第二話 目覚め
『……精神年齢と身体の同期が完了しました。『自動思考』を停止、『並列自動思考』を30%の出力で維持、精神耐性を回復......完了しました。ユーザーの意識を回復させます。』
知らない天井だ、
『知識インストール開始、完了しました。』
自分の家の天井らしい、
第三世界樹、首都『ヤドリギ』とか知らねーよ、
まあそれはいい。
まずは目が開いた、良かった。
音……スズメの鳴き声っぽいのが聞こえるし、
焼いた肉の美味そうな匂いがする。
起きる前のあの訳の分からん状況は夢だったんだ。
うん。
でも身体の感覚がおかしいな、手がモフモフしてる、もふもふ?
「俺の手が犬みてーになってやがる!?」
いやいやいやなんでだ、
やっぱマジで人体実験でもされてたのか?
つーか音の聞こえる位置も若干おかしいし、
尻から何か生えてる。
尻尾かこれ?
『ユーザー、貴方は『黄猿無毛人』から、虎獣人、正式名称『下級雷虎獣人』へと転生しています。ユーザーの姿を視覚に投影しますか?』
あー転生か、そうだったな、
というか夢じゃなかったんだな、怖かった。
つーか日本人の分類酷くね?
イエローモンキーと言うにしても毛の無い猿って。
『ユーザーの姿を視覚に投影しますか?』
あっはい、すみません。
『……』
反応してくれよ、悪意はないのだとわかるが、
それでこれが俺の姿か、
人型の虎だな。
詳しく言うと、顔は人の顔でかなりの美形。前世の3倍以上は美形だと思う。覚えてないけど。
んで目は透き通るような空色、髪は輝かんばかりの金髪で、というか発光してる。
その中には新雪のような白いメッシュがいくつか入っていて、長めのウルフカットというのだろうか?
軽く跳ねててモフモフしてる。
自分で触ってて気持ちいいなこれ。
そしてその上には虎耳、虎耳状斑……耳の裏に黒地で白い一点がある模様なのだが、
それが白地に黄色の点になっている。
やはりこれもモフモフしている。
この二点から分かるように腕と足に生えてる毛も黒がない。
白と黄色の二色で統一されている。
そして手の平を除いて肘まであり鋭い爪がある。
指はちゃんと人間の指の長さだ。
足の毛は足先からいつもならあるはずのエクスカリバーが生えていない股間あたりを除いて尻まで生えている。
そして足裏には肉球がついている。プニプニだ。
ん?いや待て、俺のエクスカリバーどこ行った?
女に転生したのか!?
い、いや転生したんだ、してしまったのだ。
これからは心機一転、女として、
『現在不必要である為、生殖器は生成しておりません。現在、ユーザーの性別は男です。必要であれば性別を変更しますが?』
「男のままでいい!!」
『……』
危なかった、あと少しで女にされるところだった。
というかエクスカリバーいるよ、どうせならエクスカリバー改くらいにして返してくれよ。
『破壊された際に激痛が走るためオススメできません。そして『黄猿無毛人』の基準からすると聖剣ではなく、短剣が正しいかと思われます』
……そこまではっきり言わなくてもいいんじゃないかなぁ!?
しかしぶっ壊される場面があるのか……こえーな
色々と考えているうちに虎耳が足音を捉えた。
そして漂う優しく、包み込まれるような安心する匂い。
リーン、リーン
鈴の音を伸ばしたような音が木の扉から響く。
そういえば俺素っ裸じゃねーか!生えてないし虎だからいいのか?
いや、ダメだろ人として。
さすがに下半身丸出しはマズイよなぁ。
「また寝たのかしら?入るわよ〜?」
扉が軋む、もう入ってくる、ヤバい。
「待て!待って!服着てないから待って!」
待ってと言ったのに入ってきた。
自分に良く似ているがふんわりとしていて、手と顔以外がほとんど見えないワンピースをきた女性だ。
自分よりも毛がかなり少ない。
おそらくこの人は俺の母親なのだろう。
見た目似てるし、本能がそうだよと言っている。
「その程度で騒がないの、生まれたばかりだけれど雷虎でしょう?上位種族の名に恥じないようにしなくちゃ、ね?」
知らんがなといいたい、現に知らないし
『知識インストール開始、完了しました』
……いつ発動するかわかんねーな
『メニュー魔法に関する全知識のインストール開始……完了しました』
知りたいと思ったら発動するらしい。
軽い知識の時は警告しないようにしとこう。
「ヴェルド?どうしたの?」
「あ、いえ、それが俺の名前ですか?」
「ええ、シーヴェルド、シガルニー・サーグ・シーヴェルドそれがあなたの名前よ」
最後のシーヴェルドが名前なのか……ん?
系譜名、領地、名前という順番らしい。
系譜名ってなんだよ。
『情報量が多いです。インストールしますか?』
多いなら後でいいや。
「もう良い?それじゃあ行きましょうか」
「えーっと、どこへですか?」
「食事よ、食事、お腹減ってるでしょう?そこで色々と説明するから」
言われてみれば凄くお腹が減っている。
それこそ減りすぎて痛いくらいだ。
グゥゥー
「急かさなくても、もうできてるわ」
クスクスと笑われてしまった。
前世でもここまでお腹が減ったことはなかったと思う。
全く覚えてないけど、多分なかった。
「あ、そうだ。来る前にこの服を着ておきなさいな」
「え?わぁああ!?忘れてた!?」
「騒がしい子ねぇ」とまたクスクスと笑われてしまっている、半分くらいメニュー魔法のせいだと思う。
母親の手のあたりが一瞬白く発光し、黄色と白で彩られた剣道着に良く似た服が現れた。
……どうやったんだ?
#転生者について
この世界ではほぼ全ての人間が前世の記憶を薄っすらとであるが持っている。
しかし、地球人の魂は邪素に蝕まれておらず、輪廻時の浄化に記憶が巻き込まれない。
その上、魔力にも触れていない無垢な魂であるため、
転生時に必要とされる力が全くと言っていいほど消費されず、その力が転生ギフトとなって現れる。
そのギフトの力はどのような力であったとしても強大であり、つまりは危険とされる。
そして前世の記憶があるとチートだ、ハーレムだなんやと言って世界をかき乱したり、
この世界は夢なんだと言っては暴れたり、
日本に帰るんだといってはまた暴れる。
しかも転生ギフトのせいで力があるのがタチの悪さを膨らませている。
なので地球の転生者であると認識された場合、
直ちに前世の記憶の封印、洗脳が義務付けられている。
しかも地球の転生者は2000人に1人。かなり多いのだ。
勇者の世界と呼ばれている理由はまた次の機会に。