第五話
いつも一人で歩いてた。
来る日も来る日も歩き続けた。
何のために?誰のために?
そんなの、昔に忘れてしまった…。
――――――
「……そろそろ頭上げて、いいですよ?」
「そ、そうかね?…本当にそうかね!?」
【貴様がふざけなければ問題は無い】
「ふざけなければ、大丈夫らしいですよ?」
あれから数分、頭を上げてはアースの握りこぶしを目の前にして、地面と接吻するアザラシと、それを下すら見つめるアース。そして友里恵の三人の姿はいまだ変化はなかった。
が、その光景にも変化が現れた。アースも拳を握ることなく、アザラシも安心してその顔を上げれるようになった。酷く泥だらけだが。
「っく、何たる屈辱だ…。この私が、こんなぁ…!」
「何言ってるかさっぱりわかんないけど、とりあえずこれを」
鼻をすするアザラシ貴族に優しい声色で囁く友里恵。涙を流すアザラシにハンカチを手渡すと、さらに涙をこぼし始めた。
「ぐ…ふご…、あ、ありがどぉう…」
「………」
【………】
思わず絶句する二人をよそに、渡されたハンカチで迷わず鼻をかむアザラシ。「ズズッ、ありがとう、お嬢さん」とすすり泣きしながら「何か」がついたハンカチを返した。
「……どうも(シュッ)」
無表情でべっとりと「何か」がついたハンカチを受け取った瞬間横に捨て、向き合って座る二人に気まずい雰囲気が漂う.
そこでふと友里恵はある事に気がつく。
「そういえば、名前聞いてなかった…」
「あ」
【あ】
誰もが気がつかなかった。それはアザラシ本人ですら忘れていた。いや、遅かれ早かれ気がつくのだが、今ようやく思い出したと言う感じだ。
「え、っと。ドチラさまですか?」
「あ、そこから?」
意外なところの切り出し方にアザラシは戸惑いながら、ひとつ咳払いをして語りだした。
「私の名前はラムカナ――――――(ガシャン!!!)―――!?」
【主、虫が近くに飛んでいたぞ】
「あ、ありがとねぇ~」
「………」
「あ、どうぞ続けて」
気を取り直し、再び息を大きく吸い
「私の名前はラムカナ=A=コンロド。この国の貴族で、由緒正しき家柄のコンロド家当主だ」
アザラシは、ラムカナと名乗ったアザラシは先ほどの情けなさから一転、誇りを目に秘めた逞しい姿になっていた。
どうもチーズケーキです。
お気に入りありがとうございます~
不定期で申し訳ないですが、これからもよろしくお願いします