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<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

抱いて欲しくば、跪け。だけど、俺は悪くない。

作者: 紡里

「土下座しろ」と書きたかったのですが、ナーロッパなので「跪け」にしてみました。


暴力や性的描写があります。

主人公が自分勝手で共感できず、不愉快に感じる方もいらっしゃると思います。

苦手な方は、申し訳ありませんが、ページを閉じてください。(R15)


「抱いて欲しければ、跪け」

 初夜に、新郎が新婦に命令した。


 伯爵家子息の自分が、格下の男爵家に婿入りしてやるというのに。

 この女は、式直前の両家の最終確認の場で、俺の品質保持費を超えた出費は実家が支払うよう「浪費補填条項」を結婚契約に追加させたのだ。


 さらに、恋人と別れろ、結婚前に婚家のツケで買った贅沢品は支払わないと言い、俺に恥をかかせた。

 両親はその場で床に額をつけて謝罪し、家に帰ってから説教された。


 父は結婚式があるから殴れないと睨み、母には結婚式まで家計の勉強をさせられた。

 兄は、この家を潰す気か。自分と父がどれだけ苦労しているか考えろと、木剣をつきつけて脅された。

 この家のために売り飛ばされる、犠牲者の俺に向かって、よく言えたもんだ。


 ……恋人に別れを言う暇もなかった、俺は悪くない。



 そんなこんながあっての、冒頭の台詞である。


 花嫁は、鼻に皺を寄せて、俺を射貫くように見た。生意気だ。


「男子がいない家の長女として、仕事として、私だって我慢しているのよ。自分だけ被害者ぶるのはやめてほしいわ」


 その言葉に、俺はカッとなり、家を飛び出した。

 当然、向かう先は恋人の元だ。



 久しぶりの逢瀬に、盛り上がった。

 やはり、女は可愛げが無ければ、な。



 翌日、反省したかと婚家に帰ってやったが、嫁は部屋に籠もっているらしい。

 いつも嫁にぴったりと寄り添っている秘書官が、しれっと言う。

「初夜の翌日は、そういうものだ」と。


 俺が今、外から帰ってきたのを知っているのに?



 見栄を張って、愚かなり!

 そういうことに、したいのか。恥ずかしくて、家の者にも言えないよな。

 初夜を終えてから俺が外出したとか、辻褄を合わせているわけか。


 惨めだな!

