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荒野の宴 5

「おお〜、やっぱいい金になったな! それに、二人で狩ったから儲けは俺たちだけで使えるぞ?! 何か買っちゃう?買っちゃおうぜ?!」

 コカトリスの素材も手に入ったからか、商人は昨日の約束よりも高い値段を俺たちに払ったため、結局、俺たちの手にはかなりの金が入ることになった。ざっと数えても、すぐには使い切れないほど多い。うん、これは夢が広がるな!

 だが、リトゥアはそんなことは思わないらしく、

「……それこそ、私に聞かないで好きにすればいいと思うわ」

 なんて言ってくる。

「何言ってんだ。リトゥアも一緒に戦ったんだから、半分はお前の金だぞ。お前こそ好きに使えよ」

「特に欲しいものがないもの。生きていけるならお金はいらない」

 うーむ、金に無頓着すぎるのはいかがなものか……。まあ、自分から「生きていきたい」と口に出しただけ、いい傾向ということにしておこう。

「いつか、金は受け取ってもらうからな。……とりあえず、今はうまいもんでも食いに行くか。夕飯には少し早いけど、今日も昼飯食ってないし腹が減って死にそうだ」

「わかった」

 そうして、俺たちはこの間の酒場へと向かう。流れ者の俺には、金の使い道と言っても、うまいメシくらいしか思いつかなかった。


 扉を開ければ、前と同じ活気に包まれた空気がそこにある。相変わらず、オヤジが忙しそうに切り盛りしていた。

「よっ、また来たよ」

「おおっ、お前たちか! 新たな常連はいつでも大歓迎だぞ!」

 そう言って、オヤジは豪快に笑う。見ている俺まで楽しくなってくる笑い方だ。さて、さっそく何か注文して食事にしよう。

「リトゥア、なんか食いたいものある?」

「特にないわ」

 もう慣れた対応だ。こればっかりは、リトゥアの生い立ちに加えて、本来の性格もあるのだろう。

「じゃあ、ちょっと金も入ったし、何かビヨンドの珍しい食いものとか食べてみたいな。それでいい?」

「ええ」

 というわけで、オヤジに異界の珍味をオーダーする。知識が無いから、また条件だけ伝えての注文になってしまったが、何が出てくるか分からないという状況もまた、知らない土地の醍醐味だ。

「おし、そういう事なちょっと珍しい肉が手に入ったんだ。焼いて唐辛子のソースで食うとうまいらしい。それを出してやるよ」

「へえ〜、なんの肉?」

「それは来てからのお楽しみってヤツだ」

 そう言って、厨房へ消えるオヤジ。さて、何が出てくることやら。


 しばらくして、オヤジは皿を二つ抱えて戻ってきた。そこには熱々に焼かれた肉の塊が乗っている。うん、この見た目だけでも美味く感じるな。

「ほい、「ドラゴンのステーキ」二人前お待ち!ドラゴンの肉なんて珍しいだろ?」

 ……今、ドラゴンつったか?いや、確かに珍しい。珍しいのだが……

「なあ、オヤジ。その肉、どこから仕入れた?」

「確かマイクって商人だったな。普段は本土向けに商売してるみたいだが、食用の肉はあまり日持ちしないし持ってけないらしくて、昨日からビヨンドで売ってたんだ」

 マイクとは俺たちが竜を取り引きした商人の名前だ。薄々感づいてはいたが、この竜肉は俺たちが殺したあの竜のものらしい。ドラゴンなんて、そう一日に何頭も狩れる物ではないので、確定と言っていいだろう。

「ん? 急に黙ってどうかしたか?」

「いや、何でもない。ありがたく頂くよ」

「おう、ゆっくりしてけ」

 一瞬、ドラゴン退治のことを話そうかと思ったが、長話でオヤジを引き止めるのも気が引ける。なので、俺はオヤジがいなくなってから、俺はリトゥアに話しかけた。

「なんつーか、世間は狭いんだな……」

「でも、狩ってきた獲物を猟師が食べるのは自然な行為。全て売ってしまう方が私たちからすれば奇妙に見えるわ」

「ま、そういう考えもできるか」

 まあ、なんだかんだ言っても珍しいメシにありつけたのは変わらない。自分で狩った竜肉を自分で味わうという経験も、また貴重なものだろう。

「よし、話はこれくらいにして、とっとと食うか! 前も言ったが肉は焼きたてが一番だ」

 そう言って、俺はステーキに手を伸ばす。向かいに座るリトゥアも俺に倣い、ナイフとフォークを握った。

 竜肉というのはなかなか切りにくく、無理やりナイフで押し切るようにしなければ切り分けられない。さて、その味は……

「おお、案外いけるものだな!」

 なかなか俺好みの味であった。確かに家畜に比べれば肉は硬く臭みもあるが、その硬さと血の味にも似た赤身の味が「肉を食ってる」という感じがして俺は好きだ。

 とは言え、あまり女の子ウケする味じゃないなと思いリトゥアの様子を伺ってみる。が、心配は杞憂だったようでしっかりと肉を頬張っている。元々、自然と生きてきたビヨンディアンなだけあって、リトゥアは好き嫌いをする質じゃないらしい。

 そんなわけで、二人の食事は楽しく過ぎていった。


「ふ〜、うまかった! 竜を狩った甲斐があるってもんだな!」

「そうね……。私は掟で竜を食べてはいけないことになってたから、初めて竜肉を食べた。こんな美味しいものなのね……」

「また色々食いにこよう。まだこの世界には美味いものも不味いものも沢山ある」

 こうして、俺たちはナイフを置く。とは言え、早めに店に入ったのでまだ夜まで時間はあり、さらに竜狩りのお陰で金もある。ここは「うまいものは色々ある」と言った手前、リトゥアに甘い物でも食わせてやろうと思い、俺はオヤジを呼ぼうと店の奥を見た。

 だが、そこで俺は店の雰囲気が変わるのを感じた。どうやら、その原因は今しがた店に入ってきた客にあるらしい。またチンピラでも入ってきたのかと、俺はドアの方を見やる。だが、そこにいたのは……、

「……保安官」

 二人組のそいつらは、胸にバッチを輝かせた紛れもない保安官だった。そして、本来ネスメアここの保安官とは権威を盾にした暴力装置。ジェームズのような件は例外なのだ。

「おいおい、何で保安官がこんな所に……」

 なんて、オヤジも困惑している。リトゥアには悪いが、ここは早々に店を出よう。そう思ったのは皆同じらしく、次々にそそくさと客が扉に向かっていった。

「リトゥア、俺たちも出よう」

「ええ」

 そんな俺たちを見た保安官は、

「おいおい、オレたち見て逃げ出すなんて、何かやましいことでもあるのか? なんだったら、今から俺たちで片っ端から撃ち殺しちまってもいいんだぜ?」

 なんて、これ見よがしに拳銃を弄りながら挑発してくるが、これに乗ったら相手の思う壺なので、俺たちは目も合わせず店の外に出る。これで、とりあえず難癖つけられて逮捕、もしくは罰金ということは無いだろう。

 ……だが、今日は妙に保安官に出会うのが気になるな。ジェームズも増員があると言っていたが、ここは資産家のお膝元で統治官は干渉しにくい場所のはずだ。そんな所で保安官の大量増員。正直、嫌な予感がする。

 次第に変わっていくネスメアの情勢、気をつけておいた方が良さそうだ。

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