その後の2人
本編から、3年後に飛びます。
女主人公が、高校の友達とただ話すだけで、男主人公は最後にちょっとだけ出てきます。
1話目、2話目のタイトル変更しました。名前は最初から決めてたのに、うまく話の途中で出せなかったことをとても悔やんでいます。
どなたか、うまい出し方教えて下さい。
私たちの新しい関係が始まったのも、こんな雨の日だった。
私、橘 早苗は、彼、久坂 晶を一生離さないことを誓います。
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「橘! こっちこっち」
そんなに広くないはないレトロな印象のカフェの中で、手を振る旧友の姿を確認する。
「ひさしぶり、沙織」
「ひさしぶりじゃん。まあとりあえず座んなよ」
勧められるままに席に着き、コーヒーを注文する。
「ほんっとひさしぶりだねー! どれくらい会ってなかったんだろ」
「高校卒業以来だから…、1年半ぐらいじゃないかしら」
相変わらず気さくな友人だ。彼女の存在は、大きく猫を被っていた高校時代はとてもありがたかった。
まあ、彼の存在の大きさには、やはり敵わなかったけど。
その後もあいつがこんな研究してる、だとかあの娘がもう結婚したらしい、だとか他愛のない話をずっと続けた。
「橘は付属の大学行ってるんだっけ?」
「そうよ。沙織は他の私大の薬学部よね」
「そうそう。よく覚えてんね」
そうやって笑う旧友は、綺麗だった。
「…もしかして沙織、恋人でもできたの?」
「なっ!?」
顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる姿が可愛い。いやだずるい。
「な、な、なんで知って」
「見たらわかるわよ」
そう言っても納得してない様子だ。こんなにわかりやすいのに。
「高校時代は適当に後ろでくくってただけの髪もショートボブにしてちゃんとお手入れしてるみたいだし、メイクも前より丁寧で上品になってるし、それにその右手の指輪」
沙織は指輪、と私が口にした瞬間、体をびくっと跳ねさせ左手で右手を隠した。
「結構なお値段するでしょ。貴女がそういうの自分で買うとは思えないし。友達に貰うにしては高価すぎるわ」
恥ずかしそうにうつむく姿がなんとも可愛らしい。
「別にいいんじゃないの。幸せそうでよかったわ」
「……そういうの、あたしには、似合わないって言わない…?」
なんでそんなこと、と思ったが、そういえば彼女は高校時代えらくさばさばしてて美人で背が高く、どこかかっこよかった。しかも私たちの学校はいいとこのお坊ちゃんばかりで、なんか軟弱な男子が多かったせいか、沙織が一部の女子からは王子様だとか言われてたな、とか思いだした。
「大丈夫よ。沙織美人で人気もあったのに、なんで浮いた話が無いんだろうって不思議に思ってたのよ」
「……あんたに美人だって言われても説得力ないし、人気はあったかもだけど女の子ばっかだったじゃん」
ため息交じりに彼女はそう言うが、その人気の中に男子も混じっていたことに気づいていないのだろうか。うん。気づいてないんでしょうね。
「まあまあ。どんな人なの?」
「……おんなじ大学の、医学部のひとで、ひとつ上。しっかりしてて、頭もよくてすごく優しくてかっこよくて、背なんてあたしがヒール履いてもずっと高くて、あたしのこと女の子みたいに扱ってくれて、えっと、それで」
えへへ、と照れるように説明してくれる彼女はとても可愛い。
高校時代とは、良い意味で変わったみたいだ。
お互いにコーヒーを一口飲む。
そのおかげか、彼女も少し落ち着いたように見える。
「そういや、橘はどうなの?」
「どうなのって……、何が?」
すると彼女は、興奮したように両手で握りこぶしを作った。
相変わらず感情の起伏が激しい子だ。見ているぶんにはとても楽しい。
「だーかーらー!」
「お付き合いしてる人ならいるわよ」
ふふっと笑って私は答える。
その言葉に反応して、沙織は少し立ち上がる。
よっぽど恋愛話をするのが楽しいみたい。
「あんた昔からすっごいモテたもんねー。まあ、あたし以外はあんたの性格の悪さわかってなかったけど。
で、どんな人なの?」
「いや、どんな人って……。私前の彼と別れた覚えないわよ」
沙織は呆けたような顔をする。
その顔がおもしろくて、ついくすくすと笑ってしまった。
「え、それって、あの超地味男?」
「ええ」
「あいつすっごい評判悪かったじゃん!!
