第29話 止まる使節団、進まぬ半年間
1 出発のたびに
ポルトス王都の厩舎。
威風堂々たる馬車列が並び、豪奢な旗が翻る。
「これよりハイデニアへ向かう!」
使節団の団長が声を張り上げた。
――その直後。
空から影が落ちた。
「竜だ!」
小型の竜が群れで降り立ち、馬を威嚇する。
牙をむき、翼で砂を巻き上げ、列を乱す。
慌てて兵たちが剣を抜いた瞬間、竜は空へと消え去った。
「……まるで出発を妨げるためだけに現れたようだ」
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2 書簡の紛失
再度の準備。
使節団が王の書簡を手に厳重に封じ、馬車に積んだ――はずだった。
「な……ない!? 王の署名入りが!」
誰も触っていない。
鍵も壊れていない。
書簡だけが忽然と消えていた。
「これでは向かえん……」
団長の顔色は土のようにくすんだ。
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3 自然の猛威
三度目の出発。
王都を出て街道を走ろうとした瞬間、天が裂けた。
豪雨。
滝のような雨が馬車を叩き、土道を川に変える。
馬は嘶き、足を踏み出さなくなった。
「まるで、何かに怯えているようだ……」
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4 国内の災厄
国境へ向かう道中。
団員の一人が高熱で倒れた。
次々と咳が広がり、流行病のように団員が動けなくなる。
別の隊では、出発直前に「王の急な呼び出し」がかかり、国を離れられなくなった。
また別の日。
山間の街道で大規模な土砂崩れが発生し、馬車列が押し潰された。命は助かったが、全ての車両が使用不能になった。
さらに別の隊は、走り出して数刻で――
「車輪が……!?」
なんと、すべての馬車の車輪が同時に粉々に砕けた。
「呪いだ……!」
誰かが呻いた。
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5 ハイデニア国内で
ようやく国境を越えた使節団もあった。
だが待っていたのはさらなる試練。
雷。
突然落ちた稲妻が、馬車に直撃した。
別の一行は盗賊の襲撃に遭った。
普段なら返り討ちにできる戦力だった。だがその日に限って、盗賊は異様に手際がよく、兵を次々と無力化していった。
さらに。
突如として竜巻が道を塞ぎ、街道の木々を根こそぎ薙ぎ払った。
遠方では、火山が噴火した。
溶岩が流れ込むわけではなかったが、灰が空を覆い、行軍は不可能となった。
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6 ポルトス王の苛立ち
「また失敗だと?」
王座の間に重く響く声。
玉座に座るポルトス王は額に青筋を浮かべ、報告に膝をつく使節団を睨みつけた。
「小竜に? 雨に? 土砂崩れに? ……貴様らは旅芸人か!」
杖を床に叩きつけ、王は立ち上がる。
「勇者すら怯えたあの国を、このまま放置できるものか! 次はもっと人を出せ! 金を出せ! どんな手を使ってでも、必ずたどり着け!」
だが兵も役人も顔を伏せるばかりだった。
半年近く繰り返された災厄は、王都の誰もが説明できない現実だったからだ。
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7 半年の経過
こうして、ポルトスがいくら人を代え、経路を変え、準備を整えても――ことごとく失敗した。
「なぜだ……なぜ一度として成功しない……」
使節団は戻るたびに王の前で膝をつき、震えながら報告した。
王は声を荒げるが、次第に誰も使節を志願しなくなっていった。
そして、気づけば半年が過ぎようとしていた。
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8 ハイデニアの熱気とユリウスの驚き
一方、ハイデニア。
王太子は広場で民に告げた。
「見よ! 超大国の使節団は、いまだ我らの地に足を踏み入れられぬ!」
人々は拳を突き上げ、歓声を上げた。
「殿下の言葉は現実になる!」「我らの国は守られている!」
魔族も人間も、胸を張って叫んだ。
「半年で強くなる!」
その声は大地を震わせ、空へと響いた。
ユリウスは広場の端で額を押さえた。
(……本当に、ここまで現実になるとは……! もはや“ハッタリ”などという次元ではない。殿下の言葉は、国を、世界を動かしている……)
その驚きと恐怖に、宰相はしばし声を失っていた。
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こうして「王の苛立ち」と「ユリウスの驚き」を入れたことで、
外からは“呪いの国”に見え、
内からは“神の国”に見える対比が強まりました。




