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後編

何でも願いが叶う、虹色の石を拾った啓太。

石が叶えてくれる願いは残り一つ。

しかし、今までの願い事が、啓太の日常を少しずつ狂わせていた。

 次の日、目が覚めた啓太は真っ先に石を机の引き出しの奥に隠した。誰にも見つからないよう、出来る限りの工夫を凝らして石を隠した。

 啓太は、石の持つ力が怖かったのだ。


 しかし、日にちが経つにつれて、少しずつ石への恐怖が薄まると、啓太の中に別の感情が湧き上がってきた。

 何でも願いが叶う石。

 どんな事をお願いしようか。

 学校で一番の人気者になりたい、頭が良くなりたい、大金持ちになりたい。

 考えれば考えるほど、叶えたいことが次々と浮かんだ。

 石のことを想う時間が増えていった。


 学校が休みになってから3日後、ここ数日は、小雨が降り続いていた。

 啓太は、ここ数日土砂に埋もれた学校の復旧のために、朝から晩まで働き続ける父のことを心配していた。一日でも早く、学校を元に戻そうと必死な父の姿に、啓太の心は痛んだ。


 その夕方。

 父を除く家族三人で夕飯を食べていると、家の電話が鳴り響いた。

 すぐさま母が電話に出た。いつも明るい母の声が、次第に沈んでいった。


「お父さんが、怪我をしたみたい」


 学校の復旧現場で、事故があったらしい。怪我の程度はわからず、すぐに母が病院へ向かった。

「僕のせいだ。僕が学校がなくなればいいなんて思ったから」

 啓太は、急いで自分の部屋へ向かうと、机の中を引っくり返した。

 ハンカチをほどいて、石を取り出し、啓太は目を疑った。

 真っ赤だった石は、その色を失っていた。


「――な、なんでだよ。まだ願い事してないのに……」

 啓太は石を持って、家を飛び出した。

 石を拾った洞穴に、もしかしたら別の虹色の石があるんじゃないかと思ったからだ。

 

 薄暗い山の中を、雨でぬかるむ坂を、何度も転びながらも駆け上がる。

 額に浮かぶ水滴が、小雨なのか汗なのかわからないほど全力で走り続けた。

 やがて、啓太は洞穴にたどり着いた。そして、素手で洞穴の中を掘り返して、何度も別の石を探した。

 でも、虹色の石はもう見つからなかった。

 次に啓太は輝きを失った石を洞穴に戻した。しかし、何の反応もない。

「戻ってよ……。お願いだから、元に戻ってよ」

 涙声で石に語りかけても、ただ時間だけが過ぎ去っていった。

 

 その時、滲んだ啓太の視界の端に、きらりと光るものが映った。

 慌てて振り向いた先、洞穴のある急な斜面の上のほうに、一輪の花を見つけた。

 その花は、啓太が石を拾った日に見つけた、七色に輝く花だった。

 この前、自分が谷に落ちたせいか、それともその後の地滑りのせいか、花は根元を剥き出しにして土の上に横たわっていた。

 四つん這いになって斜面を登る。手に取った花には、最初に見たときのような虹色の輝きは残っていなかった。

 ただ、色を失ったその花びらの一つに、本当に僅かな赤みが残っていることに気がついた。

 啓太は、ギュッと目を閉じて、花に願いを込めた。

 心の中で、最後の願いを想った。

 閉じたまぶたの向こうに、啓太は輝きを感じたが、そこで啓太の意識は途切れた。



 ……セミの鳴き声が聞こえる。

 うるさいなぁ、そう思いながら啓太は目を覚ました。

 辺りを見渡すと、いつも遊んでいる山の中であった。

「あれ、なんでこんな所で寝てたんだ?」

 そう思って時計を見る。時刻は夕方になるところだった。

「あ! かーちゃんからおつかい頼まれてんだった!」

 少し風邪気味の妹のために、薬局で薬を買って帰るよう言われていたのだった。

 急いで、尾根に沿って山を駆け下りる。夕飯までにはおつかいを終えて家に帰れるだろうと啓太は考えた。

 するとその途中、視界の端に何かキラキラ光るものを見つけた。

「ん? なんだ?」

 啓太は一瞬、立ち止まって確かめようかと考えた。しかし、今日に限っては早く家に帰ろうという気になった。

「……ま、いっか。早く風邪薬買って帰んなきゃ」

 今の出来事などすっかり忘れ、啓太は再び走り出した。

 夏の温かな空気を感じながら、家路を急いだ。 



12歳の少年を描くって難しいですね。

もっと子供っぽく書ければ良かったんですが、ちょっと大人びた子になってしまいました。


願いを叶える石を手にした少年は、どんなことを願うだろうか。

悩んだ末、このような物語が生まれました。


最後、ちょっと駆け足になってしまうのが僕の悪いところかもしれませんが、楽しんでもらえたら嬉しいです。

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