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竜種狩り 3

 もうすぐ日も暮れようかという頃、俺たちは明かりもつけずにドラゴンを待っていた。既に、いつヤツが来てもおかしくない時間である。

そして、予想していたよりも多くの時間をかけてそれ・・は大地をつんざく咆哮と共に姿を現した。

「■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!!」

 その圧倒的な振動は、さっきまでよりも激しく大地を揺さぶる。戦までに力を蓄えていたのは俺たちだけじゃないということだ。

 だが、攻撃の体制に入ろうとしたドラゴンは、その場でゆっくりと首を擡げてその動きを止めた。その視線の先には、襤褸切れが掲げられていた。そう、これが俺たちの作戦その一。壊れた馬車の幌を利用して作った、即席の飛竜避けだ。

 リトゥアの情報通り、ドラゴンは上空で立ち往生している。きっと、俺たちの匂いはするのに姿は見えず、それどころか地には他の竜が伏しているようにヤツには見えているのだろう。

 よし、作戦の第一段階は成功だ。そして俺は、すかさず第二弾に移行する。すなわち――

雷公サンダラー!」

 飛竜避けの影からの砲撃だ!

 ドラゴンは襲われない限り他の個体の縄張りを攻撃しない。だが、それは「襲われない限り」という前提があっての話だ。

 そして、飛竜避けの影から撃たれたサンダラーは、ヤツにとって地に伏した竜の宣戦布告こうげきに見えただろう。つまり、

「■■■■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」

 竜は怒りの叫びを上げると、空気弾でサンダラーの砲弾を破壊する。そして、すぐさま魔力を掻き集め爆熱の火球を竜――に見立てた飛竜避けに放った。

 当然、襤褸切れで作られた飛竜避けは直ぐに燃え尽き、そこには灰だけしか残らない。俺はサンダラーを撃ったあとすぐに、その衝撃に紛れて大きく移動していたから火球には巻き込まれなかったが、やはり間近でドラゴンの力を見ると背筋がぞっとする。

 とは言え、作戦は第二段階も成功。ここまでは順調だ。

 上を見やれば、竜は大地に降りてくる最中だった。そう、竜が戦いの最中に地に降りるのは他の竜から縄張りを奪った時だけ。つまり、このドラゴンは攻撃してきた飛竜避けを焼いたことで、そいつの縄張りを奪ったと思ってるのだ。

 だが、サンダラーの攻撃はまだ通じないだろう。ヤツはサンダラーのマズルフラッシュを見た途端に空気弾を放ちながら空へ羽ばたける。だから、ここでもう一つ策を打つ!

「今だリトゥア!」

「レク セリア ソウ カリアンテ……!」

 俺の合図で、俺とは別の場所に隠れていたリトゥアが、祝詞を唱えながら飛び出した。リトゥアは、すぐさま黒色の光と共に最高速に達すると、ドラゴンとすれ違うようにして翼の筋肉を削いでいく。

「■■■■■、■■■■■■■■■―――ッ?!」

 ドラゴンは驚愕と苦悶の声を叫び、必死に傷を再生しようとする。それは、流石、多くの伝説に謳われたドラゴンと言ったところか、傷口はすぐに塞がり始めた。

 だが、だとしてももう遅い。

「翼が動かせなけりゃ空気弾は撃てないだろ?――――穿てッ!」

 俺は裂帛の気合いと共に二発目のサンダラーを放つ。狙いは正中、竜の心臓ド真ん中!

 飛び立つ手段も防御の術も失ったドラゴンには迫る凶弾を受け入れることしか出来ない。故に、放たれた砲弾は正確にその命を貫き通す!

「■■■、■■■■■■、■■■■■■―――ッ!!」

 そうして、最後に断末魔を上げて、暴虐の王は遂に地に倒れた。つまりは、

「俺たちの勝ちだ……!」

 俺は、サンダラーを掲げてそう呟く。それは、荒野に響く勝利宣言。俺は、戦の高揚感の中で静かな勝鬨を上げていた。

 それを合図に、不測の事態に備えて隠れていたリトゥアが俺に駆け寄った。

「ビリー、無事?」

「見ての通りピンピンしてるさ」

「そう、良かった……。安心したわ」

 なんてお決まりの台詞を二人で言い合う……って、

「今、安心したっつった?!」

 それは、リトゥアにしては珍しく、感情をはっきりと述べた言葉だった。

「ええ。やっぱり、私はあなたに死んで欲しくないと思ったから。……悪いことなの?」

「……いや、悪いってわけじゃ無いが。心配してくれてありがとうな、リトゥア」

 俺を見上げるリトゥアの目には少しの安堵が存在するように感じられる。それは昨日、初めて会った時の虚ろな目には無かったものだ。……うん、リトゥアも少しずつ変わってきている。

