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ビターチョコレート


琴音とショコラはチョコレート好きという共通点があることで早くも意気投合したようだ。

「どうしたんだ結月?」

いっちゃんが顔を傾けて私の顔を覗き込んでくる。

「いや、どうしたらあんなに早く友達になれるのかなって」

「琴音とショコラか?」

「うん」

私はいっちゃんに気付かれるほど表情に出ていたのだろうか。純粋に琴音のフレンドリーさが羨ましい。

「私ね、琴音がいたから今の自分があると思うんだ」

遥か前方ではショコラに案内されながら、琴音は楽しそうにチョコレートの芳醇な甘みを楽しんでいる。

「今の私って?」

「こうやって友達と一緒にはしゃいだりする私」

「昔は違ったのか?」

こんな話をするのは初めてだと思う。

「うん。小学校の低学年の時とか、休み時間はずっと本読んでたりして、友達はほとんどいなかった。でも、琴音だけは、幼稚園の時からずっと一緒の琴音だけは、私がどれだけ一人になってもずっとそばにいてくれた。」

「そうなんだ」

「それでね、小学三年生の時の社会見学の時、琴音は私をみんなのところまで連れて行って、お昼一緒に食べよって私の代わりに言ってくれたの」

「流石だな」

「うん。それから私は少しずつ友達も増え始めて、休み時間に一人で本を読むことなんてなくなった。琴音は私に皆と一緒にいる幸せを教えてくれたんだ。それでね、私は琴音が羨ましいの。誰とでもすぐに仲良くなれる琴音が。どうしたらあんなふうになれるのかな?」

「そうだな……。やっぱり笑顔じゃないのか。別に結月が笑わないって言ってるわけではないけど。今のあいつ見てみろよ。誰とでもあんなに楽しそうに笑顔でいられる奴ってあいつぐらいじゃん。だからさ、結月もショコラと笑顔で接してみろよ。仲良くなりたいんだろ?」

「うん。ありがとね、いっちゃん。頑張ってみるよ」

私はいっちゃんに感謝しながらショコラと琴音の元へ駆けていく、いっちゃんのアドバイス通り笑顔で。


チョコレートのお城は大きくて、キラキラしてる。

「ねえショコラ。この中には入れるの?」

「入れるみたいなんだけど、僕達お菓子の妖精は身長が足りなくて登っていけないんだ」

ほら。とショコラは壁を指差した。あれ? もしかしたら登れるんじゃないの。

私は無理でも、松村くんとかいっちゃんとかなら身長も高いし、登れそう。

「ねえ、いっちゃん、松村くん。ここ登れる?」

「別に無理ってことはなさそうだけど」

早速二人は壁(と言っても1メートルほどの)を登り始めた。いっちゃんは持ち前の運動神経でひよいっと登り、松村くんもその後に続いた。

「ショコラ、手を伸ばせ」

どうやら上から妖精たちを引き上げるつもりらしい。

「せーの!」




全員が壁を登り、しばらく進むと大きな廊下のような場所に出た。壁づたいに適当に歩いていると階段を見つけたので、お菓子の城の頂上を目指して登っていく。

階段を登るたびに狭くなっていくフロアが私達を期待させていく。この上には何があるのだろう。

もう五回目の階段。私達はそれを登り切ったところで一つの部屋に到着した。それまでの階は窓枠っぽい隙間があって、外の景色が見えていたが、この部屋は密閉された感じで、ただただチョコレートの部屋って感じ。それなのに、この部屋はしっかり明るい。

それは全て部屋の真ん中にあるチョコレートの机のようなものの上から放たれているものだった。

「ショコラ。ここって何?」

「わからない。でもちょっと帰ったほうがいいかもしれない」

「どうして?」

「机の上にあるあれ、見覚えないか?」

「あれ、これって……。もしかしてお菓子の国?」

「そうだと思う」

机の上にはお菓子の国の模型と呼ぶのがふさわしそうなものが乗っている。クッキーの国とかチョコレートの国はもちろん、飴細工の国なんていうのもあるようだ。そして、その模型の真ん中にあるのがこのチョコレートのお城。何か異様なものは感じるけど、それがここにあることをショコラはなぜ恐ろしがっているのか。

「こんなものがあってはいけないんだ」

「ねょショコラ。どういうことなの?」

「モカからも聞いたことがあるだろう、お菓子の妖精は多忙さ故に他の国のことをあまり知らないって。それなのに誰がこんなものを作れるって言うんだよ」

「流石にこれは僕も何か恐ろしいものを感じるよ」

「モカまでそう言うの?」

もう何がなんだかわからない。でも、この模型がこの世界にあってはならないことは感じる。


「それにしても、どうしてこんなものが……」

「おいショコラ。帰るんじゃなかったのかよ」

私達は来た道を引き返そうとしている時だった。モカがショコラが帰ろうとしないことに気づいた。ショコラは模型の前から動こうとせず、お菓子の国の模型を眺め続けている。

「これ触っても大丈夫かな」

「お前は昔から知らないものがあったら興味を示すよな。何でもいいから早く行くぞ」

「ちょっと待てって。この小さいチョコレートのお城を綺麗に飾り付け直してやる」

「余計なことはするなよ」

「何も起こりやしないって」

ショコラはそう言って小さいお城の頂上部分、つまり今私達がいる場所に手をかけた。

パキッ。

「あ、やべえ。壊れた」

本当にその瞬間だった。私達のいる部屋の天井に大きなヒビが入ったと思った時にはもう遅かった。大きな音を立てて崩れ落ちるチョコレートの破片が高い天井から降り注いできて、その下にいたショコラは下敷きになった。私達は階段を降りかけた状態でショコラを待っていたから無事だったけど。

ようやく視界が開けたので私達は無我夢中で破片の山に駆け寄った。

「ショコラ!」


終わり

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