荒野の宴 2
その道中のことだ。流石に車内で無言というのも気まずいので、俺はジェームズに話しかけた。それに、少し気になることもあったし。
「なあ、ジェームズ。何でわざわざセブリアの保安官なんかになったんだ? 無法地帯で好き放題やろうってタマには見えないし、わざわざここに来なくても他にいい所はあるんじゃないの?」
ジェームズは軽く笑うようにして答える。
「せっかく保安官になったんだ。だったら、仕事が無い州よりも荒れた州を立て直して見たいだろ? それが州の治安だけじゃなくて、上も悪だったら尚更だ。そう思ってたら、セブリアで大きな増員があるらしいんで志願したってわけ。それに、楽な道を選ぶならハナから政治家の道を蹴ってビヨンドに家出したりしない」
「お前、政治家の倅なのか」
「そう言われると頭よく見えるだろ?」
「吐かせ」
だが、感じ入るものがあるのも確かだ。何せ、ジェームズがビヨンドに生きる理由は俺とほとんど変わらない。二人とも、何かから逃げてここに行き着いた類の人間だ。
「お前も色々あんだな。ま、俺がビヨンドに来た理由も同じような物だ」
「お互いワケありとは恐れ入った。これだからビヨンドは面白い」
とまあ、お互いの出自に関しての会話は、話題が話題だけに特別な発展を見せず無難に終わった。だが、互いに少し打ち解けたのも事実で、そこからはそれなりに会話も弾んでいく。
人見知りするリトゥアは黙って外を見ていることが多かったが、俺が話を振れば答えてくれたので、そこまでジェームズを怖がっていないのかもしれない。まあ、元々怖いもの知らずな子だったので--スチームバイだけは怖かったようだが--人見知りの理由も「人が怖い」と言うより、単に「誰かと話す」という行為自体に慣れていないだけだろうか。
その後は、俺たちはドラゴン退治の話をして、ジェームズからは早撃ちの武勇伝を聞かされた。何でも、首筋にサーベルが当てられた状況をクイックドロウだけで切り抜けたとかで、だとすれば早撃ちの技術は俺よりも上だな。
そんなことを話していたとき、ふと後ろの方から大きな音が聞こえてくる。俺は、何となく軍にいた頃に聞いた、軍馬の駆ける音に似ているように感じた。
「おいビリー、後から何か聞こえない?」
「やっぱり? ちょっと見てみてくれよ」
「おう。少し待ってろ」
そう言うと、俺に促されたジェームズは、車の窓を開けて身を乗り出した。
「あー、なんか土煙が上がってるな。突風とか?詳しくはわかんねえ」
「なんだよ使えないな。リトゥア、お前ならなんか分かる?」
俺はリトゥアにも聞いてみた。こういうことはリトゥアの方が、本土出身の俺やジェームズより詳しいはずだ。
リトゥアは、俺に聞かれる前からジェームズと代わるようにして窓から後ろを覗いていた。考えることは向こうも同じようだな。
「ケリヌ ソク」
視力の強化だろうか。短い祝詞を唱え、y土煙の中を探っていく。
そして次の瞬間、
「ビリー、急いで! あれはコカトリスの群れ! 私たちを狙ってる!」
叫ぶような声を上げた!
「コカトリスぅ?!」
確かそれは、ドラゴンと同じビヨンド固有の生物のはずだ。これまた生態がわかってないが、足が速くて、猛毒を持っていて、大集団で狩りをして、時には商人の積み荷を襲う事もあるとかで……、
「これ、すっげえマズい状況何じゃねえか?!」
背後に迫るコカトリスの群れは、俺たちは車で走ってるにも関わらず一歩も遅れることなく後を着けてくる。その数なんと…………、数え切れない! 何匹いるんだこれ?!
「おい、ビリー! めっちゃ追いかけてくんぞ! もっとスピード出せ!」
「もうやってる! 安物の車に荷物を山ほど載せてんだ! これが限界なんだよ!」
「だったら棄てちまえよ!俺が手伝う!」
「アホ! 幾らすると思ってる! 棄てたらお前をコカトリスの群れに放り投げンからな!」
ヤバいヤバいヤバい!こんなコミック見たいなやり取りしてる場合じゃないのに!