訳わかんない噂色々あったし!」
「女子のたて笛舐めたとか、一晩中女子トイレに閉じこもったとか、あたしのストーカーだとか?」
「そうそう」
「その噂流したの私」
「……へ?!」
「だから、私が噂流したの」
沙織がすっごい驚いてる。やだ何か新鮮。目玉落ちないのかしら。
「えーと、ごめん、理解できないんだけど、とりあえずなんで?」
「ふふ、もちろん他の人嫌われて欲しかったから」
きょとん、としている沙織に説明を続ける。
「だって、万が一にでも他の女が、男ももちろん駄目だけど、彼に近づく事が許せなかったのよ。
あたしだけを見ててほしいの。あんな逸材どこにもいないわ。誰にもあげない」
彼のことを思い出して、改めて人に語るのが思いの外楽しくて、今までにないくらい顔がゆるんでしまった。やだ、恥ずかしい。
「…何であんた、言ってることそんなに黒いのにそんなに晴れやかな顔してんの」
「あら。そんなの決まってるじゃない。
彼のことがそれだけ好きだからよ。
沙織も今ならこの気持ち、わかるでしょ?」
「う」
心当たりがあるようだ。
まあ、この娘の気持ちはこんなにもドス暗くはないでしょうけど。
「まあ色々言ったけど、でも、これは建前でね」
「……うーん。
これ以上何隠してるのか、聞きたくもないけど聞いてあげる。沙織ちゃん優しいから」
「ふふ、ありがと」
沙織がわざとふざけて軽口を叩く。
幸せだ。こんなに優しい友人に、大好きな人のことを話せるなんて。
私はぬるくなったコーヒーを飲む。
イスの近くにある大き目の窓に視線を移し、つい先ほどまでは晴れていた空に、今は厚い雲がかかっていることを確認してから話を続けた。
「彼の傷ついた顔が好きなの。
初めて見たときはそれはもう衝撃だったわ。
初等部の入学式に彼を見たときから、もう駄目だった。
この人を傷つけたくてたまらないって思ったの。
ねえ、これって、恋でしょう?」
視線を友人に戻すと、綺麗な顔が見事にひきつっていた。
やだ、若いころからそんな表情してると皺になるのに。
「……かなり、斬新な、一目ぼれだね」
「ふふふ、すごく言葉を選んでくれてありがとう」
それから、自然と2人とも黙る。
すると心地よい静寂を邪魔するかのように、私の大好きな音がぽつり、ぽつりと響き始めた。
窓の外に目をやると、とうとう雨が降り始めていた。
「ありゃ、今日降水確率0%だって言ってたのに」
「まあ、梅雨の時期の天気予報なんてこんなもんよ」
「えっとさ、その橘の彼氏に話戻すけど、今そいつ何やってんの?」
「今は美大に行ってるわ。
昔から絵が好きなのよ。描くのも観るのも」
「へえ」
「あの人三男だから、家業継ぐこともないし、期待もされてないから結構自由にやってるみたい。
私の家は兄も姉も優秀だし、兄弟も多いから、私一人くらい自由にしても大丈夫よ。多分」
「……あんたの家、ていうか財閥? そこそこ裕福な家のあたしでも引くくらい大きいのに、自由にしちゃっていいの?」
「やだ、それを乗り越えるのが楽しいんじゃない。
あの人の家は橘の家よりずうっと小さいから、色々な人から批判されるでしょうね。
私の両親は反対するだろうし、私狙いの男性は勿論、その人たちの周りのお偉いさんにも言われるでしょ。相応しくないって。
最っ高に悩んで苦しんでほしいわ。その表情が見たいもの」
沙織が盛大にため息をつく。
気づかないうちに外は本降りになっていた。
「さすがに、両想いになってからは、そんなに酷いことはしてないよね……?」
「してないわよ。……多分」
「はい、思い当たる節があるならとっとと言う」
しょうがないわね、と私が降参する。
「まあ、基本的に待ち合わせは2時間は遅れていくようにしてるわね。
あ、別にルーズな訳じゃないわよ。待ち合わせ場所から離れたところでちゃんと見てるもの。
私が事故に遭ったんじゃないか、私に捨てられたんじゃないか、嫌われたんじゃないか、他の男と会ってるんじゃないか、とか遠目でもわかるくらい、彼くるくる表情が変わるの。
それを見るのが楽しくって楽しくって。
あとテーマは自由で、スケッチを描いてこいっていう課題があったらしいのよ。
それに私のヌードを描かせたわ。
彼に見られるのはすごく恥ずかしかったけど、あの彼の泣きそうな顔。
他人に恋人の裸体を見せることは、どれだけ屈辱だったのかしら。
ちなみにその絵、とてもよくできてたらしいから、大きなスペースに展示されたみたいよ。ふふ。
あとは……」
「ごめん。もういい」
「あら残念。これからがいいところなのに」
「あたし以外の奴らはあんたがこんなに変人で変態でいじめっ子でドSなことなんて知らないんだろうね……。
このペテン師」
「ひどいわね。否定はしないけど。
だってほら、私が完璧な存在であればあるほど、他の人間の彼への嫉妬は大きくなるじゃない?」
私が何を言いたいかを察したのか、沙織は口を開かなかった。
外はすっかり土砂降りになっていた。
ふふふ、と私の口から笑いがこぼれる。
「あんた、なんで笑ってんの?
