偽物聖女に無実の罪を被せられた聖女は神様に愛されていたらしい
感想をいただき、一部修正させていただきました。
タグに関しましてもざまぁ要素は今回無かったなと思い変更させていただきました。
更に追記:「カミサマたちはマイペースな聖女が大事」、続編的なものを書かせていただきました
龍神さまとの思い出メインになりましたが、一応ざまぁ要素ありです。(ただ三分の二位は思い出話ですしざまぁ要素は薄めです)
それでもよろしければ是非ご覧ください。
更に追加追記:内容の若干の追加しました、追加といっても微々たるものなので内容に大きな変更はございません
「おやおかえり、レイラ。パーティはずいぶん早く終わったんだね」
「お父さん、ただいま。つかれたー……あ、そうだ」
「ん?」
「あの王子に婚約破棄されたから、王様に報告よろしくねー」
「うんわかったよ…………んぇぇぇぇ!?」
話は少し前に遡る
「レイラ・セシルフォード!お前はアリシアに度重なる嫌がらせや言葉の暴力などを行った!もう耐えられない!僕はお前との婚約を破棄し、ここにいる……聖女アリシアを婚約者とする!」
「レイラさん、私、もう耐えられないのです。聖女として……あなたを告口するようなこと、したくなかったのですけど」
「あ、はいそうですかわかりました、じゃあもう帰っていいですよねいいですよね帰りますそれでは皆様ごきげんよう」
王宮で開かれたとあるパーティにて、第二王子であるカロル・ティタニアのその宣言にパーティは喧騒に包まれた。
幾ら王子といえど、パーティの真っ最中に婚約破棄の宣言をするなど非常識である上に、代わりに婚約者とすると宣言したアリシアは男爵令嬢、一方レイラは公爵令嬢。
更にアリシアにレイラがしたと言った嫌がらせや言葉の暴力云々もアリシアが一方的に言っているだけの証拠のないものである。
それでも誰も何も言わないのは、勿論カロルが王子であるとかそんなものもあるのだが、件のアリシアが聖女だと宣言したからだ。
聖女とはこの国における精霊や神獣との橋渡しをし、魔力の歪みを正常にする者を意味する。
しかし此度の聖女が誰なのかは誰も知らず、知っているのは王と女王その本人のみだった。
……しかし、肝心の婚約破棄を言われたレイラは全く気にもとめず寧ろ口実を得たと言わんばかりに平然とパーティ会場を後にした。
色々と、どうかと思う。
「そんな事があった訳で、別に婚約したかった訳でもないし王様達に言われたからしただけなんだしあの人好きだった訳でもないけど、あんな場所で堂々言うのってどう思う?常識的にないわー。あと、国が隠してるんだから何かあるってわかってないのか知らないけどあんな所で聖女発表する?ないわー」
「いや、いやいやいやいや!ほんとそれな!どう思うミッシェル!」
「えぇ、あなた。これは王様達に即座に抗議ですよ。王様達がどうしてもっていうから婚約を結んだというのに堂々と浮気してた宣言の上に人前の婚約破棄でレイラを辱めるなど……」
「そうだよね!!ていうか第二王子も馬鹿じゃないのかな!?なんで国が隠してる聖女発表するの!?しかもニセモノだし!」
さて、ここで一つ種明かしを
「だよねー、でも俺達からすればよかったけどね。だってさぁ、俺たちの大事な大事なレイがあーんな浮気やろうの妻にならなくて済んだしー」
「ていうかサ、あんなのが聖女トカ……うけルー。あんな馬鹿に務まる訳ないジャン!どーせ自分が目立てるとかの理由で嘘ついたんデショ」
「うそつき、びっちおんな、くびはねちょきーん!」
「あばずれ、うわきおとこ、くびおちてごろーん!」
レイラの家で、レイラと彼女の両親、更に加えて例えば龍のようなツノを持つ着物の青年だったり、腕が羽のハーピィのような姿の女だったり、手をつなぐ精霊の幼い姿の双子だったり、たくさんの、つまりは、人ではない彼ら。
それらは神獣だったり、精霊だったり、皆が皆口を揃えて第二王子やその取り巻き、そしてアリシアに対して中々に物騒な発言も含みながら嫌そうに顔を歪め、レイラを心配するような慈しむような言葉を紡いだ。
……つまりは、そんな、レイラこそが希代の聖女、どの聖女よりもその力が強く、誰よりも神獣たちに愛されている聖女。
