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立ち読み処

好きになってくれてありがとう

作者: 浜月まお


 どうして、と問われても上手く説明できない。

 ただ書きたいから書く。

 ふと気がついた時にはすでに、物語を文章で綴ることは僕の生活の一部になっていた。

 子どもの頃に特別読書が好きだったわけでも、賞をとってプロの小説家になりたいわけでもない。作文力や発想力だって凡庸の域を出たためしがないというのに。


 仕事に行って、一人暮らしに必要な家事をこなして、そして空いた時間の多くをノートパソコンと向き合って費やしている。しかも、ここ何年も、だ。我ながら不思議なことである。

 勤務が三交替制で、週休二日とはいえオフ日が滅多に友達連中と合わない、というのも関係しているかもしれない。

 ツレ達と外へ出て気ままに遊ぶのはもちろん好きだが、一人でアパートにいるのもそれほど悪くないと思うのだ。


 のんびり晴れた窓越しの空、古いテレビに映るお笑い番組。やたらとトーンの高い女子アナ司会者の声を聞き流しながら、僕の頭の中は『アイツ』のことで満たされていた。

 十津川あかり。年齢は十九歳。理学療法士を目指す大学生で、趣味は写真。妙に頑固なところがあり、そそっかしい。背の小さいのが長年のコンプレックス。──いつの間にか僕の脳裏に住み着いた、空想上の娘っ子である。


 僕の創作は、彼女の生活を淡々と書き綴ることに終始している。短編ばかりのオムニバス形式だ。小説を書いているというよりも、『架空の観察記録を読み物という形にまとめている』と表現したほうが感覚的には近い。

 小説の更新は十日に一度がせいぜい。帰宅して飯を食って、シャワーを浴びて、パソコンの電源を入れるのはそれからだから、まあそんなものだろう。


 あかりとはもう十年以上の付き合いになる。小説をネットの世界で公開することを覚えてからは、ときどき見知らぬ他人から感想や励ましをもらったりもして、密かに張り合いが出てきていた。

 昔は僕の頭の中だけにしか存在しなかった空想上の──妄想というのだろうか──娘が、今では他の誰かの中でも生きているのだ。そう思うと、なんだか微妙にむず痒いような気もする。けれど、やっぱり単純に嬉しかった。


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更新おつかれさまです。さっそく読みました。

あかりちゃん災難!

慌ててる様子が目の前に浮かんできて面白かったです(*^v^*)

相変わらず読みやすいあっさりした雰囲気の文章で、不思議な味がありますね。思わずまた読み返しちゃいました。


いつも思うんですが、ホントに実際どこかにいそうですね。リアルあかりちゃん。

大学の構内ですれ違ってそうな気がしちゃうくらい等身大で親しみやすいし、存在感がありますね。

こういう子が近くにいたら、ぜひともお友達になりたいなって思います♪

次の更新楽しみにしてますね!

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 コメント欄の新着書き込みだ。一瞬鼓動が跳ねた後、じんわり胸中に嬉しさがこみ上げてきた。


 ハンドルネーム『茉莉』。彼女(?)は一ヶ月に一度は必ずコメントを書いてくれる。

 ネット小説なんて星の数ほど溢れている世の中で、とりたてて上手いわけでもなんでもない、至って地味な僕の作品を好んでくれるなんて、本当に奇特な人だなぁとか自分でも思ってしまう。波長が合うというのはこういうことなのかもしれない。


 読むだけでなく、コメントを書いてくれる。わざわざ僕にメッセージを送ってくれているのである。「読んだよ。こう思ったよ。次はどうなるのかな。更新がんばってね」。

 何気ない文章でも、それを発信するのには時間と労力がかかる。僕にはそれが分かる。よく分かるのだ。


 だから、コメント返信の出だしはいつもこうだ。他の言葉は思い浮かばない。

 心からの感謝を込めて、キーボードに指を滑らせる。


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茉莉さん、どうもありがとうございます。……



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