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第33話 幹部一掃作戦 — 麻痺の宴

0 避難と準備


夕暮れ。王都は静かに片付けられていった。リディアの拡声魔法で避難の声が国中に届き、子どもたちや老人は手際よく安全な場所へと送られる。店の戸は閉められ、荷物は屋根裏へ。夜の通りは、ほとんど人影がない。


城では慎重な準備が続いた。ユリウスは薬師に最終確認をする。

「分量を守ってくれ、意識は残したい。筋肉だけを止めたい。」

薬師は頷き、暗闇の中で樽に静かに薬を混ぜる。給仕に見える者はすべて影の守り手に差し替えられ、広間へと散っていった。


ゼノヴァンは影を引き締めて壁際に潜み、ラウドは符を結んで隠しの結界を整える。酒宴は「歓迎の晩餐」として仕立てられ、幹部だけが集まる場となる予定だ。



1 仕掛け


王太子アウグスベルグは使節二名と短く言葉を交わす。

「ゼノヴァン、ラウド。頼む」


影がじわりと伸び、黒い符が静かに宙を描いた。二人の胸の辺りに淡い光がまとわりつき、顔色が変わる。冷たい汗が額を伝う。


ラウドは低く言い放つ。

「裏切れば、心臓は内から爆ぜる。死の痛みが一瞬なのは救いかもしれぬがな」


ゼノヴァンの声は静かだが確かだった。

「悪意は逃さぬ。隠れても意味はない」


二人は震えを押し殺し、役を演じるしかなかった。彼らの仕事は幹部を「歓迎の晩餐」に誘い出すこと。幹部だけを一箇所に集めるための、辛い役目だ。



2 誘い


夜。城の離れに作られた大広間には、将軍や軍団長、部隊長など、約百名の幹部だけが列席した。華やかな飾りと豪勢な料理。酒杯は次々に重ねられ、幹部たちの高慢な笑いが響く。


「小国が調子に乗るとは面白い」

「幹部だけで揃って、謝罪でも聞くのか」


誰一人として一般兵は来ていない。幹部たちだけが招かれたのだ。彼らはそれを当然と思い込み、鼻で笑い合う。


庭の影ではゼノヴァンが静かに周囲を見渡す。逆光の中で彼の瞳がわずかに光る。ラウドは見えない糸に符を結び、封印のトリガーを仕掛けていく。梁に潜んだ影の守り手が合図を待つ。



3 開宴と異変


杯が繰り返され、幹部たちの嘲り声が更に大きくなる。使節二人は震えながら笑顔で酒を注ぎ続ける。料理は皿へ。会話は下品に、開き直りに満ちていた。


だが、やがて一斉に異変が起きる。筋肉が重く、思うように動けなくなる。声は出るが、体が言うことを聞かない。寿司の箸が滑り、杯がしかめ面とともに止まる。


「体が……動かん!」

「これは毒か?」


麻痺が回ったのだ。意識ははっきりしているが筋肉は固まる。広間の空気が静まり返り、嘲りは恐怖に飲み込まれていく。


――その時、正面の扉が静かに開き、王太子、ユリウス、スラウザー、ゼノヴァン、ラウドが入ってきた。晩餐は罠と化した。



4 反撃と切り伏せ


王太子は冷たく言った。

「お前たちが民にしたことは、すべて記録されている。ここで精算する」


一瞬の沈黙のあと、麻痺が効ききらなかった幹部の中から数名が無理やり立ち上がり、剣を掴もうとした。反射的な行為だ。だが動ける者は僅かだった。


その中で五名が反撃に出る。叫びを上げ、剣を振るう。だがそれは短く、激しい終わりを迎えた。スラウザーが飛び込むと、冷静さを失わずに一連の動作で切り伏せた。刃が閃き、幹部の攻撃は瓦解する。スラウザーの剣が走り、次々と仕留められた五名は石畳に倒れ、血が散った。


切り伏せられた瞬間、広間に静寂が降りる。残る幹部は硬直し、唇を震わせるだけだった。



5 大貴族の嫡子の屈辱


一人の男が、歪んだプライドを振り絞って叫ぶ。

「私はポルトスの大貴族の嫡子だ! この場で手を出すなら――」


王太子は淡々と答えた。

「それが、どうした」


男の顔色が真っ青になる。王太子はラウドに合図を送る。ラウドは片手を軽く振った。黒い符が一瞬光り、男の瞳が虚ろになる。


男は口から泡を吹き、倒れ込む。ラウドの術が彼の脳裏に流し込んだのは、一時間続くほどに激烈な悪夢。肉が裂かれ、骨が砕かれる幻が続き、男は白目を剥いて気絶した。


ラウドは冷ややかに吐き捨てる。

「一時間に抑えてやったのに、ギブアップか。大貴族の嫡子とやらの根性はその程度か」


その言葉に、幹部一同の表情がさらに引き締まる。震えが止まらない。



6 封鎖と記録


出入り口は影の守り手によって厳重に封鎖される。逃げようと身をよじる者の手が、光の縄で静かに固められていく。叫びは麻痺の中で高くなり、やがて力なく消える。


ユリウスは落ち着いて書記官に合図する。押収品、現場の証拠、被害の一覧が読み上げられる。

「王都西区における暴行四十二件、略奪三十一件、港区での器物損壊十五件、魔族への不当拘束・切り付け七件――」

名前を一つずつ挙げられるたびに、麻痺に震える幹部たちの顔が青ざめる。


使節二名は、任務を果たした安堵と虚脱で震えていた。裏切れば即死。演技で誘った罪の重さに二人は押し潰されそうになるが、かすかな誇りのようなものが彼らを支えていた。



7 ユリウスの激昂と問い


ユリウスはゆっくりと幹部たちの前に進み、冷たい眼差しを向ける。だがその顔には怒りの色が濃く滲んでいた。声はいつもの冷静さを欠き、震えと熱を帯びる。


「さて……あなた方は、この状況をどうするべきだと思いますか?」


広間にその言葉が落ちると、幹部たちの体がさらに小さく震えた。誰一人として反論する者はいない。唇を噛む音だけが小さく響く。


ユリウスの声はさらに続く。

「民を辱めた罪は逃れられない。ここで死ぬか、生きて償うか――選べ、外道どもが!」


その言葉は、広間にある種の刃のように突き刺さる。麻痺に捕らわれた男たちは、選択を突きつけられ、静かに屈するしかなかった。

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