最終夜
鬼の慟哭が続く中、鬼はふと違和感を感じた。
(頬を何かが伝っている・・・・・・?)
(自分の気づかぬ間に、雨でも降り出したのだろうか?)
そう思い、鬼が空を見上げてみても空には星が輝くばかりであった。
(この冷たいものは、何だろう?)
鬼は、自分の身に何が起こったのか分からないでいた。
鬼の頬に伝うもの、それは「涙」だった。
しかし、本来涙を流さない鬼はこの存在を知らない。
己の体が壊れてしまったと、無力な自分に罰が下ったのだと、
鬼はそう考え、鬼でも人でもなくなってしまった自分が情けなくて仕方なかった。
結局自分は半端者だったのだと、鬼は涙をまた零した。
「私は、己の体まで壊してしもうた・・・目から水まで流して・・・
もう、前も霞んでよく見えぬのだ・・・
ううっ、うっうわああああああああああああああっ」
鬼の眼からは留まることを知らぬ雫が後から後から溢れ落ちた。
鬼は、全てを失った悲しみと、苦しみから叫び続けた。
鬼の涙は、雨雫のようにどんどんと地に降り注ぎ、沈んでいった。
そして、鬼の涙が落ちた所から一片の芽が出、それは瞬く間に成長していった。
そしてそれは、自らの蔓を鬼に巻きつけ高く高く空を目指し伸びていく。
鬼は呆然と、己の肢体に絡む蔓を眺めた。
やがて成長した芽は、その蔓に綺麗な夕焼け色をしたまるで提灯のような花を咲かせた。
鬼は自身を灯篭のようだと思った。
煌々と光る花々は、鬼を優しく照らし、まるで火が灯っているように鬼を温めた。
暖かい光に包まれた鬼の目からは、いつしか涙が消えていた。
鬼が訳も分からずに居ると、潰れたはずの家々から死んだはずの人々が出て来た。
その姿は無残なものでなく、何時もの何ら変わりない姿であった。
(私は夢でも見ていたのだろうか・・・)
鬼は近づいてくる人々を見、そう考えた。
しかし、誰もが口を閉じかつてのあの温かい空気は流れなかった。
人々は鬼の前に立つと鬼に咲いている花を一房ずつ千切り持って行った。
まるで本当の提灯のように。
鬼は、慌てて問いかけた。
「主らは、何処へ行くのだ?」
「わしらは、もう死んだ・・・
これからは黄泉の国で暮らすのじゃ」
「そこには、私も行けるのか?」
「お前は・・・どうじゃろうなぁ」
「私も共に連れて行ってはくれぬか?」
「お前はもともと地獄人じゃろうて、何故に里や黄泉に焦がれる?」
「私は、私は人が好きなのだ
いつも笑い、楽しそうに暮らしている主らが」
「だが人も楽しいばかりでは無い、一日を生きるのが精一杯の時もある」
「しかし、人は温かい・・・私はそれが羨ましいのだ」
「だが人にも醜き者はおろうぞ、人の物を盗む者も人を殺める者も居る
決して、温かき者ばかりでは無かろうが」
「それでも、私は人に焦がれた・・・なれるものなら人に産まれたかった」
「さよか、お前はとても優しき者じゃった、それを死してから気づくとはのう・・・
すまなんだ、お前の優しさをわしらは無碍に扱うてしもうたわ」
「・・・・・・」
「心優しき鬼よ、わしらと共に参るか?
黄泉の国で共に暮らすか?あちらは此処よりももっと暖かいそうじゃから」
「・・・いいのか?」
「お前が共に行きたいと申したのではないか」
「あ、ああ、共に行きたい!!私も連れて行ってくれ」
「なら、お前の身に咲いている花を取れ
それは黄泉の国へ導いてくれる灯火じゃて、道を見失わんですむ」
「ああ、ありがとう、ありがとう」
いいことよ・・・
そして、里の民と鬼は花の灯火を頼りに歩き出した。
黄泉の国へ向かって・・・。
優しき鬼が創り出した、暖かい光は民を優しく神の国へ導いたとさ・・・・・・・。
「おじいちゃん、鬼は幸せになれたの?」
「あぁ、きっとな」
「そっか」
おじいちゃん・・・
「・・・か、綾香起きなさい」
「ん・・・あれ、私・・・」
「もう、こんな所で寝てたら風邪ひくわよ」
「ごめんなさい」
「さ、そろそろ帰りましょう」
「はぁい」
気づけば辺りは橙色に染まっていた
まるで、おじいちゃんが話してくれた物語の鬼に咲いたというあの花のように・・・。
だいぶ前の話を書き直したり、付け足したりして
完成しました・・・
初めて昔話なんて書きましたが、鬼灯の話は花と名前からのイメージです!!
実際はどうなんでしょう?
鬼が灯した光だったら綺麗だなぁと勝手気ままに妄想しました。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!!
少しでも楽しんでいただければ幸いです・・・
咲玖