第25話 強者たちの証明
王都の広場は、朝からぎっしりと人で埋まっていた。
今日は「子どもたちへの特別授業」の延長として、王太子の提案で模擬戦が行われることになったのだ。
見物に集まったのは子どもだけでなく、大人や魔族の民、兵士たちまで。みんながわくわくした目で舞台を見ている。
理由はただ一つ。
――ハイデニアと魔族、互いの力を披露する為だったからだ。
人間は魔族の本当の力を知りたい。
魔族は人間に自分たちの力を示したい。
そして、互いに不安を拭い去るために。
王太子アウグスベルグは壇の上に立ち、両者を見渡す。
「今日は互いを知るための日だ。力を誇るためではない。だが、隠すこともいらない。胸を張って、見せてほしい」
その言葉に、観衆は大きく頷いた。
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2 スラウザーと魔族幹部
まず前に進み出たのは、魔王軍の幹部のひとり――グロザム。
身の丈二メートルを超え、黒鉄のような筋肉を持つ巨漢だ。両手に構えた大斧は、並の人間では持ち上げることさえできない。
「俺と戦えるのは誰だ?」
低い声が響く。
スラウザーが一歩前に出る。
「俺が相手をしよう」
互いに笑い、剣と斧を構える。
――激突。
振り下ろされる大斧。受け止める剣。
火花が散り、地面が割れ、土煙が上がる。
「おおっ……!」
観衆が息を呑む。
互角だった。
剣と斧がぶつかるたびに轟音が鳴り、衝撃で兵士たちがよろめく。
グロザムの膂力は凄まじく、スラウザーも容易には押し切れない。
だが、やがてスラウザーの目が鋭く光った。
「ここからが本気だ」
一瞬で踏み込み、渾身の一閃。
グロザムは必死に斧で受け止めたが――
――ぎぃん!
空気が震え、次の瞬間、大斧が弾かれて地面に突き刺さった。
「……ぐ、ぬ……!」
グロザムの両腕が痺れ、力が抜ける。
スラウザーは剣を下ろし、肩に手を置いた。
「見事だった。だが俺が一枚上だったな」
悔しさを隠さぬグロザムは、それでも清々しい笑みを浮かべた。
「……強い。確かに、魔王軍幹部と並ぶ強さだ」
観衆は大きな歓声を上げた。
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3 ゼノヴァンの力
次にゼノヴァンが進み出た。
守護竜となった彼は、人型で壇に立ちながらも、竜の威圧感を隠さなかった。
「俺の力を見せよう」
そう言って振り向くと、遥か彼方の岩山を指差す。
口を大きく開き、紅蓮のブレスを放った。
――轟音。
炎の奔流が一直線に走り、岩山を抉り取った。
数息ののち、山の一部が崩れ落ち、砂煙が立ちのぼる。
子どもが怯えた声をあげる。
「あそこで暮らしている生き物さんが、死んじゃったの?」
ゼノヴァンはすぐに答えた。
「心配はいらん。あそこには人も生き物もいない。だから選んだ」
子どもは安心したように頷き、観衆は息を呑んだままゼノヴァンを見つめていた。
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4 魔王の戦闘形態
最後に魔王が前へ進み出る。
普段は小柄な体だが、この時はゆっくりと姿を変えた。
筋肉が膨張し、背丈は二・五メートルにまで伸びる。
圧倒的な威圧感。観衆は息を詰めた。
「これが、戦闘形態だ」
魔王は静かに言った。
そして両手を掲げ、空に向かって詠唱する。
次の瞬間、光と炎が混じった矢が生まれ、天に撃ち放たれた。
攻撃魔法――勇者しか使えないとされてきた術。
ユリウスが目を見開く。
「……その力があれば、人間に抗えたのでは?」
魔王は首を振った。
「強くても、数には勝てん。毒も効く。人質を取られれば何もできない。やりようはいくらでもある。……俺たちは戦いは好きだが、殺し合いは好まない。今日これを見せたのは、スラウザーやゼノヴァンと共に戦えると知ってもらいたかったからだ」
その言葉に、広場は静まり返った。
そして、誰からともなく拍手が起こり、やがて大きな歓声へと変わっていった。
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5 それぞれの想い
王太子は壇の上で皆を見渡した。
人間も魔族も、互いに力を認め、驚き、そして笑い合っている。
(……これでいい。力を誇るのではなく、互いを知ることが大事だ)
スラウザーは剣を収め、グロザムと握手を交わした。
ゼノヴァンは子どもに「怖くなかったか?」と笑顔を見せた。
魔王は変化を解き、静かに観衆を見つめていた。
ハイデニアの広場には、確かな熱気が生まれていた。
6 外交の影
だがその熱気を、遠くから冷静に見つめる影があった。
観客に紛れ込んでいた他国の密使だ。
「人間と魔族が共に暮らし、守護竜まで従えている……。これは脅威だ」
彼はすぐに馬を走らせ、国境へ向かって駆け出した。
ユリウスはその背に気づき、王太子へ耳打ちした。
「……見られましたね。追いますか?」
王太子はにやりと笑った。
「構わん。来るなら来い。ハッタリで迎え撃ってやるさ」
宰相は頭を抱え、ぼそりとつぶやいた。
「胃がもたん……」