 金を儲けるのはうまくても、二代前に貴族になったばかりの家など、こんなものだ。



 俺は美味しい朝食をいただいてから、また恋人の元に戻った。


 気が向くときに嫁の家に行き、食事を取りながらなにやら書類に署名をする。

 嫁に嫌味を言われて、恋人と憂さ晴らしに買い物をする。

 必死に稼いだ金を浪費してやるんだ。




 そんな生活が三ヶ月経ったころ、父と兄が血相を変えて、俺と恋人の家に来た。

 結婚してから、俺が借りてやった居心地のいい家だ。



 今度は遠慮なく、父に殴られた。

 テーブルにぶつかって、派手な音を立てて俺は床に転がった。


「あの最終確認のときに、破談にしておけばよかった! この馬鹿もんが!」

「そうしてくれたら、よかったのに! 俺を犠牲にした、当然の報いだ!」

 あまりに理不尽な言葉に、怒鳴り返した。


 恋人が、う~う~と唸っている。

 痛む頬に手を当てながら、そちらに目を向ける。兄が恋人を縛り上げ、猿ぐつわを噛ましている。

「何してるんだ!」


 兄は嫌悪の表情を隠さなかった。

「お前たちの散財のせいで、爵位返上の危機だ。

 こいつの実家にこいつが浪費した分の支払いを要求したら、払えないから娼館に売り払ってくれと言われた。お前が入れあげるだけのことはあるな。

 どうぞ、入室して結構ですよ」

 扉の外に呼びかけた。


 がたいのいい男が二人、にちゃりと気持ち悪い笑顔の男を先頭に入ってきた。


「ほうほう、これはこれは」

 舌なめずりしながら、彼女の顎に手をかける。

 男の一人が彼女を押さえつけ、もう一人が彼女の服を丁寧にむいていく。

 彼女が暴れてもびくともせず、首を振って涙を流す。


 俺は、床に座ったままそれを眺めるしかない。



「では、これくらいで」

 いやらしい男が小切手を切り、父はうなずいて受け取った。


 恋人を肩に抱えて、三人の乱入者は去って行った。

「な……ど、どこへ……」

「変態紳士、御用達の秘密倶楽部だ」

 兄が吐き捨てるように言った。



 次に廊下が騒がしくなったと思ったら、家具や宝飾品を買い取る業者がどやどやと入ってきた。


「まあまあまあ、こんな贅沢品を。

 お気の毒だが、この先もご贔屓に……とは、いかないんで、色は付けられませんぜ」

「……承知している」

 父が沈痛な面持ちで応えた。



「たかが男爵家と同じレベルの家具だ……」

 俺が力なくつぶやくと、兄に蹴飛ばされた。


「五十年前の、国難を乗り切るための大金を融通して叙爵された方々だ。

 国家予算に匹敵する売上げを持つ商会を、我が国に縛り付けるための爵位。金で爵位を買う、そこらの男爵風情とはわけが違う。

 生活レベルなど侯爵家に匹敵するわ」

 父は俺をかばうこともせず、責めたてる。いつも、そうだ。

「我々は資金援助をしてもらい、半年くらいで新婚生活が落ち着いたら、彼らに貴族社会の暗黙の了解を教える……そういう約束になっていたんだ」


「お前一人が犠牲に? 私の妻を見てもそう言えるのか?」

 兄が憎々しげに吐き出した。


 そうだ、兄も持参金だけの、すごい女性と……。

 友人にからかわれて、「兄上の趣味を疑うよ」と愚痴った記憶が蘇る。



 家具が運び出され、父は金貨の入った袋を受け取った。

「買い取りでこんなに……一体、いくら払ったんだ。一リィンも稼いだことのない穀潰しが」


 父の嘲りに、顔が赤くなった。

「俺を売り払った結婚契約金があるでしょう?!」

「お前の三ヶ月の散財で、そんなもの吹き飛んだわ。領地の立て直しに使う予定だったのに」

 大きなため息に、血の気がひいた。


「……ようやく理解したか。この愚か者め。

 払いきれない分は、タウンハウスで許してもらった」


 父上は何を言っているんだ?


「我々はこの足で領地に向かう。さあ、父上、参りましょう」

 肩を落とし、急に老け込んだ父を促して、兄が出て行こうとする。


「先祖代々のお屋敷を、どうしたのですか? 我が家の誇りが詰まった、あの家を!」

 我が家の歴史や過去の栄光は……。


「……お前の嫁が住むそうだぞ」

 兄の恨みが詰まった視線に、心が凍り付いた。


「そんなの、お家乗っ取りだ!」


「何を言っているのだ? 家屋と血筋の話を混同するな。

 それに彼女がお前の子を産むのだから、我が家の歴史をお前が語り継いで……」


「俺は、あいつを抱いてない!」

 兄の言葉を遮ると、父が急にシャキッとして胸ぐらを掴まれた。


「何? 今、何と言った?!」

 鼓膜が痛くなるほどの大声。ぷるぷると震えて、父の血管が切れるのではないかと恐くなる。


 青ざめた兄が俺の顔をじっと見つめて……笑い出した。

「ああ、そうか。お前、あの秘書官と髪も目も同じ色だな!」


 父はさめざめと泣き出し、兄は気が狂ったように笑い続ける。



 兄は笑いをとめて、真顔で忠告してきた。

「屋敷を取られ、寝取られた? 

 恥の上塗りをしたくなければ、黙っていろ。

 言った途端に、お前が『貴族の勤めを果たしていない』と笑われるだけだ。

 誰もお前に同情などしないぞ」


 兄は父の背中に手を添え、何もなくなった部屋を横切って入り口まで辿り着く。

 このまま出て行ってしまうのか?


「あの、俺はどうしたら……」


 兄は首だけで振り返って、苦笑いした。

「さあな、好きにしろ。お前はもう、我が家の人間ではない。

 お前が馬鹿にしていた、私の妻は、領地についてきてくれるんだ。

 今も、母上が滅多なことをしないように貼り付いてくれている。家族って本当にありがたいよなぁ」


 その中に、もう、俺の居場所は……。

「あ、母上に一目……」


「やめてくれ。錯乱状態で暴れだしたら、父上と私でも押さえるのに一苦労なんだ」

 兄は、もう振り向かずに、出て行った。



 ――俺の妻に、跪いて謝ったら……許してくれるだろうか。


昨日の夜、寝入りばなにふと思いついた話です。

改めて書いてみると……再生不可能なクズですね。

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― 新着の感想 ―
この男がどうなるのかわからない。元伯爵家(嫁の家)の離れにでもいるのか。嫁が不貞で妊娠してても伯爵家の次男の子として育てられるのだろうけど、爵位がもらえるならそっちを名乗らせればいいし
うわぁ初手で両親に土下座させてるし反省しないしとんでもないクズですね…。 父親に殴られるシーンはスカッとしました。 クズ以外の伯爵家が可哀想。
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