第三話 説明とスキル『捕食変身』
渡された剣道着に良く似たものを着て、扉から出る。
しっかしデカい家だなーこの大きさは豪邸の中に入ると思う。
全部木造で洋風というあまり日本では見ない組み合わせだが、
雪のように白い木で作られた調度品がいくつか並んでいるのを見ると、
やはりここは異世界なのだなと認識する。
前世でここまで白い木を見たことがないしね。
というか若干発光してないか?この木。
「その木はね、白樹神さまが創り出した木なのよ。ここの名産品ね」
「これがヤドリギなんですか?」
「ん?ああ、街の名前から考えたのね。違うわ、この木は浄化樹って名前。置いてあるだけで周りを綺麗にしたり、邪素……取り込むだけで魂が壊れて気が狂う悪い物質、それを消してくれるのよ。」
「そんな恐ろしい物質があるんですか……」
「まあここは世界樹だし、ほとんど邪素はないんだけどね」
そんなヤバい病原菌があるとか異世界こえーな、
浄化樹のお守りとか作ってないか?
ありそうだな。
「着いた、マナーとかは別に気にしなくても良いからね、産まれたばかりなんだしわからないでしょ?」
「あー……はい」
メニュー魔法使って知識得ればできそうだけれど、
確実に情報量が莫大だよな、
食事のマナーとか色々あるし。だよな?
『情報量が多いため、食事のマナーに関する情報をインストールする場合意識がなくなる恐れがあります。』
意識飛ぶのか、寝る前にやっとこう。
まずこのメニュー魔法が他の人にもあるのかわからねーし、
もしかしたら前世のラノベで見たチートとやらかもしれない。
『メニュー魔法はほぼ全ての人にインストールされています。普及していないのは無毛猿人と魔物、あとは知性のない動物のみです』
そりゃ街の名前教えてもないのに言っても驚かない訳だ。
自分で調べたって思うもんな。
しかし無毛猿人って人間だよな?
人間の地位低くないか?
『知識インストールを開始しますか?』
まあ、後でだな。もう席に着いちゃったしな。
俺の前に座っている自分に良く似た……目の色だけは少し違うな、
俺は透き通るような空色だが、
あっちは煌めく蒼だ。
多分この人が父親なのだろう。
本能がそう囁く。
「あー……調子はどうだ?封印のせいで頭が痛かったりしないか?」
封印?何が封印されてるのかは知らないが、
なぜか気にならない
まあいいや。
「はい、大丈夫です」
「そうか、なら良かった……さて、それでは食事にしよう」
父親を見本にして食事を摂る。
白い手袋を着けて、白く輝くナイフとフォーク……これ浄化樹か?
こんなとこにまで使われてるのか。
まあそれを見様見真似で使う。
甲殻が異常に厚くなったヘンテコロブスターにナイフが触れる。
甲殻が白い粒子を放出しながら消える。
なんだこれすげー
「それはナイフの刀身で甲殻を削って中身を出すのよ、ほら!」
「そんなところで削れるんですか!?」
「あぁ、勇者の世界には浄化すら無いのだったな。このナイフが放っている光があるだろう?これが自らが異物であると思ったものを消す力がある」
「ナイフの光に触れたら自分の体も削れるんですか?」
「削れると思うぞ?だから同じ色の手袋をして保護するのだよ」
「同じ色?この手袋が特別なのではなく?」
「まあ、そんなことは後でいいじゃないの。自己紹介もまだなのだし早くしましょう?」
勇者の世界とか色々と聞きたいことがあるのだが、
それはメニュー魔法に聞けばいいしな、
うん。
「うむ、まずは私からいこう。
私はお前の父親となるシアスヴァンドだ。転生者であるお前からすると父親とは思えないとは思うが……すまんな」
「いえ、前世の家族は何も思い出せませんし、ちゃんと父親だと思っていますよ」
これは本当だ、何も思い出せないし、それでいい。
それに刷り込みのような気もするが、
本能がこの人が親だと認識している。
簡単だと思うがそれでいい、いいのだ。
