第一夜
遥か古来より、醜く邪悪なる者として人々に忌み嫌われてきた鬼。
だが、数多いる鬼の中にも、心優しき者は居る。
顔が醜いと、額から生える角がおぞましいと
ただ、それだけで人々は鬼に恐怖しその身を震わせてきた。
この伽は、昔からとある地方に伝わる古い伝承
とある一匹の心優しき鬼の物語。
親から子へ、孫へと時を越え幾度と無く語り継がれてきたもの
そして今日もまた、心優しき鬼の物語は、一人の女性の内で紐解かれた・・・。
夏の日差しが今日も暑い。
私は燦々と照る太陽のもとで、祖父の十四回目の法事に出るため昔懐かしい道を母と二人歩いていた。
「ここも、滅多なことが無い限り通らなくなったわねぇ・・・」
母がポツリとそう漏らした。
「うん、おじいちゃんが居た頃はよく来たのにね」
たしかに、祖父が健在していた頃は私もよく祖父の家を訪れたものだ。
私は、祖父の語る昔話が大好きで家に行くたびに何度も話をしてくれとねだっていた。
そんな祖父も十四年前の夏に、まるで眠るかのように静かに息を引き取った。
原因は老衰。
90を越えていたのだから無理もない。
頭の中では解っていても、
私の心の中では今でも何かが欠けてしまったような感覚がずっと抜けないでいる。
大好きだった祖父、
もうあの皺くちゃの手で優しく頭を撫でられることも、皺がれた声で昔話を聞くことも二度とない。
私はそれが寂しくてたまらなかった。
私は法事を終えた後、生前祖父とよく並んで座っていた縁側に一人腰掛けていた。
ここに座って思い出すのは、いつも皺がれた声で私に昔話をしてくれた祖父の姿。
私はここに座るたびに今は亡き祖父の背中を探してしまう。
瞳を閉じれば、まだ傍に祖父が居て私に話をしてくれそうで・・・
私はうつらうつらとする意識の中、小学生だった頃の自分を思い出していた・・・・・・。