荒野の宴 4
車を止めた瞬間、コカトリスは我先にと襲い来る。これはなかなかにゾッとする光景だな……。と言うか、予想以上に数が多い。
「おい、ジェームズ! なんか増えてるけどやれそうか?!」
「あー、少し数が多いけど、こんくらいなら何とかなんな。お前は自分の仕事に集中しろ」
そう言うと、ジェームズは例の奇妙な銃を右手に構えた。左手には、あのトランクケースも抱えている。
「さあ、ブッ放すぜ……獰猛者!」
瞬間、ケースから赤熱するような赤い光が迸り、やがてそれはケーブルを伝って銃へと流れ込む。
あの光、液状血金石の物だぞ? それでもって、弾帯に繋がれているということは、サベージとか呼ばれてたあの銃。血金式の機関砲なのか?! それも手持ちの!
「オラオラァ! その程度かァ?!」
俺の予想は正しかったらしく、ジェームズの持つ銃からは雨霰と銃弾が放たれる!
片手がトランクケースで塞がっているため、荷台の壁に刺した銃剣と肩に当てたストックによる強引な保持で撃っているが、それによる命中率の低下を補って余りある連射力だ。
その弾幕の前に、迫るコカトリスの斥候も車に近付く事ができないでいる。
「サリアラヒ ソク」
その間に、リトゥアは残る魔烈石を足止め用に投げると、魔術を用いてターゲットの観測を始めた。俺もサンダラーのデバイスを義手に繋げてチャージを開始する。
「見えた! 10時の方角!」
リトゥアがそう言うと、脳裏にリトゥアが見ているであろう上空からの映像が送られてきた。そこには、一際大きな竜冠をしたコカトリスが映っている。これも魔術の一種で見せているのだろうが、狙撃のサポートとしてこの上ない代物だな。
送られてきた映像と肉眼による視界とを照らし合わせ、ターゲットの位置を特定。……よし、捉えたぞ。
「雷公ッ!」
その瞬間、サンダラーからは竜のブレスと見まごう程に加速された砲弾が放たれる!それはコカトリスの群れを穿つように突き進んでいき……、
「ヒット!」
そのまま竜冠を持つ長を跡形もなく吹っ飛ばした!
長を失ったコカトリスは、一つ金切り声を上げると一目散に逃走していく。既に統率の取れた狩りの体制は失われ、逃げる方向すらバラバラだ。何匹かパニックになった個体――サンダラーの力量を理解できなかった個体とも言える――が未だ車を襲おうとしてくるが、この数なら簡単に対処できる。現に、既に何匹かがサベージの餌食になっているようだ。
かくして、俺たちはコカトリスから積み荷と命を守りきったのだった。
「ふぅ〜。これで終わりかな?」
と、トランクケースを下ろしながら呟くジェームズ。そのまま俺たちに向き直り、
「ドラゴン退治の話と言い、君たちはいっつもこんなモンスター狩りに巻き込まれてるわけ?」
「今日は金持ちのボンボンがいたからヤツらも釣られたんだろうさ」
「なかなか言うねぇ」
なんて、軽口を俺たちは言い合う。だが、そんな風に呑気に笑っていられるのも全て、
「リトゥア、コカトリスを倒せたのはお前のお陰だ。ありがとう」
「いや、ホント。ビリーが頼りない分、リトゥアさんがいてくれて助かったよ!」
俺たちは口々にリトゥアへ感謝した。
「おい、ジェームズ。お前、自分のスチームバイぶっ壊して人の車に乗ってる分際でよく俺の悪口が言えるな。あげく、コカトリスでパニック起こして俺たちの積み荷を捨てようとした癖に」
「お前だってリトゥアさんと俺がいなければどうなってたかわからないだろ?! パニクってたし!」
「リトゥアがいなけりゃ死んでたのはお前も同じだ! …………リトゥア、頼りなくて本当にスマン」
「自分で言って落ち込むなよ……。まあ、リトゥアさんに頼りきってたのは俺も同じだけどさ」
まあ、またも軽口の言い合いになってしまったのだが、最後はリトゥアへの感謝にすり替わっている。だが、こればっかりは今回のリトゥアの活躍を考えれば当然の話だ。俺たちなんてトリガーハッピーしていただけだし。
だが、やはりリトゥアは感謝され慣れていないのか、
