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ゴールドラッシュ・イン・ザ・ビヨンド 9

 途中で薪なんかを拾いながら、俺たちは例の洞窟に到着した。確かに、ちょっとの雨風では崩れなさそうなしっかりとした洞窟である。北側が斜面になっていて、そこを降ったところに小さな湖があるのも好条件だ。

 ビヨンドの知識が豊富なリトゥアがいることもあって寝床の準備はすぐに終わり、今は何となく焚き火を囲んでいるところだ。

 人間は火というものが好きらしく、こうして炎を眺めているだけで何となく心が弾む。それは、ビヨンドの人間でも変わらないのだろうか、焚き火の雰囲気に押されたように、珍しくリトゥアから会話を切り出してきた。

「……ビリーはどうしてビヨンドに来たの? ビヨンドに来る前は何をしてたの?」

 俺は特にこのことをリトゥアに隠そうとは思っていなかったので、素直に話すことにした。

「俺はさ、セルクニカの軍に兵器として育てられたんだよ。生まれた頃から研究所で育てられて、実験中の事故で左腕がフッ飛んだらこんなものまで付けられる。そして、ようやく慣れてきたと思ったら今度は自分たちの言う通りに人を殺してこいだとさ。そんなんで、言われたままに人殺しをする日々だよ」

「……それはいけないことなの?」

 リトゥアは、きょとんと首を傾げて聞いてくる。……やっぱり、コイツは軍に盲目的に従ってた頃の俺と同じだ。何かに従い続けることに一切の疑問を持たない。いや、持てるように育てられていない。

「ああ。何も考えずに誰かに従っているだけなら、それは人じゃなくて兵器や道具だよ。……だから俺は、ビヨンドまで逃げてきたんだ。ここなら、俺は人になれると思ったから。ま、金も後ろ盾も無かったから、ここに来るしか無かったんだがな」

 もちろん、この言葉は俺のことを話しただけでなく、リトゥアへのメッセージでもある。リトゥア、お前は、お前の生きたいように生きていいんだ。そう、伝えたかった。

「話してくれてありがとう、ビリー。……その、何故か、あなたのことが気になったから」

「別に、感謝されるほどのものでもないさ。悪かったな、つまんない話で」

 そう、よくあるつまらない話だ。家出して、金も無くなって、ビヨンドに流れ着く。だと言うのに、いざ長々と語ってみると色々な感情が湧き上がってくる。そんな勢いに流されるまま、俺ももう(・・)一歩リトゥアへ踏み込んでみることにした。少しだけ、ここまで触れていいものかと躊躇う気持ちが無いわけではないが、これからも付き合っていくなら、いつか必要な儀式だろう。

「……リトゥア、お前は本土人を襲い始める前はどうしてたんだ?ああ、嫌なら言わなくてもいい」

 俺は、なるべく無理矢理にならないようにリトゥアに聞いた。リトゥアは、少し目を伏せると、やがてゆっくりと俺の問いに答えだす。

「故郷の集落にいたわ。親は二人とも死んでいたけど、私はいつか神と会うために必要だからと言われて部族の皆に育てられた。私は神の子リトゥアなのだから、ただ生き続けて、いつか神と会うことが私の価値だと教えられていた。しばらくして、故郷を離れて本土人を襲うように神が望んだから、それに従った。……大したことのない、ビリーよりつまらない話よ」

「……お前はさ、閉じ込められたり、人殺しをさせられたり、辛くはなかったのか?」

「別に。最初は外に出たいと思ったし、反発もしたわ。でも、それが私の天命だとずっと言われ続けていくうちに、気にならなくなっていった。それだけじゃなくて、途端に色々なものがどうでもよくなってきた」

 リトゥアは炎から視線を外さないまま相変わらず表情を変えずに静かに語る。

 そして、この話こそが彼女の表情を固まらせ、生死にすら関心を持てなくなってしまった原因だろう。要するに、心が死んでいるのだ。研究所で人殺しをしていた頃の自分を見ているように感じる。俺たちはきっと……、似たもの同士なのだろう。

「……でも、一つだけ忘れられなかった思い出がある」

「どんな?」

「私は、神の声を聞いたことがあるわ」

 リトゥアは一拍の間を置いてから話を続ける。語り始めたリトゥアの瞳が輝いて見えるのは、きっと炎のせいでは無いだろう。

「私がまだ屋敷にいた頃……、まだ屋敷から出たがっていた頃。一度だけ、一部の村の人が私を外に連れ出してくれたの。その時、私は自殺すら考えていたから、私の面倒をよく見てくれたあの人たちは見るに見かねたのかも。そして、外に出た私が村の湖で水浴びをしていたら、その声は聞こえたわ。透き通るような、この世のものとは思えないような綺麗な声で語りかけてきた。そして、あの方は私に生きろと言ったわ。今は生きているだけで、私には私だけの価値があると。それから、私は自死を考えなくなったわ。私はこの時の声だけは何があっても忘れられない」

「そうか……。それは、忘れられない思い出になるだろうな」

 もしかしたら、リトゥアが今こうして生きているのは、その神のおかげなのかもしれない。

 そう考えると、やはりリトゥアに生きているだけで価値があるといった神と、リトゥアを人殺しと金儲けの道具に使った神が同じであるようには思えない。俺は、神の言葉すら利用している使っている人間の思惑をどこかに感じた。

 だが、それは今リトゥアに伝えるべき話ではないだろう。それまで彼女の見てきた世界を破壊することになるかもしれない内容だ。慎重に行動するに越したことはない。

「話してくれてありがとうな、リトゥア。今夜はもう寝よう。人払いと野獣避け、助かったよ。おかげで俺も寝れる」

「……あなたは私に感謝ばかりするのね」

「それだけ役に立ってるんだ。堂々と威張っとけ。おやすみ」

 そう言って、俺はわざとらしく横になる。少しして、リトゥアもそれに続いたようだ。

 俺は眠りに就きながら今日のことを思い返す。異界を旅し、そこでリトゥアと出会い、気がつけば俺たちは共に旅をしている。全くもって荒唐無稽。落ち着きないことこの上ない。

 けれど、その破天荒さこそを嬉しく思った。だって、

「これが自由だ……」


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