ぶっちゃけ気持ち悪いんだけど」
「ごめんなさい。これからすごく楽しみなことがあって」
「へえ、どうしたの?珍しいじゃん」
私はにっこりと笑って言葉を紡ぐ。
「今日、交際を始めて三年目の記念日なの」
「……で?」
「急に雨降り出したわねえ。結構な人が傘なんて持ってなかったんじゃないかしら」
「…………で?」
「午前十時に、駅前の噴水脇のベンチで待ち合わせなの。」
「………………つまり?」
「ふふふ。今頃雨に打たれながら私を待ってると思うわ。
きっとランチの予約やら、映画の前売り券やら、頑張ったんでしょうね。
全部ぶち壊しちゃったけど」
沙織が肩を震わせながら、ゆっくりと立ち上がる。
そして私をきっと睨んだ。
「……はーやーくー、行って来ーい!!
走れ! 急げ! うわもう三時じゃんか!」
顔を真っ赤にして叫ぶ友人。それをにこにこと見ている私。
他のお客さんからしたらとても浮いていたと思う。
もう。しばらくこの喫茶店来れないじゃない。
「わかったわよ。
まあ、私もそろそろ晶さんに会いたくて我慢できなくなってきたところだったし」
「早く行け!
あいつも雨宿りくらいはしてると思うけど、もう五時間も待たせてるんだろ!?」
「沙織、しゃべり方がだいぶ荒くなってるわよ。
あと、待ち合わせ場所からはどんなことがあっても一歩も動かないように、ちゃんと調教してあるから、雨宿りは確実にしてないわ」
「なおさら急げ!
調教とか今さらもうつっこまないから!」
支払いを済ませて店を出る。
沙織にタクシーに押し込まれ、強引にドアを閉められた。自動なのに。
外の沙織に笑って手を振り、発車する。
「あんた達は、本当にこれで、幸せなのか……?」
そんな沙織のつぶやきなんて、当然私に聞こえるはずはなかった。
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支払いの際に、傘が無くて困っていると運転手に言うと、ビニール傘をくれた。
そして車を降り、愛しい人が待つベンチへと近づく。
「晶さん」
声をかける。
服もカバンも髪の毛も、いっそ濡れてない場所が無いんじゃなかろうかというくらいびしょびしょの男性がこちらを向いた。
「……橘さん」
「いやだわ。いつも名前で呼んでって言ってるじゃない。
それよりごめんなさい。少し遅れてしまって」
ふるふると彼が横に首を振り、気にしてないという意思表示をする。
「濡れてるわね。雨が急に降ったせいだわ。
早く乾かさなくちゃ。行きましょ」
彼は座ったままゆっくりと顔を上げる。
うつろなその表情。たまんない。
彼が小さく口を開く。
「…ぃだから……」
声が小さすぎて聞こえない。
もう一度言うように、私が目で促す。
そしてもう一度。今度はちゃんと聞こえた。
「……お願いだから、僕を捨てないで…」
本当にもうこの人は。
なんでこんなにも私の心を突き動かすのかしら。
こう見えても、毎日毎日不安なの。
大好きな人に嫌われないか。
この人の嫌がる顔も泣きそうな顔も、落ち込んだ顔も傷ついた顔も大好きだから。
つい悪戯しちゃうの。
でもその度に、この人に今度こそ愛想を尽かされたんじゃないかって不安になるわ。
なのに、それなのに、私が彼を突き放す度に、私のことが好きだって言うから。
一層好きになってしまうの。
大好きなこの人が今、私に縋ってる。
捨てないでって懇願してる。
ああもう、本当に、こんなにも私をぞくぞくさせるのはこの人だけ。
「もちろん、捨てたりなんかしないわ。
ごめんなさい。不安にさせてしまって。
さあ、早く行きましょう?」
私の言葉に反応し、ぱっと顔を明るくさせる愛しい人。
彼は遠慮がちに私の傘に入り、歩き出す。
雨の音を掻き消すくらい、自分の心臓の音がうるさくなったのがわかった。
これじゃ、どっちが振り回してるかなんてわかりゃしない。
でもきっと、雨が降るだけで告白されたあの日を思い出す、私の方が重症なんだろう。
読んで下さって本当にありがとうございます。
一貫性もなく、雑な文章であったと思います。
誤字・脱字や感想などございましたら、お願いいたします。




