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アルテマ・ソード  作者: チーズケーキ
異世界旅行編
3/5

第参話

 遠く、高く、果てしない空。


 空を眺めていると、父は言った。『この空のどこかに、お前の母親がいる』と。


 月日は流れた。再び空を眺める。


 父ではない男性が言った。『この空のどこかに、お前の両親がいる』と。



 その人は今、何処にいるのだろうか―――



 ――――――



「ん?待てよ?なんで私はこっちに来なきゃいけなかったんだ?」

【…は?】


 ふと顔を上げたとたん、そんな疑問を思いついた。

 余りに唐突だったので、座っていたアースも思わず聞き返してしまった。

 だが気にせず友里恵は続ける。


「だから、なんで私、こっちに来なきゃいけなかったの?

 別に魔方陣を起動するにも、あなたがこっちの世界に来れば―――」

【それは無理な相談だ】


 その一言に首をかしげる友里恵。


「な、なんでよ?」

【私には、そっちの世界へ渡る“鍵”を昔に無くした。それが無ければ私はそちらへは行けない。だから主をあの狭間に引きずり込んだ】

「……“鍵”?」

【素質、のような物だ。普通の生き物なら持っているのだが、私は持ち合わせていない】


 つまり、通行許可書的な物だろうか。だけど彼は持っていないのかぁ、じゃあしょうがないな。などと曖昧に友里恵は結論付け、次の疑問へ移る。


「じゃあ質問ついでにもう一個。あの世界に帰る方法とかあるの?」

【ある。が、暫くは無理だ】


 なんで?と彼に問いかけたところ、彼は


【中途半端に開いた次元をこじ開け、無理やり開けた。次元の亀裂(友里恵が書いた魔方陣のような物)は、壊してしまうとたちまち修復されてしまう。

 “あれ”は範囲こそ広いが世界で共通の物。中途半端な亀裂は維持される時間が長いが、こじ開けられた物となると、あっという間だ。

 それから先は傷が癒えるまで例え世界の裏でも、“あれ”は開けない】


 なんだそうな。最後に彼は、骨折はひびが入っているより完全に折れている方が治りが早いだろう。と付け足した。


【再び亀裂を作る事も可能だ。それを元の世界へ繋ぐ事も出来る“触媒”もある。だが、今は難しいだろう】

「この世界が、“亀裂”を直してるから?」

【そうだ】


 その言葉に納得し、ふぅんと言って友里恵は辺りを再び見渡す。

 見た事もない植物。だが、時々見覚えのある物もいる。

 遠くに飛ぶ鳥は、かなり大きい。友里恵の世界にいた猛禽類の数倍はあると思われた。

 今友里恵たちがいるのは、森のど真ん中の短い草が肩を並べ生い茂る『広場』のような所。そこには変わった形の花が幾つも咲き誇っていた。

 正直、今の友里恵の瞳には輝きしかなかった。

 首を動かせば未知の世界。いたる所が初めて。オカルト大好きで実際に召喚も実践しようと考えた人物、メルヘンへの順応性は並外れていた。


 が、突然座っていたアースが膝で立ち上がり、一点の方向に顔を向けた。

 森が急に静かになった。と思ったら森の遠くから地響きのような物が響き渡り、地を揺らしていた。

 それは、確実に彼女らへと向かってきていた。


「ど、どうしたの?」

【………】


 突然の出来事に驚きの様子を見せる友里恵。だが、彼は多くを語ろうとせず、一言だけ言った。


【下がっていてくれ、主】


 ようやく立ち上がるアース。その姿は『次元の狭間』で拝んだ友里恵であったが、再び見とれる事となった。

 手足は長く、身長も見上げるように高い。が、決して線は細くない。肩幅や胸の厚さ、手足の太さから雄々しく逞しい男性らしさを感じる。そして何より、彼の身体の線を際立たせているのが、漆黒の鎧だ。

 黒よりも黒らしい色の艶は、まるでスリガラスのような反射を見せ、淡く輝いている。装飾は目立つような物はないが、鎧を駆け巡るように張り巡らされている白いラインが、彼の身体の線をより引き立たせていた。

