんを連れ出して俺たちは酒場に向かった。いつもリトゥアと飯を食いに行っていた、あの酒場である。
そこには、既に数人が集まっていて、ファナさんから聞いた話によれば、皆が住民や職業の代表者だったり、俺とファナさんのようにビヨンディアンと共存している者だったり、ネスメアに住むビヨンディアン本人だったりするらしい。要するに、今回の件に直接関係がありそうな人は呼べるだけ呼んだみたいだな。
いくらネスメアとは言え裏では煙たがられることも多い、ビヨンディアンに関わる人間だが、ここには表立ってそれを嫌がる者も無く、俺としても話しやすい雰囲気だった。
しばらくして、ベンさんが最後の一人を連れてきたところで会合が始まる。会を仕切るのはベンさん自身だ。
「よし、みんな揃ったみたいだし始めるぞ。今回は、議論と言うよりも現状の説明が主だ。新入りや普段は会に参加しない奴も呼んでるから、少し丁寧に行こうと思う」
そう前置きしてから、ベンさんはネスメアの現状を語り始めた。俺は、ベンさんの口から語られた情報を脳内で纏めてみる。
一つ、この町がセブリアで一番栄えている理由は、血金石で財を成したジャクソンが、その権力で愚王バートンを締め出し、その上で住民に理解のある自治を行っていたからである。
二つ、それをよく思わないバートンは、ネスメアに保安官を大量増員して本格的に争う姿勢を見せた。これには、バートンの地位がビヨンド統治局の中で上がってきたことも影響しているらしい。
そして三つ、遂にジャクソンを暗殺したバートンは、そのままネスメアを支配しだした。保安官共が急に姿を消した理由はその抗争のせいらしい。そして、なんと驚いたことに、しばらくは本人がネスメアまで来て監視の目を強化するそうだ。
うん、いくつか知らない情報があったが、とりあえず俺の認識と大きなズレは無いな。
「……と、こんなわけだ。ここまではわかったな?」
俺たちは頷く。そしてしばらくの話し合いを挟んだ後、
「まあ、その……アレだ。厄介なことになったが、こっからどうなるかは分からないし、ビヨンディアンやワケありの奴はあまり町に出ないようにとしか言えないな。もう町に保安官がウロつき出したから、帰りも気をつけるように。悔しいが今は大人しくするしか無いだろうさ。俺たちも、何とかヤツをまた追い出せないかやってるところだ」
と言うベンさんの言葉で、今回の会合は解散となった。
その帰り、俺はファナさんをスチームバイの後ろに乗せて教会へと戻る。もちろん、人通りの少ない道を選んで走るのを忘れない。
「でも、バートンがネスメアにまで来ているなんて恐ろしいです……。うちの教会は差別主義者からしたら弾圧の対象ですから……」
そう零すファナさんの声は、不安に細く震えていた。それだけ、バートンと言うのは悪名高い男ということか。
「ほとぼりが冷めるまで他所に行っちまうのも手かもな。ファナさんたちもどう?」
「それが、既に町には検問が張られたそうで、彼らの「対ビヨンディアン政策」とやらが済むまで私たちは閉じ込められるそうです……」
もうそこまで手が回っているのか?!
バートンの妄執は予想以上に強固なものだ。これでは、俺たちだけならまだしも、ファナさんや子供たちを連れてはネスメアから出ることができない。……いや、それらを捨て置いてしまえば、俺は利己的な兵器に戻ってしまうから、やりたくないと言う方が正しいか。
「先を越されたか……」
俺がそう呟いたとき、不意にジャケットを掴むファナさんの手に少し力が入った気がした。
「ねえ、ビリーさん。今日から教会に来てもらえませんか?」
「……それは、教会で寝泊まりしろってこと?」
「はい。こういう時は一箇所に集まった方がいいと思って。……いえ、私が強い人に子供たちを守ってもらいたいだけかも知れません……」
それきり、ファナさんは黙り込んでしまう。どうやら、俺をいい様に利用しようとしたと思って罪悪感を感じているらしい。もちろん、そんな風に気を使われるほど真っ当な人生を俺は歩んでいないので、そんな反応をされると逆にこっちが罪悪感を感じてくる……。
ただ、リトゥアと教会に隠れるというのはいい選択肢かもしれない。バートンの検問のせいで、しばらくはこの町に留まらなくてはならなくなった以上、どうしても買い出しやらでリトゥアを一人にしなくてはならない機会も出てくるだろう。だが、教会にいればそういう危険性を減らすことが出来るし、ファナさんの言う通り、いざとなった時の用心棒くらいなら俺でもこなせる。
それに、こういうときに大人数でいるという精神的安寧は、最後の最後で生死を分かつ境目になる。俺は軍にいた頃から孤独には慣れているが、それでも一人だけで戦いたいかと問われれば迷わず首を横に振る。
これは、利用すべきギブアンドテイクだ。俺はファナさんの誘いに乗ることにした。
「そんな思い詰めんなよ。人なんてお互い利用し合って生きてくんだからさ。そんなわけで、乗るよ。その話」
「本当ですか?!」
ファナさんの声が弾む。そんなに喜ばれる程のことはして無いのだが、まあこれで少しは安心してくれるなら良しとしよう。
ともかく、俺たちは教会に身を寄せることが決まった。神サマには緊急避難ということで、ここは一つ容赦してもらおう。
これでほとぼりが冷めるまで乗り切られればいいのだが……。




