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第18話 交錯する刃と意思

数日前。

国境付近に出ていた斥候が、泥と血にまみれながら王都に駆け込んできた。


「ま、魔族の軍勢がこちらに向かっている! 数は少ないが、一人ひとりが強すぎる……!」


兵舎に詰めていた兵たちは一斉に立ち上がり、ざわめきが広がる。

「魔族……本当に出たのか……」

「嘘だろ、あれは伝説の脅威じゃ……」


報告を受けたユリウスは蒼ざめながらも即座に王と王太子に駆け込み、王都は緊急の警戒態勢に入った。


その知らせは瞬く間に民の間にも広がった。

「逃げた方がいいのか?」

「いや、逃げ場なんてない……」

「子どもだけでも……」


家々の扉が閉ざされ、街道は静まり返った。

普段賑わう市場も閑散とし、ただ兵士たちの鎧の音だけが響いていた。



2 魔族の動機


城壁の上に立つ王太子アウグスベルグは、遠くに揺れる黒旗を見つめ、眉をひそめた。

「……思ったより早い。だが、なぜ魔族がわざわざ遠い国から? ここに来る理由が見当たらん」


隣のゼノヴァンが静かに口を開いた。

「……心当たりはある。かつて魔族の使いが私に接触してきた。『どこかの国をお前が滅ぼしたなら、その跡地に我らを住まわせてくれないか』――そう頼まれたのだ」


「……!」

ユリウスが絶句する。


ゼノヴァンは空を仰ぎ、低く唸る。

「その時は断ったが、奴らは私が人間を憎み続けていると信じているのだろう。だから、滅ぼす国を求めて私に縋ろうとした。だが私は……この国を守ると決めた」


王太子は小さく頷く。

「つまり、まだ“昔のゼノヴァン”だと思い込んでいる……か」



3 睨み合い


やがて魔族の軍勢が王都を望む丘に姿を現した。


兵士たちは矢をつがえ、剣を握りしめる。

その手は汗で滑り、震えが止まらない。


魔族の姿は圧倒的だった。

人間の二倍以上の背丈を持つ巨漢。膨れ上がった筋肉は岩のように盛り上がり、皮膚は鱗や石のように硬そうに見える。

獣じみた牙を剥き、額からは鋭い角が突き出ている。

背からは黒い翼を広げ、ただ羽ばたいただけで砂煙が舞い上がった。

血走った目は赤く光り、吐息は硫黄のように重苦しい匂いを撒き散らす。


「な、なんだあれは……」

「剣なんて通じるのか……?」

兵士たちの喉が鳴る。


その中心には、ただ黒衣を纏った小柄な青年の姿。

だが、その身から放たれる気配は群を抜き、兵も魔族も言葉を失った。


王太子はその視線を受け止め、一歩前へ進む。

「魔王よ。お前は――本当は戦いたくはないのだろう?」


兵も魔族も一瞬、息を止めた。

魔王の瞳がわずかに揺れる。

「厄災の竜を追跡するまでは良かったが、まさか人間と共闘しているとは―。仮にハイデニアに勝っても我らは奴に滅ぼされてしまう…。」悩んだ末に答えようとした――その時。



4 暴走


「魔王様、今こそ攻め落とす時だ!」

数名の魔族が叫び、勝手に前へ出た。


「やめろ!」

魔王の制止は届かない。


黒い炎が放たれ、地が爆ぜる。

轟音とともに城壁が揺れ、兵士の列が崩れた。

熱風が吹き荒れ、兵たちの顔が赤く焼ける。


「ひっ……!」

悲鳴が連鎖し、恐怖が広がる。



5 応戦


「やらせねぇよ!」

スラウザーが巨躯を揺らして飛び出した。


大剣を振り下ろすと、目の前の魔族が吹き飛び、地面を転がる。

さらに二人、三人と薙ぎ倒し、兵士たちが歓声を上げた。


「団長だ!」

「まだいける!」


スラウザーは血まみれになりながらも立ち続けた。

「来いよォ! 俺はまだ倒れねぇ!」


続いてゼノヴァンが竜へと変じ、咆哮を放つ。

空気そのものが震え、魔族たちの耳から血が噴き出す。

爪を振るえば地が裂け、十人単位の魔族が吹き飛んだ。


「すげぇ……!」

兵士たちの目に光が戻る。


だが――



6 混戦


やがて戦場は入り乱れた。

人間と魔族が至近距離でぶつかり合い、剣と爪と牙が飛び交う。


ゼノヴァンが爪を振れば、味方の兵も巻き込む。

炎を吐けば、自軍をも焼いてしまう。

「ぐっ……!」

ゼノヴァンは力を抑えるしかなかった。


スラウザーも最前線で奮戦するが、魔族の巨体に剣を受け止められ、押し返される。

「はぁっ……くそ……!」

肩で息をし、足取りが重くなる。


兵士たちも風や影を必死に使う。

影が魔族の足を絡め取り、鳥が上空から急降下し、虫が群れとなって顔や目を覆う。


「ぐぬぬっ……!」

魔族の動きは確かに鈍る。だが、それでも止まらない。

皮膚は鋼のように硬く、影の刃では切り裂けない。

鳥や虫は一瞬の隙を作るだけ。


「これが……魔族……」

兵士が歯を食いしばる。


努力は確かに効いていた。

だが、圧倒的な力の差を覆すには、まだ足りなかった。

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