そんな中で唯一冷静なのはリトゥアだ。リトゥアは、懐から魔烈石を取り出すと、コカトリスの群れに向かって投げつける。
今回の魔烈石は、カナサに使ったものと違って光と音を多く出すように調整した、足止め用のものらしく、そのお陰で、流石のコカトリスも幾らか足を遅くしたみたいだ。
リトゥアはそれを確認した後、俺たちの方に向き直り、
「二人とも落ち着いて。そんな様子じゃすぐにコカトリスの餌食になる」
珍しく目を鋭くして叱ってきた。決して強い語気では無かったが、なんとなく有無を言わさない凄みがある。
ドラゴン退治の時も思ったが、ことビヨンド特有のアクシデントとなると、リトゥアかなり頼もしくなるな。
と、言うか、本土出身の俺たちがこういう事態に弱すぎるのかもしれない……。
「その……スマン」
「ゴメンナサイ……」
なので、俺たちは素直にリトゥアに謝った。うん、流石にあの慌てようは無い。
「別に、謝って欲しかったわけじゃ無い……。……そんなことより、私はコカトリスの注意を一瞬引き付けただけだから、この車じゃすぐに追いついてくるわ。今のうちに迎え撃つ準備をするべき」
リトゥアは、いきなり謝られたことが恥ずかしくなったのか、話の途中で強引に話題を変えた。
だが、リトゥアの言っていることはもっともで、早くもさっきの轟音はまた聞こえ始めている。このままじゃ、積荷どころか命まで失ってしまうだろう。
「そんで、リトゥアさん。その準備って何をするの?」
ジェームズがリトゥアに尋ねた。俺も、オンボロ車が壊れるギリギリの速度で血金駆動機関を動かしながら耳を傾ける。
「恐らく、あのコカトリスは昨日のドラゴンの魔力でパニックになっているだけ。飢えているわけではないから、群れの長がいなくなればすぐに遁走するわ」
「その長ってのはどれだ?」
これを聞いたのは俺だ。
「群れの中央に、ひときわ竜冠が大きいのがいるはず。それが、その群れの長」
どうやら、長というのは簡単に見分けがつくものらしい。
だが、長がとやらがいるのは群れの真ん中、それも車以上の速度で動くコカトリス相手。通常の火器でそれを撃ち抜くのは不可能だ。つまり、
「サンダラーの出番か」
「ええ」
リトゥアも同じことを思っていたらしく、すぐに首を縦に振った。
「私が魔術で上から群れを見て、長の位置を探す。そうしたら、ビリーはサンダラーで周りの個体ごと長を吹っ飛ばして欲しい。できる?」
「できるな。けど、リトゥアが長を探してる間、車を守る役が必要だな。この数の相手をリトゥア一人で、観測用の魔術を使いながらするってのはムリがあるだろ」
つまり……、
「ジェームズ、手伝え」
「……よくわから無いけど、そのサンダラーとやらを使うには時間が必要で、その間、俺はコカトリスを車に近づけなければいいってことか?」
「そういうことだ。別に本隊をぶっ叩けって言ってるんじゃなくて、何匹か先行してる個体を倒してくれればいい。本隊は俺が何とかする」
「その程度なら朝飯前だ。任せとけ」
そう言うと、ジェームズは荷物から一丁の拳銃を取り出し、片手に構えた。それは随分と奇妙な形をしていて、俺のリボルバーやサンダラーと違って、どこか直線的な印象を受ける。
回転弾倉やレバーすら見当たらなく、それどころかトランクケースのようなパーツから伸びるケーブルと繋がっているという見たことのない構造をしている。もう一つ、ケースから伸ばして繋げた部品は……弾帯か?
だが、既にコカトリスの斥候は車に追い付きつつあり、そんなことを気にしている余裕はない。
「リトゥア、ジェームズ! そろそろ車を止める! 今のうちに荷台へ移れ!」
「了解」
「オッケー!」
二人が後ろへ移ったのを確認して、車を止めるまでのカウントを開始。かなり荒っぽい急停車になるので、二人にもタイミングを伝える必要があるのだ。
ちょうど、ファレト山の崖が見えてきたので、そこを背に戦わせてもらおう。そうすれば後ろを取られる心配がない。
5……、4……、3……、2……、
「今だッ! 止めるぞッ!」
そして、車はファレトの崖にその頭を向けて急停止した。瞬間、車と俺たちに急制動の反動が襲いかかるが、何とか主だった事故は起こさずに済んだ。
無茶苦茶な運転による無理な停車。地味に神経を使うな……。
だが、感傷と疲労に浸っている暇は無い。コカトリスの斥候は、既に目と鼻の先から迫っている。……さあ、モンスター狩り第二弾の始まりだ!