「別に、普通のことをしただけ。……コカトリスを捌いてくる」
そう言って、早足に荷台を降りてしまう。
「手伝おうか〜?」
「いい。コカトリスは毒があるから素人には捌けない」
そいつは残念。
そんなわけで、リトゥアに手伝いを拒否されてしまった俺は少し手持ち無沙汰になってしまった。だが、そんなタイミングを見計らっていたのか、ジェームズがすかさず話しかけてくる。だが、その声音は今までの軽口とは違って静かなものだ。
「……サンダラーシステム。どっかで聞いたことあるって思ってたけど、今思い出したよ。まさかこんな所で見るとは思わなかったけど」
「何でそれを……、いや、政治家の倅だったな」
「ま、こんな立場だと知りたくもない情報がたまに入るのさ。……そんなに睨むな。誰にも言いふらしたりしないよ。だって、俺たちはもう友達だもんな!」
そう言って、笑顔で両手を広げるジェームズ。
「調子のいいヤツだな。お前だって妙な兵器持ち込んでる癖に」
「ああ、サベージのことか?家出する時に親父の息がかかった研究所からかっさらって来たんだよ。なんか、強引に血金駆動機関と銃をくっつけてバカスカ撃てるようにしたらしくて、実際そんな感じのゲテモノ兵器なんだけど、結構使えるだろ?」
「まあ、今回みたいに一対多なら使えるだろうな。何にせよ助かったのは事実だし、感謝してるよ」
「……急に褒めんなよムズ痒い。友達なんだから助け合うのは当たり前だろ?」
「そういう事にしておいてやるよ」
その後は、しばらく二人で下らない話をして時間を潰した。本当に取るに足らないような下らない話だ。
そんなことをしている内に、リトゥアが車に戻ってくる。見れば、地面に転がっていたコカトリスの死体は骨や羽が剥がされ、荷台には新たな素材の山が出来ていた。
「ビリー、解体が終わったわ」
「おう、任せちまって悪かったな。んじゃ、さっさとズラかるか。コカトリスのせいで時間使っちゃったしな」
そうして、俺たちは再びネスメアへと向かったのだった。
その後は特にトラブルも無く、順調に進んだ車は既に目的地の近くまで来ていた。。
「……おい、ネスメアが見えてきたぞ。どこで降ろせばいい?確か町に入ってすぐの所にスチームバイ技師がいたはずだが」
俺はジェームズに確認する。
「だったら、そこで降ろしてほしいな。せっかくだし、少し町を歩いて回りたい」
「了解」
そうして、ほんの少しの間を置いてネスメアの門を潜った俺たちは、ジェームズを入り口すぐの所で降ろした。
大量ジェームズは荷台から自分のスチームバイを降ろすと、運転席に向き直る。
「いや、本当にありがとう! 君らがいなければどうなってたことか!」
「礼はいいよ。それと、次からはちゃんと長距離用タイヤで走れ。マシンが可哀想だ」
「ああ、そうする。今回ので流石に懲りたよ。またモンスターハンターの車に乗せられたらたまったもんじゃ無いし」
吐かせ。
「じゃあ、またどこかで会おうぜ! 何となくだけど、俺たちはまた会える気がするよ!」
そう言い残すと、ジェームズはスチームバイを押しながら去っていった。なんと言うか……
「変な男だったなアイツ……」
「そう? ビリーに似ていたわ」
勘弁してくれ……。と言うか、俺ってリトゥアにあんな風に見られてたの?
「でも、保安官ってあんな人ばかりなの? 私が聞いてきた話と違う」
リトゥアは軽く首を傾げながら聞いてくる。
「いや、こればっかりはアイツが特別おかしなだけだと思う……。それと、ここら辺はビヨンディアンに寛容じゃない保安官の方が多いから、みんながアイツ見たいだと思わない方がいい」
「……クルサーラも色々いるのね」
「当然だ。保安官だってジェームズみたいな善人がいるらしいし、ビヨンディアンだって悪人はいるだろ。人間なんてそんなものさ」
そんな話をしながら俺たちは昨日の商人の館に向けて車を走らせた。さて、本土にいた頃、誰もがおとぎ話に聞いたドラゴン退治の報酬とは一体どれくらいなのか。これは期待が膨らむな!




