始まり
「今日はもう上がって良いぞ、須田」
「あ、はい。
お疲れ様です」
今日も一日、仕事が終わり、早速帰り支度を始める。
俺は須田悠、バイトに勤しむ21歳だ。
将来の夢だとか、やりたい事だとか、漠然とした目標ばかり持って生きてたら、この歳までこの始末さ。
今はバイトをしながら、自分が何をしたいのか、何をやるべきなのかを模索中の身だ。
「あ、それとだ」
帰り支度を整えていると、無精髭が目立つ上司が言い辛そうに口を開く。
「お前、明日から来なくて良いぞ?」
「?」
突然の事だった。
別に何かヘマをしたというわけでもないし、ちゃんと働いているつもりだったんだが。
「お前さ、周りと全然溶け込まないし、なんつーか居るだけで仲間外れにしてるみたいで周りが色々と気を遣うんだよ。
そういうのがいつまでも続くと仕事に響くし、うちらもボランティアじゃないしさ、分かってくれ」
ああ、そういう事か。
確かに、自分の将来やら何やらばかり考えて周りに溶け込む努力をしてこなかった。
それは俺の落ち度に間違いないだろう。
「…分かりました」
収入源が無くなる事、そして『やること』が無くなるという事は大きかったが、ここまで言われてしまっては食い下がる余地もあるまい。
食い下がる暇があるなら、さっさと次の職場でも探した方がマシというものだろう。
そう結論付けると、俺はこの過去の職場を去った。
「…ただいま」
家に帰ると、親が出迎えてくれた。
だが、仕事を辞めたなどと言い辛い事この上ない。
何も告げずに階段を登って二階にある自分の部屋に向かうと、俺の部屋の隣の部屋から妹が出てきたところだった。
「あ…」
綺麗な長い黒髪の美少女。
身内びいきが入っているかも知れないが、とびきり可愛い容姿の少女。
それが俺の妹、須田岐唖だ。
「よう」
不意に顔を合わせた事に対する困惑からか、妹は目を背けてしまう。
妹はいわゆる引き篭もりというやつで、学校に行かずに部屋に篭もって毎日ネットゲームばかりしている毎日だ。
俺がちゃんとした仕事に就かずにバイトばかりしているように、妹もまた問題を抱える子供だったというわけだ。
「…今、帰り?」
「ああ」
「そっか」
そしてとても嬉しそうに笑顔を見せてくれる。
以前は歳相応に兄に反抗し、素直じゃない姿を見せてくれていた妹だったが、今ではこの通りだ。
学校で嫌な事があり、登校しなくなったのだという。
今は、家族が唯一心を許せる相手なのだという。
「そうだ、新しいコスチューム買ったんだ。
兄さん、ちょっと見に来てよ。凄く可愛くなったんだから」
「ああ、分かったよ」
コスチュームとはゲーム内のコスチュームの事だ。




