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月輪に巡るセレナーデ  作者: 笹サーモン
第一章 トリメルカ編
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第27話:鋭い炎と冷ややかな爆弾

 どれだけ待てど、爆ぜる音は届かなかった。

 アヤメは放たれた矢の爆撃に備え、目を閉じていた。だが、彼女の聴覚が捉えたのは大地を揺るがすような轟音ではなく、金属が硬いものと衝突したような『カーン』という高い音。


 恐る恐る顔を上げ、アヤメの視界に映ったのは赤い巨大な壁――ではなく、過去に何度か護衛をしてくれたことのある巨漢、ガッツだった。普段は右肩にかけている剣を抜き、振り下ろした右手に握っている。


「遅れてしまってすまない。無事か?」


 振り返ったガッツと目が合う。しかしアヤメ自身、恐怖のためかガッツの表情が見えない。


「は、はい……」


「ならいい!」


 ガッツはアヤメの返事を聞くとすぐに正面に向き直し、目の前の障害を睨んだ。彼の視界の奥では先ほどまで大通りを歩いていた人々が怯え悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 ガッツは右手の刃をエバリスの喉元へ向けると、声高らかに宣言した。


「お前が誰かは知らんが、アニムによる無差別の攻撃、しかとこの目で見させてもらった。お前をアニム規定第、第……第何条だったか……? により拘束する!」


 エバリスに一言飛ばしたガッツはアヤメの方を向かずに、軽く話を振る。


「いいかアヤメ、出来る限りその場から動かずに身を守れ」


 大男のセリフが終わると同時に見合った二人は戦闘態勢へと移行する。エバリスは弓に矢を番え、ガッツは右の腰の剣を左手で引き抜き、構える。

 ガッツがアニム《インフェルノ》の発動によって二本の刀身に炎を纏わせる。彼の周囲の空気が熱を帯び、陽炎(かげろう)が揺らぐと双方は動き出した。


 エバリスは即座に矢を放ち、ガッツが右の剣でそれを弾く。しかし弾いた矢はその先の落下地点で爆発を引き起こし、地面を抉った。


 ――まずいな、このやり方では被害が広がる。


 迫り来る次の矢。ガッツはこれまでの戦闘経験からの勘で、二刀の剣でそれぞれの矢を反対に弾いた。各矢は離れた場所に刺さり、その後の爆発は起きない。被害を抑える術が見えた。

 ガッツは攻めの光明を見出すと、迫る矢を次々と薙ぎ払い、エバリスに接近していく。


 一方で、早々に矢の爆発を防がれたのを目撃したエバリスは目の前の剣士を倒すのは一筋縄ではいかないと悟り、即興の作戦を練った。


 ――あの男は見るからに近距離のパワータイプ。上空からの攻撃には反撃出来ないだろう。


 エバリスは自身の足元に二本の矢を撃ち込むと、その爆風に乗って制空権を手に入れた。


「飛んだ!?」


 上空に浮かび上がったエバリスを見上げたガッツの頭上に、十を超える数の矢が降り注ぐ。しかしどれも彼には直撃せずに、地面で爆発を起こしていた。爆発によって舞い上がった土埃がガッツの四方を囲み、そのまま彼の視界を奪う。


 ――この攻撃は時間稼ぎ。この隙にソロモの瞳を捕る。


 ガッツが巻き上がる土に気を取られている隙に、エバリスは当初の獲物である少女に接近を試みた。近づいてくる眼鏡の男に、アヤメは体を強張らせる。

 けれども男の魔の手が少女に届くことはなかった。空中にいるエバリスと地上のアヤメとの間に、一閃の燃え盛る炎が割って入ったのだ。


 エバリスが炎の発射された方向を向くと、そこには炎によって土埃を吹き飛ばしたガッツがどっしりと構えている。その表情は自慢げで、エバリスの感情を逆撫でした。


「チッ」


「今のは危なかった。先ほどの爆発は流石に手に負えん。だが、俺も負けてはいない!」


 これまでの二人の実力は拮抗。互いの攻撃は届かず、未だに両者とも敵の戦力を手探りで分解しようとしている。


 エバリスはアヤメを捕らえるにはガッツを倒すのが優先だと判断すると、相手の()()()が隠されていることも考慮して全力で仕留めることにした。たとえ奥の手が隠されていようとも、それを使わせることなく押し切ってしまえば問題はないに等しい。


「邪魔だな。さっさと()ね!」


「死ねと言われて死ぬ奴がいるか。自分の手で殺してみろ!」


 互いの挑発が緊張感を高める。二者の間には激しい熱が衝突していた。

 エバリスはガッツを睨みつけると、再度足元に矢を撃ち込んだ。しかし今回は二本ではない。爆発を同箇所で重ねることにより爆風の密度を上げ、高度を上げることで滞空時間を伸ばしたのである。


 着地までの数秒、エバリスは一秒も余すことなく矢を射続けた。爆発の衝撃で矢が破損してしまうために回収も出来ず、矢の数には限界があるが、それでも出し惜しみはしない。


 放たれた無数の矢はそれぞれガッツ、アヤメの周囲、それからその他周辺にばら撒かれ、爆発を起こし、煙によって視界を奪う。ガッツの場合はそこへ加えて彼の肉体そのものに対して発射された矢もあったが、彼は手にしている双剣で全て捌き切った。


