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月輪に巡るセレナーデ  作者: 笹サーモン
第一章 トリメルカ編
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第13話:力ある者には責任が伴う

 ルコールの指示に素直に従ったトカゲは、下階のカウンターにいた。


「あのー、アニムの申告ってこちらで出来ます?」


「はい。こちらで受け付けております。まずは発現者証発行のため、身分証明書のご提示をお願い致します」


 身分証明書の提示を求められ、トカゲは頭を抱えた。彼は現在この世界に来たばかりで、この世界の身分証明書なるものを所持していない。


「すみません、ボク記憶喪失っぽいんですけど、そのせいか身分証明書を持っていなくて。どうしたらいいでしょうか?」


「ああ、例の方ですね。でしたら、少々お待ちを」


 女性はカウンターの下に手を入れ、何かを漁り始めた。書類が擦れる音がし、やがて一枚の手順書のようなものが発掘される。


「えっと、申告の手順は……まずは現物確認……」


 女性はぼそりと言った後席を立ち、トカゲの前に移った。


「では同行を。ご案内します」


 女性の後を追うと、どうやら支部には地下があったことが分かった。地下階へと続く階段を下る。壁に所々(くぼ)みが設けられ、そこに照明の火が灯っていた。少し埃っぽく、空気も重い。あまり日常的に使われていないことが伺える。


 地下の一室に案内されると、部屋の中には甲冑(かっちゅう)に身を包んだ職員が一人待機していた。甲冑(かっちゅう)の背後にはガラス張りの壁があり、その奥には別の部屋がある。

 女性職員は甲冑(かっちゅう)に軽く会釈すると、調査対象の方へと向きを直す。


「この後、堕魂(だこん)と戦っていただきます。アニムの証明に最も有効な手段ですので、始めは()()()()()()()()()()戦っていただきますよう、お願いします」


「霊力で戦うって? アニムなら昨日使ったんですけど、そちらの話はまだよく分からなくて」


 基礎中の基礎を尋ねて来る相手に、甲冑(かっちゅう)は首を傾げた。


「手足や武具に霊力を通すんです。堕魂(だこん)は一度死んだ魂ですから霊体、よって同質である霊力でないと干渉出来ないのですよ。霊力の(こも)っていない、ただの物理的な攻撃をしても意味がありません」


 話が大きく逸れると、女性職員が割って入って軌道修正を試みた。


「そちらの話は今は関係ありませんから、取り敢えずは調査に移りましょう」


 するとトカゲは軽く難色を示した。


「まあしょーがないけど、堕魂(だこん)の相手って絶対にしないとダメな感じ?」


堕魂(だこん)の相手は危険が伴いますが、強制です。国からの命令ですから」


「ケガとか大丈夫なの?」


「ご安心ください。試験で戦う堕魂(だこん)は以前他の発現者が捕らえ、弱体化させたものですよ。有事の際はそちらの職員が救援に入りますので」


 鎧の職員が頷く。


「はぁ……やるしかない感じ、か。堕魂(だこん)と戦うのは初めてだから、言っても不安なんだけどね」


 流されるがままに事態は動き、トカゲは納得する前に強引にガラスの奥の部屋に放り込まれた。目の前には檻があり、中には既に堕魂(だこん)と思わしきものが隔離されている。

 堕魂(だこん)は狼のような見た目で、威嚇するように吠えていた。ガッツが倒した堕魂(だこん)と同じく、血のような匂いがしている。


「では、堕魂(だこん)を解放します。お気をつけて」


 事務的なやり取りの終了を告げる扉の閉まる音。

 完全に聞こえていないことを確認してから、皮肉を垂れる。


「お気をつけてって……まあ、随分と他人事(ひとごと)だこと」


 面倒くさいと思いながらトカゲは左手を振り、カードを呼び起こす。同時に鉄格子が上がり、狼は飛び掛かって来た。

 しかし弱体化というのは本当のようで、明らかに見た目にそぐわぬ鈍くささ。加えて飛び掛かってきているはずなのだが、十数センチほどしか跳べていない。


「乱暴なご挨拶だね! 危ないなー」


 トカゲは飛び掛かり攻撃を回避するとカードを一枚左手から引き抜き、標的目掛けて投げ放った。

 カードが標的に近づくと、カードは消え、代わりに堕魂(だこん)の耳が微かに炎上した。しかし燃えたのはあくまで耳だけで、ほとんどダメージになっていない。それどころか、足止めにすら遠く及ばない。


「おかしいな、昨日は斬撃だったと思うんだけど」


 もう一枚引き抜き、宙に投げ渡す。

 すると今度は何か途轍もなく巨大な物体が落ちたかのように、堕魂(だこん)の体は叩き潰された。堕魂(だこん)の欠片らしきものが床に飛散し、やがて蒸発したように消えていく。


  アニムは傾向として、過去に同じ性質を持ったものが発現することが多い。血筋や遺伝などは一切関係なく、何百年かに一度、過去に確認されたものと似た性質のアニムを発現する者が現れる。

 しかし今回の発現者は、過去に報告されたことのないアニムを有していた。資料にも記載がなく、完全に前代未聞のアニム。


 奇妙な事態に出くわした女性職員と甲冑(かっちゅう)の職員は、ガラスの壁の奥にいる少年を見てから互いに顔を見合わせた。


「彼のアニム、何か分かります?」


「いーや、分からない」


 頭を悩ませながら、二人はコンコンと扉が叩き、外から被験者を呼んだ。


「これにて今日の確認は終了します。一度お戻りください」


 待機室に戻ると、甲冑(かっちゅう)の職員が兜越しに話しかけてきた。


「見事な戦いぶりだったよ。お疲れ様。現状分かったことは左手を振るのが発動条件、ということだけで、能力の詳細は不明みたいだね」


「ですので、本日は解散として、ゆっくりお休みになってください。明日以降も引き続き調査を行いますから」


 内心また堕魂(だこん)と戦わされるのは面倒だと思ったが軽く会釈をする。帰り道は女性職員が先導することはなく、トカゲは一人で元来た道を辿って地上階へと上がるのだった。

今日の一言:明日は全部で3話投稿します。お楽しみに。


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