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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ぼくのショーコ

作者: 澤田慎梧

これは、純愛の話。

   #1.小学生時代


 僕がショーコに初めて出会ったのは、小学校五年生のクラス替えの時だった。

 ショーコはとにかくおとなしい子だった。髪型も地味、服装も地味、眼鏡も地味、でも容姿は決して悪くない――どころかむしろ可愛い部類に入るはずなのに、とっても内気で人の輪に上手く入れず、いつもうつむいているような少女だった。友達らしい友達はいないようで、いつも一人、静かにたたずんでいた。


 ひと目見たその時から、僕はショーコのことが気になってしょうがなかった。もしかしたら「一目惚れ」というやつだったのかもしれない。一体どこがそんなに僕の琴線きんせんに触れたのか、実は未だによく分かっていない。その淋しげな様子に同情してしまったのか、単純に見た目が好みだったのか、それとも――。


 とにかく、彼女に惹かれて仕方がなかった僕は、彼女との距離を縮めるべく、少しずつ少しずつ、彼女と仲良くなろうと努めた。まずは「おはよう」の挨拶をすることから始めた。当初、彼女から返ってくるのは戸惑いの表情や会釈えしゃくだけだったけど、次第に「おはよう」の言葉が返ってくるようになった。それを見計らって、今度は何かと理由をつけて話しかけ、軽い雑談をしてみたりもした……もちろん、恥ずかしがり屋の彼女が照れてしまわないように、他の人が見ていないところでだけど。


 一学期が終わる前には、僕とショーコは大の仲良しになっていた。「友達」と呼べる関係になったのだ。彼女が恥ずかしがるので、クラスメイトには隠れての付き合いだったけど、僕はそれで十分だった。相変わらず彼女は内気で恥ずかしがり屋だったけれど、次第に僕に対してだけは笑顔をみせてくれるようになっていた。


 僕達の秘密の関係はそれから一年以上続き、僕達は六年生になっていた。僕はそろそろ、ショーコとの関係を「友達以上」のものにしたいと思い始めていた。


 ある日、意を決して彼女を自宅へと誘ってみた。彼女はひどく恥ずかしがって、「家の人にうまく挨拶できるかわからない」と言って、最初は断ろうとした。でも、僕が「家には誰もいないから」と言うと、今度は顔を真赤にして俯いてしまった。……でも、しばらくして、小さくコクンと頷いてくれた。


 ――僕は一生忘れないだろう。初めて人を愛する喜びを知った、この日のことを。




   #2.中学生時代


 中学時代のショーコは、小学生の時のショーコとは違い、少しだけ社交的だった。友達の数は決して多くはないものの、孤独ではなく、「僕の助けはいらなそうだ」と僕は一抹の寂しさを覚えたものだった。


 自然、僕は遠くからショーコに見守るような視線を送ることが多くなったけれど、日に日に女性らしく成長していく彼女の容姿――特にその肢体に、ドキッとさせられる機会が増えていった。ああ、たとえ小学生の時とは違う彼女であっても、やっぱり僕は彼女に惹かれてしまうのだ。


 ――折を見て彼女を自宅に誘おう。父さんは仕事で殆ど家にいないから、二人きりになれるチャンスは山ほどあるんだ。何も焦ることはない。




   #3.高校時代


 高校時代のショーコは、吹奏楽部に入りフルートに夢中になっていた。部活仲間にも恵まれ、毎日充実した日々を送る――そんなショーコに、僕は少し引け目を感じたけれども、彼女への愛は変わらない。


 父さんが母さんを愛したように、僕も、ショーコを愛し続けるだけだ。




   #4.大学時代


 大学時代のショーコは、髪の色も明るくしていて、社交的というよりは少し羽目を外し過ぎなように見え、僕は心配でたまらなかった。


 その心配は見事に的中した。ショーコが、同じサークルの先輩と過ちを犯したのだ。その先輩は女の子達には人気があったが、男子の中では「女たらし」で有名な人だった。僕は度々、ショーコに気を付けるように言ったのだが、それが逆効果だったらしい。「他人のことを悪く言う人」というレッテルを貼られた僕は、ショーコから距離を置かれてしまったのだ。


 ショーコが先輩と過ちを犯して程なく、先輩が二股も三股もかけていたことがサークルの皆の知る所となった。ショーコは、その時になってようやく僕の話に耳を傾けるようになり、涙ながらに僕に「ごめんなさい」と謝ってきた。


 たとえ、ショーコが過ちを犯そうとも、僕の彼女への愛は変わらない。彼女の心の傷が和らぐのを待って、自宅へと誘おう。彼女を愛してあげなければ……。







   #5.ある日のニュース


 ――次のニュースです。K県F市郊外の住宅の庭から、行方不明だった女子大学生・遠山翔子(しょうこ)さん(19)の遺体が見つかった事件で、続報です。

 地元警察によると、同じ住宅の庭から、新たに十代から二十代と思われる女性の白骨化した遺体が、複数発見されたとのことです。遺留品などから、警察では、これらの遺体の一部は同市内で八年前から行方不明になっていた新田祥子(しょうこ)さん(当時11歳)、同じく六年前から行方不明になっている高橋紹子(しょうこ)さん(当時13歳)、三年前から行方不明になっている唐沢硝子(しょうこ)さん(当時16歳)のものである可能性が高いとして、裏付け捜査を進めています。


 K県警は、事件の重要な被疑者として、この住宅に住む、遠山さんと同じ大学に通う少年(19)の身柄を確保し、任意の上で事情聴取を行っています。

 また、最も古い遺体は十年以上前のものと見られ、歯の治療痕などから身元の確認を進めていますが、警察では十五年前に行方不明となった少年の母・章子(しょうこ)さん(当時28歳)のものではないかと見て、少年の父親から事情を聞いています――。






   エピローグ.あるいは或る少年の原風景


 そのひは、おとうさんといっしょに、にわにおおきなあなをほりました。


 おとうさんは、ほったあなのなかにおかあさんをねかせると、おかあさんがさむくないようにと、うえからつちをかけはじめました。


「どうしておかあさんをうめるの?」


 ふしぎにおもって、ぼくがたずねると、


「お父さんはね、お母さんのことを愛しているんだ。どこにも行ってほしくないし、誰にも会わせたくないんだ。とってもとっても大切なんだ。――だからね、お母さんがどこかに行ってしまわないように、誰にも見つからないように埋めてしまうんだよ」


 にっこりわらいながら、おとうさんがこたえました。


 「じゃあだれにもしゃべっちゃだめなんだね、みつかっちゃうから」とぼくがいうと、おとうさんはぼくのあたまをなでで「いい子だ、一緒にショーコを――お母さんを守ろうな」といってほめてくれました。


 ぼくは、そんなおとうさんがだいすきです。


 おとなになったらぼくも、おかあさんみたいなすてきなショーコをみつけて、あいしてあげたいとおもいました――。




(了)

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