この世界の家族はこの人達しかいないのだから。
「……そう、か。やはり私は封印が気に入らんな……」
「次は私ね、予想はついてると思うけど、私はあなたの母親。短い間だけれど甘えていいのよ?」
「名前を言っとらんぞ」
「メニューに聞けばわかるじゃないの、まあいいわ。シーフェルルよ」
「はい、よろしくお願いします。母さん」
「自分の名前は聞いたか?」
「はい、シーヴェルドですよね?」
「ああ、そうだ。それと敬語はいらんぞ」
「私はどちらでも構わないわ」
「はい、わかり……分かった」
緩い母に色々考えてる父、二人でバランスをとっているのだろうか。
取り敢えず怖い父親じゃなくて良かった。
「さて食事を再開しようか」
そういえば一口もつけていなかった、
甲殻削っただけで食べてない。
ロブスターっぽいのをフォークで抑え、ナイフで切る。
いざ、実食。
パクッ『スキル発動条件を満たしました。変身します』
口の中でジュワッと広がる海老の旨味。
一口一口噛みしめるごとにまさに身体が作り変わっていくような。
飲み込む。
その瞬間、五臓六腑に沁み渡るがごとく全身が痺れたような感覚に陥った。
美味い。もう一口だ。
カチャーン
「おいヴェルド?!どうなってる!」
はい?なんでそんなに驚いているのか理解不能状態。
というかなんか身体の感覚がヤバい、
足が増えたみたいな感覚がするし、
指の感覚が一部ない。
毒でも入ってたのかな?
目も開かないしまたですか?
「ヴェルくんドラゴロブスターになっちゃったねぇ」
「笑い事ではないぞ!どうすればいい……?」
母さんのかなり大きい笑い声が聞こえる。どゆこと?
ロブスターになったの?俺?
『はい、現在ユーザーの身体はスキル『捕食変身』によってドラゴロブスター……つい先ほど食べたロブスターの姿となっています』
…………はぁああああぁああ?!!
訳がわからん!なんだそれ!本当なんだそれは!
「そうだ、時間を戻せばいい!【黒よ!概念を司り全てを覆う黒よ!汝時を遡りて、元ある真の姿へ回帰せよ!】」
詠唱っぽいのが聞こえた後、
身体が膨張する感覚に襲われる。
造影剤を入れられて頭が暑くなるような感じだ。
そして、
「おい、ヴェルド、大、丈夫、か?」
身体が元に戻った。
しかし父さんが脂汗ながして青い顔になっている。
そっちの方が大丈夫?と言いたい
「ああ、うん、もう大丈夫。……父さんは?」
「なあに、少々、魔力が切れただけだ。もう少しすれば治る」
「黒色持ってないのに時魔法なんか使うからそうなるのよ、メイドに頼めば良かったのに」
「ああ、そうか、そうだったな……」
コンコン
「旦那様?大丈夫ですか?」
「あー……入ってこい!」
メイドさんが入ってきた。
エルフみたいに耳が尖っていて、
黒い闇を薄く纏い、無を思わせる漆黒の瞳、
黒く長い髪に、黒い肌。
コウモリのような翼も見える。
まさに真っ黒という言葉が似合うだろう。
「あら大変。すぐに片付けますね」
言うが早いか足元に散らばった食器や食事が消え去る。
魔法なのだろうか?
「それとヴェルドも見てやってくれ、慣れない魔法を使ってしまったのでな」
「わかりました」
黒メイドさんが手に触れる。
「失礼します……大丈夫そうですよ」
「そうか、ならいい」
「心配性よねぇ」
何されたかわからないけど大丈夫らしい、
『時魔法によって歴史を確認しました』
歴史の確認ね……
下手に戻すとタイムパラドックスでも起きるのかな?
『一時的に身体の反応が悪くなる程度の影響しかありません』
予想に比べてショボいな、副作用。
#邪素
取り込むと魂が蝕まれ、精神が崩壊する危険な物質。
時間と共に少しづつ抜けては行くし、
聖素と呼ばれる物質を取り入れることで浄化できるが、
物にもくっついて、浄化しなければ残り続け、周りに被害を及ぼすのは放射線という例えが最も近いのだろう。
可視化した場合は、怖気の走る泥のような灰色と例えられる。