第13話:力ある者には責任が伴う
ルコールの指示に素直に従ったトカゲは、下階のカウンターにいた。数人分の待ち時間を経て、ようやくトカゲの順番が訪れる。カウンター越しに受付の人と向き合い、トカゲ本人には聞き馴染みのない単語を発した。
「あのー、アニムの申告ってこちらで出来ます?」
「はい。こちらで受け付けております。まずは発現者証発行のため、身分証明書のご提示をお願い致します」
身分証明書の提示を求められ、トカゲは頭を抱えた。彼は現在この世界に来たばかりで、この世界の身分証明書なるものを所持していない。
「すみません、ボク記憶喪失っぽいんですけど、そのせいか身分証明書を持っていなくて。どうしたらいいでしょうか?」
「ああ、例の方ですね。でしたら、少々お待ちを」
女性はカウンターの下に手を入れ、何かを漁り始めた。書類が擦れる音がし、やがて一枚の手順書のようなものが発掘される。
「えっと、申告の手順は……まずは現物確認……」
女性はぼそりと言った後、席を立ち、トカゲの前に移った。
「ではご同行を。ご案内します」
女性の後を追うと、どうやら支部には地下があったことが分かった。地下階へと続く階段を下る。壁に所々窪みが設けられ、そこに照明の火が灯っていた。少し埃っぽく、空気も重い。あまり日常的に使われていないことが伺える。
地下の一室に案内されると、部屋の中には甲冑に身を包んだ職員が一人待機していた。甲冑の背後にはガラス張りの壁があり、その奥には別の部屋がある。
女性職員は甲冑に軽く会釈すると、調査対象の方へと向きを直す。
事情を把握した甲冑は、その金属の塊の裏からトカゲに対して指示を出した。
「はじめまして。まあ、語ることはないかな。この後、君には堕魂と戦ってもらう。アニムの証明に最も有効な手段だから、始めは霊力ではなくアニムで戦ってもらうよう頼むよ」
いきなり捲したてられた上で、トカゲには知らない概念が飛び出す。彼は疑問を呈した。
「霊力で戦うって? アニムなら昨日使ったんですけど、そちらの話はまだよく分からなくて」
基礎中の基礎を尋ねて来る相手に、甲冑は首を傾げた。
「手足や武具に霊力を通すのさ。堕魂は一度死んだ魂だから霊体。同質である霊力でないと干渉出来ない。霊力の籠っていない、ただの物理的な攻撃じゃあ、奴らには効きやしないさ」
説明を受けたトカゲの脳裏で、ガッツがゴキブリのような堕魂と交戦した際の記憶が再生される。炎を宿す前の剣で物理的な接触が出来ていたため、あの時は恐らく霊力で戦っていたのだろう。
話が大きく逸れると、女性職員が割って入って軌道修正を試みた。
「そちらの話は今は関係ありませんから、取り敢えずは調査に移りましょう」
するとトカゲは軽く難色を示した。
「まあしょーがないけど、堕魂の相手って絶対にしないとダメな感じ?」
「堕魂の相手は危険が伴いますが、強制です。国からの命令ですから」
「ケガとか大丈夫なの?」
「ご安心ください。試験で戦う堕魂は以前他の発現者が捕らえ、弱体化させたものですよ。有事の際はそちらの職員が救援に入りますので」
鎧の職員が頷く。
「はぁ……やるしかない感じ、ね。堕魂と戦うのなんて初めてだから、言っても不安なんだけど」
流されるがままに事態は動き、トカゲは納得する前に強引にガラスの奥の部屋に放り込まれた。目の前には檻があり、中には既に堕魂と思わしきものが隔離されている。
堕魂は狼のような見た目で、威嚇するように吠えていた。ガッツが倒した堕魂と同じく、血のような匂いがしている。
「では、堕魂を解放します。お気をつけて」
事務的なやり取りの終了を告げる扉の閉まる音。完全に聞こえていないことを確認してから、トカゲは皮肉を垂れる。
「お気をつけてって……まあ、随分と他人事だこと」
面倒くさいながらトカゲは左手を振り、カードを呼び起こす。同時に鉄格子が上がり、狼は飛び掛かって来た。
しかし弱体化というのは本当のようで、明らかに見た目にそぐわぬ鈍くささ。加えて飛び掛かってきているはずなのだが、十数センチほどしか跳べていない。
「乱暴なご挨拶だね。元気いっぱいなのは感心するけど、危ないなー」
トカゲは飛び掛かり攻撃を回避するとカードを一枚左手から引き抜き、標的目掛けて投げ放った。
カードが標的に近づくと、カードは消え、代わりに堕魂の耳が微かに炎上した。しかし燃えたのはあくまで耳だけで、ほとんどダメージになっていない。それどころか、足止めにすら遠く及ばない。
「おかしいな、昨日は斬撃だったと思うんだけど」
もう一枚引き抜き、宙に投げ渡す。
すると今度は何か途轍もなく巨大な物体が落ちたかのように、堕魂の体は叩き潰された。堕魂の欠片らしきものが床に飛散し、やがて蒸発したように消えていく。
アニムは傾向として、過去に同じ性質を持ったものが発現することが多い。血筋や遺伝などは一切関係なく、何百年かに一度、過去に確認されたものと似た性質のアニムを発現する者が現れる。
しかし今回の発現者は、過去に報告されたことのないアニムを有していた。資料にも記載がなく、完全に前代未聞のアニム。
奇妙な事態に出くわした女性職員と甲冑の職員は、ガラスの壁の奥にいる少年を見てから互いに顔を見合わせた。
「彼のアニム、何か分かります?」
「いーや、分からない」
頭を悩ませながら二人はコンコンと扉を叩き、部屋の内から被験者を呼んだ。
「これにて今日の確認は終了します。一度お戻りください」
待機室に戻ると、甲冑の職員が兜越しに話しかけてきた。
「見事な戦いぶりだったね。お疲れ様。現状分かったことは左手を振るのが発動条件、ということだけで、能力の詳細は不明みたいだ」
「ですので、本日は解散として、ゆっくりお休みになってください。明日以降も引き続き調査を行いますから」
内心また堕魂と戦わされるのは面倒だと思ったトカゲだったが、一応は礼儀というものがある。軽く会釈だけして、その場は解散。帰り道は女性職員が先導することはなく、トカゲは一人で元来た道を辿って地上階へと上がるのだった。
【今日の一言】
戦闘においては霊力のみで戦うより、アニムを使用して戦う方がいい傾向にあります。感覚的には霊力は電気、アニムは電気で動く家電ですね。尤も、戦闘で一切役に立たないアニムも存在しますが。
面白い・続きが気になるという方はブクマ&評価をお願いします。
コメントも創作の励みになりますので、是非ともお願いします。