 そう考えると、今回の仕事は出来すぎなくらい大成功だ。カナサを倒し、ドラゴンも退け、そしてリトゥアが俺を心配してくれた。そんな結果に、思わず俺も笑みが漏れる。

 俺たちは、さっきまで戦場だったこの荒野で、静かに笑いあったような気がした。

 だが俺は、すぐに表情を曇らせる。なぜなら、一つ嫌なことに気づいてしまったからだ。

「カナサの死骸、コイツが食っちまったんだよな。それじゃ換金できないけど、こんだけ戦ってタダ働きは納得いかんな……。腹開けば出てくるかな?」

 セルクニカにおける罪人の換金システムは、生きた罪人か、その死体を換金所へ運ぶことで金と交換して貰えるというものである。だが、カナサはドラゴンに食われてしまっているため、俺たちの手元には死体が無いというのが現状だ。つまりは、これだけ必死に戦ったというのに儲けが出せないことになってしまう。さて、どうしたものか……。

「捕食じゃなくて魔術の代償として食べられたのだから、既に魔力に変換されているはず」

やっぱりか……。

「でも、カナサの懸賞金よりも竜種の素材の方が高く売れるわ」

「ホントか?!」

「ええ。角や鱗は装飾品になるし、内臓を薬にしたり爪や筋肉で武器を作る人もいる。竜はそう簡単に狩れない代わりに、体も大きくて売れる部位も多いわ。いくつかは売らないで持っておけば、ビリーの武器なんかにも使えるはず」

 何それ! すげぇ旨い話だな!

 正直に言って非常に助かる……。俗っぽい話だが、この社会では金が無ければ生きていけない。そもそも、ビヨンドに流れ着いたバウンティハンターなんて俗っぽさの塊以外の何物でもないのだから、偶然手に入った金策は存分に使わせて貰うことにしよう。

「おお〜! それなら苦労した甲斐があるってもんだ! ……とは言え、この量を一度には運べないし、高い部位だけ持ち帰れるだけ持ち帰って、後は車でも借りてくるか」

「そうね。ここらは滅多に人が通らない所だし、普通なら大丈夫なはず。それでも盗られたら運が悪いと思って諦めるしかないわね」

「ま、そうするしかないわな。一応、体に名前でも彫っておくか。こうすりゃ盗まれても取り返せる確率が上がるし」

 そうして、俺たちは竜の解体に取り掛かった。本来であれば、こっちも人数が必要な作業とのことだが、力の必要な箇所は俺の義手が使えるし、リトゥアの剣捌きはかなりレベルが高い。ビヨンディアンの知識に基づいた的確な指示も相まって、解体作業はすんなりと終了した。

「よし、とりあえず一旦帰るか。日も暮れるし本格的な回収は明日の早くだな」

「了解」

 結局、鱗の最も高価な部分はスチームバイに括りつけ、爪は俺の義手、内蔵や筋肉の一部はリトゥアの魔術を使って、それぞれ抱えて運ぶことになった。残してきた角なんかもかなり高価な様だが、流石にスチームバイで運ぶことはできない。こればっかりは明日盗られていないことを祈るしか無いのが現状だ。

 そんなことを考えながら俺はスチームバイを走らせ始める。残念なことに、あまり速度は出せないのだが……。

 括りつけた鱗の重量もあるし、何より俺も尻尾を運んでいるので今は片手運転である。ここは安全運転で行く他無いだろう。

 そんなわけで、俺たちは行きの二倍ほどの時間をかけてようやくネスメアまで帰ってきた。それでも、リトゥアの道案内のお陰で荷物の割に早い到着だ。

 でっかい内蔵やら鱗やらを抱えている俺たちは、町に着くなり人々に奇異の目線を向けられるが今は無視。この視線から早く逃れるためにもさっさと金に変えてしまおう。そう思い、俺たちは、気持ちだけ急いで異界の物品を主に扱っているという商人の元へと向かうのであった。

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