 凛々しく逞しい肩幅に、頬を染めていた友里恵は、一瞬にしてその顔を蒼白にした。


 迫り寄ってきた地響きは、今まさに目の前で爆ぜた。


 目の前から現れたのは、頭がアフリカゾウぐらいある紫の『ゴリラ』であった。

 はっきり言って、目が逝ってる。


【…『ゴブルモンキー』か。だがなんだこの気配は?まるで何かに取り付かれているような…】

「――――――っ……」


 冷静に相手を見て、いぶかしげな言葉を呟くアースに対して、流石の友里恵も巨大パープルゴリラの登場には驚いたようだ。

 開いた口が塞がらない。


 そんな主の様子も露知らず、右手を目の前に突き出した。するとその手の先で布を裂いたような音と、何も無い所に切れ目が現れ、彼の腕を飲み込んでゆく。

 その事態にも付いていけず、友里恵はそのままひたすら口を開けて事態を把握しようとしていた。

 飲み込まれた右手を引き抜くアース。だが、その手には先ほどまではなかった“剣”が握られていた。

 彼の鎧と同色の、漆黒の剣。刀身も鍔も柄も全て黒い、西洋剣。飾りと言う飾りは無く、ただ実用性だけを求めた物。

 だが、それを握り彼に安っぽさは無く、むしろその“剣”が伝説の一品に見えるほど、彼はそれをこなしてみせた。

 その姿はまさに、魔物に立ち向かう騎士の如く。


「■■■■■■■■■■■■!!!」

【ふむ、精神が完全に壊れているか。普段は大人しい獣も、こうなれば危険な野獣だな】

「■■■■■■!■■■■■■!!!」

【安心しろ。楽に逝かせてやる】

 言いながらアースは手に持った“剣”を逆手に持ち変え、左手を相手に向かって突き出し、右手の剣を反対に引き……。

 ふと友里恵は思った。どこかで見た事があると。そして閃いた。開いていた口を閉め、小さく呟いた。


「………投げやり?」


 そう呟いた瞬間、アースは動いた。引いていた右手を振りかぶり、まるで槍を投げる要領で“剣”を投げたのだ。

 だが、その速さは友里恵が知っている全ての物よりも『速かった』。

 投げられた“剣”はゴウッと音をたて、黒い矢となり、線となり、星になり、光の速さで打ち出された。普通の剣なら線になった時には、粉々に砕けていただろう。だが、彼の投げた漆黒の“剣”はそうならなかった。

 その光景は、人間は愚か、この世界の獣ですら、目で追うことは不可能に近かった。


 そして黒い光は、瞬きするよりもゴリラの額を捕らえ、“その巨体を後方へ大きく吹き飛ばした”。


 距離で考えれば1キロはくだらないだろう。きりもみ状態で吹き飛んでいくゴリラは辺りの木々をなぎ倒し、至る所から獣たちの悲鳴を響かせた。

 この事実にも暫し唖然する主、友里恵。が、アースは何事も無かったかのように普通にたち、再び右手を突き出し【戻れ】と呟いた瞬間、画像のすり替えのように剣が彼の右手に納まっていた。


「……もう、わけ分んないね」

【そうか?】


 転々とする場面に、もう思考するのをやめたように呟き、その体育座りした。

 余り気にする様子も無く、遠くでゴリラが絶命した事を察し、剣を再び虚空から割れ目が現れ“剣”を戻そうとしたとき、ピタリとその腕が止まった。

 その出来事に、今度はおびえるような視線を友里恵はアースに送る。だがアースは表情こそ分らないが、先ほどよりユックリした動きで“剣”を握る右腕をおろした。


 そして聞こえてきたのは、地響きではなく荒い息とテンポよく響くひづめの音と、『人の男性のような』声であった。




第参話終了です。

お気に入りしてくれた人、ありがとうございます!!!!

これからも頑張っていきますので、感想駄目だし等ドシドシ書いてください~!


先日、山形に行きました。幸せでした。

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