安直な言葉ではあるが___どの聖女も成し遂げれなかった神獣たちといわば簡単にいって仕舞えば「仲良くなる」事を果たした聖女である。
此度の聖女が公表されなかったのも此れが原因であり、今まで聖女はただ魔力の歪みを直し、そして神獣達は良くも悪くもカミサマらしく人間に深く関わらない認識であったのに、その神獣たちと“仲良くなった”と知れば聖女を利用しようとしたり、神獣達の恩恵をこれ以上受けようとする連中が出てくるに決まっている。
「くびはねちょきーん!」
「くびおちごろーんっ!」
「何言ってんのさ、うちの大事な大事なレイラを侮辱したんだから簡単に死なせずじっくりと苦しめる方がよくない?」
「おー!てんさいてんさい!」
「おー!それいいそれいい!」
きゃいきゃいと無邪気にどうする?どうする?と話す双子のその話の内容は彼らに対する報復で真っ黒である。
と、その時屋敷のチャイムが鳴り響いてほぼ10秒も立っていないであろうに、雪崩れ込む用に部屋に飛び込んできたのはこの国の第一王子トール・ティタニア。
その勢いのまま流れるように土下座した。
「もうっしわけ、ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ!この度はうちの愚弟がレイラマジすまんごめん申し訳ない!神獣様方におきましてもあのアホが聖女とか言いやがってあのあばずれ前に処分しときゃよかった本当に申し訳ありませんでした!!!」
テンパりすぎて何を言いたいのかさっぱりであるがともかく床に打ち付ける勢いで謝罪を繰り返すトールは、弟のカロルと違って常識人である。
前々からアリシアにのめり込んで王族らしからぬ醜態を見せていた弟が今度は国賓なども招かれていたパーティでしでかしやがった、と醜態失態をしたらすぐ伝えるようカロルに付けておいた使用人から聞いたトールは即座に王と女王に報告流れように馬車を限界速度まで走らせセシルフォード家にやってきたのだ。
「誠に誠に申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!現在此方で誤った情報は全て訂正しておりますあのボケ供聖女が実際どんだけ大変かしらねぇからあんな馬鹿起こせるんだよお前らが乳繰り合ってる間もレイラはこの国のために働いてたんだよまぁ貴族の一部の節穴どもと違って民衆の方はレイラがいじめまがいなことやったとかあのあばずれが聖女とか信じてなかったみたいですぐに火消しは出来ましたが」
「まぁそれもそうだよねー、レイラ、民衆から慕われてるし。逆にあの女は民衆馬鹿にし切って上から目線ひどかったし。そりゃあ度々寄付とか支援とかしてくれて同じ目線で接してくれるレイラの方信じるよねー」
「ほんと我が弟ながら情けないあの女何人の男と関係持ってるかも知らないで逆ハー一員に成り下がるわ王族としての振る舞いも元々できてなかったが更に悪くなって父や母がその度に謝罪していること知らないで……!!」
「だめなおとこー!ばかのぐしゃー!」
「だめなおんなー!おはなばたけー!」
「婚約破棄を叩きつけるという醜態すらも犯しましたがそちらの方も此方で訂正させていただきますあのアホは確実に王位継承もあり得ないでしょう。恐らくは勘当の後牢獄コース一択ですねざまぁみろ婚約の方も此方が無理に通したような形でありましたのに誠にすいません申し訳ありませんでした」
先程から丁寧な言葉に隠しきれない愚弟達への文句がつらつらとある。
婚約破棄の方は寧ろレイラとしても願ったり叶ったりだったので(だって最初から態度悪かったし婚約者いるのに目の前で他の女の逆ハー要員になって乳繰り合ってるの見せられてしかも証拠のない事であのパーティの前も何度か喧しかったしたまに暴力すらも振るおうとしてたし)それは良かったのだけど。
実の所、兄であるトールはレイラのことを知っていたのに、肝心のカロルが知らなかったのもこれが一因である、だって国家機密簡単に外に漏らしそうだったし実際(虚偽だけど)簡単にバラしたし。
少しでも自分を顧みれば教えることになっていたのだけれど、カロルが聖女の事を知るのは最悪の状況での中になりそうだ。
