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荒野の宴 1

 その後は特に何事も無く、俺たちはキャンプへと無事に戻った。そして戻ってからも、ダッチオーブンで豆の缶詰を煮ただけの適当な食事をとって、少し二人で話をしてから寝るだけの平和なもの。正直、かなり疲れていたので余計なことをする余裕は無かったのだ。

 そして、そんな夜も明け、今はドラゴン討伐から一日経った朝。場所もドラゴンを倒したあの岩場である。

 目的はもちろん昨日の取り残し。無事に死体も残っていたので、二人で解体作業の真っ最中だ。今日は大型の血金駆動自動車といくつかの器具をを借りてきたので、より多くの素材を持ち帰ることができるだろう。

 そうして、今日もリトゥアの魔術と俺の義手で解体作業をしばらく進めていくが、昨日と違って量が多いので簡単には終わらない。

「いや〜、思ってたよりキツいな〜。流石にこの量を二人でやるのは無理があったかもな。勿体ぶらずに誰か雇えばよかったかな?」

 俺は、ドラゴンの背筋を義手とサーベルで引き剥がしながらリトゥアに話しかけた。人間とは、単調かつ長時間の労働が続くとお喋りがしたくなるものである。それは無口なリトゥアも同じなのか、骨の有用な部分を魔術で回転させた丸鋸で切り取る作業の手を休めることなく会話に応じてくれた。

「でも、変に誰かを雇ったりしたら盗まれる可能性を上げるだけ」

「だよなぁ……」

 そんな取り止めのない話をしながら作業を進めていく。それは、確かに重労働ではあったが、存外楽しい時間でもあった。


 そうして、ちょうど昼過ぎになった頃、

「うっしゃぁぁぁぁぁっ!終わったぁぁぁぁぉぁぁぁ!」

 開始から大きく時間をかけて俺たちはようやく解体を終えた。これでも、二人の技術や能力を最大限に使ったから出せた結果であり、本来であればさらに時間は延びていただろう。そんなことも相まって、俺は仕事終わりの喜びに任せて大きく叫んでいた。

 ふとリトゥアの方を見やると、そんな俺とは対照的に、静かに竜の死骸を見つめながら、いつもの祝詞に似た言葉を呟いている。恐らく、ビヨンディアンの信仰に基づく何かだろう。

 俺は、リトゥアが一しきり祈り終えるのを待ってから話しかける。

「お疲れ、リトゥア。今日も助かった」

「……別に、普通にしていただけ」

 返すリトゥアの言葉は素っ気ない物であったが、出会った頃とは違い、その真意は照れ隠しのようにも見える。……なんか小動物みたいで面白いな。

「うし、さっさと車に移して帰ろうぜCヤーンさん腹が減って仕方がない」

「わかった。細かいものは私が魔術で纏めて載せるから、ビリーは大きなものをお願い」

「おう」

 細かい作業はリトゥア、純粋な力仕事は俺。この分業も、既に慣れたものだ。

 そうして、積み込み作業も終えていざ帰ろうかと言うとき、

「お〜い、そこの二人! ちょっといいか〜!」

 遠くから大声が聞こえてきた。その方を見やると、確かに一人の若い男が歩いてくるのが見える。それは健康な男にしては随分と遅い歩きであったが、それもそのはず両手で重そうにスチームバイを押しながら歩いていた。

「……何だありゃ」

 俺はリトゥアを後ろに隠すと、すぐそばまで近づいてきた男を観察する。もちろん、いつでも右腰の銃を抜けるようにしておく事も忘れない。

「お〜い! 君たち、ネスメアに行くんだろ?」

「……まあ、そうだけど。お前こそいきなり何の用? 見たところ、竜の死体を掠め取りに来た泥棒ってワケじゃなさそうだが」

「いやいや、泥棒だなんて滅相もない。むしろその逆、俺は保安官だよ。保安官のジェームズ・ビル・ヒコック」

「ゲッ、保安官?!」

 確かに、にこやかに語りかけてくるジェームズは胸ポケットから保安官バッチを取り出して見せてきている。保安官と言うのは、統治官の直属で州の治安維持を担当している職業の事だ。

 だがセブリアの保安官という事は、あの悪名高い統治官の命で動いているということ。当然、いい噂は聞かないし、事実として権力を傘に着た暴力装置という側面の方が強い連中だ。ビヨンディアンに対する弾圧も酷いと聞く。

 無論、俺もリトゥアもバレたらしょっぴかれる様なことはしてるのだが、それを一々探して咎めに来るほど保安官とは暇な仕事では無かったはずだ。

 だとすれば、俺たちが竜を殺した話を聞きつけて、難癖つけて金を巻き上げに来たとかそんな辺りだろうか。俺は軽い牽制の意味で無難な質問を返す。

「あー、俺なんか保安官サマを怒らせるほど悪いことしたっけ?」

「ああ、そこは安心してくれ。別に君たちを捕まえに来たわけじゃないし、今は保安官バッチを付けてないから捕まえる権限もない。それに、セブリアには来たばかりで、まだ任官扱いじゃないから、逮捕権すら持ってないよ」

「だったら、何で話しかけた」

「いやそれがさ、ここまで乗ってきたスチームバイがいきなり動かなくなって困ってたんだ。そんなときに君らを見つけたから、良かったらその自動車に一緒に乗せて貰えないか?少しなら金も出せるよ」

 そう言うと、ジェームズは困ったように肩をすくめてみせた。

「……ちょっと見せてみろ」

 俺はジェームズのスチームバイを見る。……壊れてるのは事実だな。それに、俺たちを騙そうとしてわざと壊したのなら、壊れ方が自然すぎる。

 と言うか、セブリアの保安官なら相手を殺したとしても言い訳が付くのだから、回りくどい方法で俺たちを騙す意味が無い。

「どうするリトゥア? とりあえず、スチームバイが壊れてるの本当みたいだ。俺は乗せてやってもいい気がしてる」

 とりあえず、俺はリトゥアの意見も聞いてみる。

「ビリーがそう思うならそれで構わないわ」

「だってさ、ジェームズ。金はいらないから乗ってけよ。その代わり妙な動きをしたら撃ち殺すからな。……俺はビリーでこっちはリトゥアだ」

 俺は、忠告を兼ねてジェームズに名乗った。

「本っ当に助かる、ビリーとリトゥアさん!もう、乗せてくれるなら荷台でも何でも構わないよ。極力迷惑はかけないつもりだ」

「荷台には竜の素材がある。むしろ絶対に行くな。行ったら額に穴空ける」

 そう言って、俺は血金駆動自動車の荷台と運転席のドアを開けて、ジェームズのスチームバイを荷台に載せ、二人をシートに促す。最後に俺がハンドルの前に座ったが、大きなシートは3人で乗っても窮屈さを感じることはなく、思ったより快適だ。

「じゃあ出すぞ。行き先はネスメアでいいんだな?」

「ああ、それで頼むよ。リトゥアさんもよろしく」

「ええ」

 そうして、奇妙なメンバーを乗せた車はネスメアへ向かって走り出した。

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