ネスメア動乱 2
「うし、これでひとまず終わりかな。ファナさん、これで問題ない?」
「はい、大丈夫です。少し休まれますか?」
「いや、このくらい平気だよ。次はそっちをやっとく」
そんな話をしながら、俺はファナさんの教会にある畑で収穫を手伝っていた。リトゥアも、ここからは見えないがどこかで同じことをしているだろう。
今は、あれから――保安官の増員から三日が経った午前。あれほどネスメアを歩いていた保安官は、今はすっかり影を潜め、今の町には以前と同じ空気が流れている。
それが戻ってきた平穏なのか、嵐の前の静けさなのかはわからないが、じっとしていても仕方ないので俺も普段通りに適当に過ごしているというのが現状だ。
そんなわけで、今日の仕事はファナさんの畑の手伝い。どうも収穫の時期に入ったらしく、人手が足りないとのことで俺たちが臨時で雇われたというわけだ。ファナさんの畑には見慣れないビヨンドの作物なども植えられていて、見ていて飽きない職場だと思う。
だが、いくら保安官が見えないからと言って不安が消えるわけではない。そんな状況だから、作業中のお喋りも、もっぱらその話題についてだった。
「なあ、ファナさん。ついこの間、町に出てきてた保安官だけど、急にいなくなった理由とかって知ってる?」
「うーん、私も気になっていたのですけど、あまりわからないのですよね……。この間は教会の近くまで来ていた見たいですし、あまり大事にはならないで欲しいのですけど……」
「こっちにもリトゥアがいるし、差別主義気味のセブリア保安官がたむろしてるのはおっかねぇなぁ……」
二人の間に立ち込めるのは、漠然とした不安。そんな黒い感情を紛らわすように、俺たちは作業を進めていくのだった。
その甲斐あってか、いつもは夜までかかっても終わらないこともあるらしい作業も夕方前までには終わってしまい、今は皆で教会の中にいる所だ。なんでも、収穫した日に獲れた物を少しだけ皆で食べるのが、この教会の伝統らしい。
ファナさんが収穫物を調理している間、食堂は無邪気に騒ぐ男子や、それを仕切りたがるおませな女の子で大賑わいだ。
リトゥアと歳が近いグループは、周りと違って年相応に落ち着いていて、今はリトゥアと何か話している。無口なリトゥアも少しずつ打ち解けてきているようで、他の子供たちの質問に答えたりしているらしい。
きっと、教会の子供たちがすぐにリトゥアを受け入れられたのも、ファナさんが分け隔てなく皆に愛情を注いでいるからなのだろう。リトゥアと一緒に暮らしちゃいるが、俺もそんな存在になれてるかね……。
そんなことを考えていたとき、俺は隣からスボンの裾を引っ張られるのを感じた。見れば、そこにいたのは小さな男の子である。
「ねえお兄ちゃん、一緒に遊ぼうよ!」
「俺と?」
「うん! これからみんなで鬼ごっこするんだ!」
そう言って、無邪気な眼差しを向けてくる少年。その後からは、ほかの子供たちも同じような目付きを俺に向けている。どうやら、俺を遊びに誘っているらしい。
……まいったな。職業柄、子供と触れ合った経験なんてほとんど無い。
さて、どうしたものかと迷っていると……
「お兄ちゃんが鬼ね! 逃げていいのは教会の庭までだよ!」
男の子に、強引に手を引かれる。随分と荒っぽい勧誘だ。
けど、まあ、たまにはこういうのもアリか……!
「フッ、スナイパー上がりを鬼にしたこと。後悔するなよ!」
俺はおどけたように叫ぶと、子供たちの鬼ごっこに混じっていく。そうして俺もまた、教会の団欒に包まれていくのだった。
教会での一時の団欒。温かく優しい人と過ごす時間。それは、本土にいたときの俺には縁の無いものだったが、こうして味わってみると不思議な心地良さを感じる。
だが、結論から言おう。そんな平穏は長く続かなかった。それは、突然の来客によって終わりを告げる。
そいつは、大きな音を立てて教会の扉を開けると、それに負けないくらいの大声で叫び出した。
「大変だファナさん! すぐに酒場まで来てくれ!」
コイツは、確かベンとか言ってネスメアで住民のまとめ役になってる男だ。俺もこの間会う機会があったが、自治領のような状況になっているネスメアを、住民側の代表として上手くまとめているという印象だった。
そんなヤツが大慌てで教会に駆け込むなんて、一体何事だろうか。
「まずは落ち着けよベンさん。何かあったのか?」
力や腕っぷしが必要なら俺が役に立てるかもしれない。
だが、返ってきた言葉は予想を超えたものだった。
「死んだんだ! ジャクソンさんがバートンの息がかかった保安官共に殺されたんだよ!」
「何だって?!」
それはつまり、この間に予想したバートンとジャクソンの抗争が始まったということだ。いや、始まる前にバートンの勝ちで決着してしまったのだ。そして、それは差別主義者のバートンがネスメアをも手中に収めたことを意味する。これは、マズいことになったんじゃないか……?
ベンさんは、そんな俺の焦りが伝わったのか、
「ああ、アンタも色々ワケあり見たいだな。ちょうどいい、お前も来い」
なんて言ってくる。確かに、ベンさんの言う通りリトゥアを連れていて、自分にもちょっとした事情を抱えている俺としては、一刻も早く正確な情報が欲しいところだった。うん、ここは素直に好意に甘えよう。
「ありがとう、助かる。ファナさんは俺が連れていくよ」
「了解した。じゃあ、俺はまだ回るとこがあるからこれで失礼する!」
そう言うと、ベンさんは大股で教会を出ていった。
……まったく、面倒な事になったもんだ。