「頭上げてくださいトール様、私ほんと、気にしてませんから。いやまぁ、あの人達は断罪して然るべきですけどね。私に対する嫌がらせとかだけならまだしも、聖女の存在を偽ったり、その存在を独断で公表するのはやってはいけない事ですし……あの人達、在学中何の罪もない生徒を何人か陥れたり暴力だったりしていましたから、流石にあの学校にそのまま置いては置けませんよ」
「はい、勿論です」
「あー…………あとはー……国王様達とお父さん達が話し合って決めてください。正直、もう色々どーでもいいんで。聖女公表とかも、もうそこらへん勝手に決めてください。もうどーーーーでもいいんで」
「レイラちゃん!!?どうしたのなんか一気にやさぐれて!!お父さんの目を見てごらん!?どうしたのなんか目が荒んでるよ!!?」
「眠たい、もうそろそろどうでもいい」
「それもそうだよね!!レイラちゃん疲れてるよね!好きでもないパーティにドレス着ていったらどーーーでもいいことに巻き込まれて、眠たいよね!」
「レイラ、本当にすまなかった。後日また、話をさせてほしい。……その、婚約の方に関しても、色々と、あるんだ」
その、あの、うん。と先程までの饒舌が嘘のようにもどるトールに欠伸をしながらうん、と頷きかえした。
「レイラ、おやすみ。いい夢を」
「おやすみなさいませ」
レイラが部屋を出てしばらく、先程までの空気は一変。
笑っているはずなのに、笑っていない龍神様。
真顔でケタケタと笑う、空神様。
手を繋ぎあってぶつぶつと何かを唱える精霊の双子さま。
レイラの「おともだち」の精霊や神獣達。
レイラは彼等の大切な大切な「おともだち」であり愛し子である。
本当は、パーティ会場ですらギリギリだったのだ。
レイラを侮辱する言葉を吐き、さらにはあの女が、レイラに今まで悪意を向けてきたあの女が聖女だと?
レイラは聖女だ、今までの聖女の中で最も力の強い。
だがそれだけで、誇り高き彼等がここまでのめり込むわけではない。
かつての龍神は国の守り神であったものの人間自体あまり好きではなかった、寧ろ、嫌っていた。
それはかつて、人間によってつけられた傷。
傷ついた龍神の元へどれほど傷つこうが死にかけようがへらへら笑って世間話をしに来るばかにいつの間にかほだされていた。
何故来るのかと問えば馬鹿正直に「一人じゃ暇でしょ?私も一人だからお話し相手になってほしいから」と言って。
かつての空神はこの国の守り神であったものの人間が理解できなかった。
理解したくて近寄っても、帰って来るのは畏敬の念だけ、何かを聞いても曖昧に答えてすぐに逃げてしまう。
触れば簡単に壊れてしまって、簡単に畏敬は恐れに変わった。
たった一人だけ、此方を敬いながらも、打てば響くように聞けば教えてくれて、怪我をさせても治療と手加減を教えてくれて、隣を歩いてくれる女の子がとてもすきになった。
かつての精霊の双子はこの国の守護精霊であったが、人間が怖かった。
優しい人間はその裏で何か怖いことを考えているし、怖い人間はその裏で優しいことをしているし、矛盾し切って怖かった。
まだ力が弱い子供の頃、笑顔で精霊の羽を捥ごうとする人間をあっさりと撃退して助けてくれた人間に興味を持った。
関われば関わるほど馬鹿みたいに正直で、こんな人間もいるんだと理解を改めた。
命がけで体当たりして彼等と仲良くなったレイラがしてきたことを知っている。
魔力の歪みを正しくするのがどれ程体に負荷がかかるかも、年に何度も国の都市を回って孤児院などに資金を援助したりしていることも、それを理由に自分の学業やらを疎かにしなかったことも!!
だから、ゆるせない!!許すわけがなかった
レイラがいたから抑えていた、でも、やっぱり、ゆるせない!
姿勢を整えたトールはゆっくり頭を下げる。
「神獣様、恐れ多くも意見を述べさせてくださいませ。何も知らない民たちに被害が被らないようお願いいたしたく」
「わかってるっテ、それにサ、そんなことしたらレイラ怒っちゃウ」
「しんぞーにくぎうち?ししもぎとって!」
「のこぎりきりおとし?めだまくりぬき!」
「さぁて……あの子らに教えてやらなきゃね。誰を相手にしたのか、誰の愛し子に手を出したのか」
開けてはいけない箱を、彼等は開いたのだ。
パンドラの箱を開いたその代償は?
はたしてそれは、神のみぞ知るところ
決して楽に終われると思うな?