 ガッツは右の刀身に強い炎を纏わせると、燃え上がる刀身を勢いよく振るって煙を裂いた。上空を確認するが敵の姿はない。辺りを見渡しても見えるのは大量の煙の壁だけ。


 ――マズいな。どこにアヤメがいるか分からん。


 ガッツは敵が見えない中で、アヤメの位置を特定するために霊力の残滓を探し始めた。

 そして見つかった、ガッツから見て左斜め前方。


 ガッツはアヤメの逃げ道を確保するため、煙を払おうと左手の刀身に火を宿した。だが、振るう直前で手が止まる。

 煙でアヤメの姿が目視出来ない状態で安易に炎を飛ばせば、その炎はアヤメに牙を剥く可能性があるのだ。


「というか、アイツはどこに行った?」


 独り言をぼやき、ガッツは炎を一旦解除すると、アヤメのいるはずの方向へ駆け出した。しかしその加速が終わり切る前に、ヤツが右手から突撃し、体当たりをしてきた。その手には弓がない。

 ガッツが剣を構えて応戦するより早く、体を弾き飛ばす強烈な爆風が襲いかかる。

 エバリスは突進時にガッツの腹部に拳を叩き込んでいた。


「私の攻撃は弓だけではないんだ。何も考えずに動くからそうなる」


 何が起きたのか理解が追い付かないガッツを見ると、エバリスは見下すように語り出す。


「トリメルカで私を知らないとは、君は大層失礼な男だ。冥土の土産に教えてやろう」


 エバリスは視線を目の前の敵に向けることなく、弓に当てた。弓を眺めながら語る様は、既に勝利を確信しているようだった。


「私のアニム《ダイナマイト》は私の霊力が二点で重なった箇所に爆撃を起こす。君のような単細胞でも、半分いいところまでは気付いていたようだが」


「戦場でベラベラとよく喋るではないか」


 被弾したガッツの息が上がる。頭からは流血し、更に霊力の消耗も進み始めていた。対するエバリスはまだ体力的にも霊力的にも余裕がある。

 アニムは霊力がなければ発動出来ず、戦場での霊力の枯渇は継戦能力の喪失を意味し、それは即ち死を意味する。


 二人の男が激闘を繰り広げる中、ガッツという救援の存在によってアヤメの頭痛は治まりつつあった。胸に上がってくる気持ち悪さも今はない。体は回復し、顔を上げられるようになっている。

 そして見た光景は、明らかにガッツが押されている景色だった。


 ――助けないと。このままガッツさんが負けたら次がない。でも、助けるって言っても、どうやって?


 「ガッツさん! 右上です、右上!」


 アヤメが思考の末に選んだのは、『言葉』による援護だった。アヤメがガッツとエバリスの位置関係を伝えると、それを聞いたガッツは反射的に右の剣を掲げ、矢を弾く。


「助かる!」


 少女の声を頼りにガッツは次々に矢を捌き、ダメージを抑えながら徐々にエバリスを詰めていく。

 エバリスはアヤメの存在を邪魔に感じたが、下手にアヤメに手を回せばガッツに狩られる可能性を案じて行動に移れなかった。


 事態はガッツとアヤメにとって好転しているかのように見える。しかし、ガッツの体には汗が滲み、霊力は底を尽きようとしていた。


 ――このままではいずれジリ貧で負ける。


 ガッツは歯を食いしばると、戦力の半分を一撃に賭けた。

 霊力を可能な限り剣に籠め、宙で最大火力で燃やし続ける。


「馬鹿なのか? 惨めだな」


 賭けの一撃を嘲笑するエバリスは、大して避ける素振りを見せなかった。だが――。


「――なッ!」


 それが(あだ)となった。

 投げられた剣は炎を纏ったままエバリスの弓を掠めた。彼の弓は木製だったために、一度炎上するとそのまま灰となって散っていく。


 エバリスは戦略上重要なパーツを失った。


「クソ、撤退か」


「待て!」


 エバリスは一瞬にして先ほどまでの嘲笑する余裕を失うと、ガッツの言葉には耳も貸さずに大通りの反対側へ身を翻した。

 後を追おうとガッツも足を伸ばすが、それよりも優先すべきことを思い出し、体の方向を反転させた。


「攻撃は受けてないか?」


「はい」


「そうか。それとさっきは攻撃の方向を教えてもらえて助かった。感謝する!」


「私こそ助けていただいてありがとうございました。でも、どうしてあんなにタイミングよく?」


「うむ? その話なら先ほど市街地で何かが爆発しただろう。それが堕魂(だこん)によるものか調査が開始され、その道すがらだな。俺以外の発現者も少しは現場へ向かっているはずだ」


 事情を語り終えると、ガッツは不意に辺りを見渡してトカゲの姿がないことに気づいた。


「そういえば、アイツはどこ行ったんだ? 先ほど支部に来た時もそうだったように、てっきりお前たちは常に一緒に行動しているものと思っていたのだが」


「あ……」


 ガッツの言葉を受け、アヤメは事の顛末を思い出す。


「それが、トカゲさんは私を逃がそうとしてくれて……あの、ここに来る前にさっきの人とか堕魂(だこん)とかに襲われたんですけど」


「何だと? 堕魂(だこん)もいたのか?」


「はい。……多分トカゲさんはまだ戦ってます」


 ガッツの顔色が変わる。


「一度支部に帰還して協力者を得る。アヤメ、お前は俺から離れるな」


 アヤメは頷くと、そのまま二人で支部へ向けて駆け足で移動した。

今日の一言:ガッツが炎の斬撃を飛ばしましたが、あれは一度炎を剣に纏わせてからアニムを解除し、剣を振り、慣性の利用して再現しています。ガッツの《インフェルノ》の能力ではありません。

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